東京都知事選で小池百合子氏が再選された。まるで神様のノートに最初から予定が書き込まれていたようにさえ感じられる。
今後、小池氏は自らが蒔いた種を刈り取ることになる。第一に彼女を巡る環境は大きく変わりつつある。第二に蓮舫氏や石丸氏に後始末を押し付けないのは良かった。第三におそらくそれについて最もよく知っているのは小池氏本人なのではないか。
小池氏の政治はケーキに例えることができる。賞味期限が切れかけているケーキ(自民党型政治)に生クリームをトッピングして売り出したのが小池氏の成功だった。最初は自民党と男性中心の政治に対する漠然とした対立軸が会ったが、その全体像は曖昧だ、また「公約が達成された」という主張とは裏腹に情報も公開されていないものが多いそうだ。また都民ファーストも「自民党が都市で勝てなくなりつつある」ということを意味している。都民ファーストは確かに「自民党ではない」のだが何が違うかを問われても「さあ」としか言えない。
石原都政で積み上げてきた余剰金を使いつつ成果を上げているように見せたうえで国政に復帰するというのがそもそもの小池氏の計画だったのではないか。
今回の都知事選挙ではいくつか大きな変化が起きている。
まず成長なき現状で「燻っている人たち」が全体の1/4に膨らんだ。つまり生クリーム程度ではケーキの味のまずさがごまかせなくなっている。石丸伸二氏は今後も自民党政治の破壊者としての階段を登りつつある。今度は岸田総理の選挙区である広島1区からの立候補を狙っているそうだ。
自民党は議会選挙(補選)で大敗した。自民党が勝ったのは板橋区と府中市だけだったそうだ。石丸氏の活躍は「自分たちが社会で活躍するためにはもう手札を全部交換してもらうしかない」と考える人達が増えていることを示唆している。
だが、もっと大きな経済的変化が起きている。
小池氏の政治についてみていると「都市開発」に関わるものと「広告代理店優遇」が目立つ。広告代理店はテレビを通じてあまり政治に興味がない現状維持層に影響力を持つ。これらはどんな意味を持つのか。
無党派層をつなぎとめるためにはイメージの維持が大切だがそれにはお金がかかる。東京オリンピックはスポーツマーケティングに期待する広告代理店の大きな収入源だった。ネットに負けつつある彼らは代替の収入源を必要としている。プロジェクション・マッピングのように一見無駄なものに投資をしたのはこのお金の流れを途切れさせないためだろう。
だが、石丸氏に期待を寄せる「燻った人」が増えるとこれらは無駄なものと断罪される。燻っている人たち代表の石丸伸二氏は「即刻中止ですね」と断言していた金の切れ目は縁の切れ目である、小池氏に取ってみれは金の切れ目は縁の切れ目である。
全国で例外的に一極集中が進む東京では都市開発に対する需要が高まっている。衰退する地方に投資をしても儲からないが東京都は例外だ。小池都知事は好むと好まざるとにかかわらず土地デベロッパーとの関係をこれまで以上に深化させてゆく必要がある。
経済不調に陥った中国では資産の海外逃避傾向が高まっている。現在の主な逃避先は香港である。仮に「東京の土地は一極集中に伴って値上がりする」という期待が高まるとこのチャイナ・マネーが東京に流れ込むことになるだろう。すると庶民が家を買ったりビジネスが東京の中心に会社や店舗を構えることが難しくなる。
実際に文在寅政権下のソウルでは投機熱による住宅価格の高騰問題が起きていた。この不満が政権交代の一つのきっかけになったと言われている。李在明共に民主党代表は城南市長時代の土地取引の問題で疑惑を抱える。
今回の選挙戦では蓮舫氏がすでに反開発のリーダー的存在となっており「疑惑の一端」を掴んでいるとしている。仮に東京で不動産価格が高騰すれば蓮舫氏らの主張に共鳴する人も増えてゆくだろう。
実は東京都知事選の論点はこれからじわじわと小池都政を変質させることになる。
だが政治家には「出口戦略」というものがある。
過去に豊洲市場の問題(東京ガスが持っていた土地で有毒物質があったにも関わらず魚市場を作ろうとした)の問題で石原慎太郎都知事が追い詰められたことがあった。石原慎太郎氏は「国政に転出する」として東京都知事を投げ出している。これが彼なりの出口戦略だった。豊洲市場は開設され今では当時の経緯を覚えている人もいない。今ではかつての汚染土のあった場所が「新しい観光名所です」とテレビで取り上げられている。地上波・広告代理店とはありがたいものである。
その意味では小池さんも2期務めて「逃げ切れれば」よかったのだろうが、彼女はとりあえず今回は逃げそこねた。
小池都知事が二期の間崩れなかったのは東京都知事がゴールだとは考えていなかったからだろう。仮にこれがゴールだと考えていればそこからできるだけ富を吸い出そうとしていたかもしれない。しかし、蓮舫氏が出てきたことと岸田総理が解散を行わなかったことによって転出シナリオが崩れた。仮に蓮舫氏が東京都知事になり過去のスキームを掘り出せば大変なことになるかもしれないのだから秘密は自分で守るしかない。
つまり小池氏は自らの決断でも問題に関わり続ける判断をした。人の運命は外からはわからない。外からは成功に見られるかもしれない三選だが実はそうではない可能性があるが本当のことを知っているのは小池さんと一部の側近だけだろう。