ABCのジョージ・ステファノプロス氏がバイデン大統領に単独でインタビューを行った。民主党クリントン政権で広報担当大統領補佐官を務めていた人で今はABCでワシントン取材の責任者をやっている。つまり、今回のインタビューはABCの民主党レスキューという意味合いがあった。
心強い支援を受けてもなおバイデン大統領はこのチャンスを活かしきることができなかった。民主党のリーダーたちは冷静な対応を呼びかけているが、ここから民主党大会まで「バイデンおろし」が沈静化しない可能性が出てきた。
民主党と民主党支持者にとっての最大の懸念は「あの悪夢のトランプ政権」がもう4年間続くことだろう。高齢のバイデン大統領が候補者として選ばれたのは若い候補ではトランプ氏に勝てないとみなされていたからだ。
しかしバイデン大統領はその期待に答えることができなかった。政権末期にエグゼクティブタイム(テレビを見ながらTwitterをやって悪口を書きまくる「公務」のこと)を作っていたトランプ氏に付き合って24時間365日政敵を罵っているうちにすっかり疲れ果ててしまったようだ。
ジョージ・ステファノプロス氏は表面上は厳しい姿勢でインタビューに臨んでいるように見えた。だが、実際にはレスキュー隊の隊長という役割を担っていたものと見られる。ステファノプロス氏の経歴はアメリカではよく知られているため、彼の役割を公平だという人はいないだろう。彼は支持者たちに間に広がる健康不安を払拭する材料をバイデン大統領から引き出そうとしていたのだ。
なおABCはトランプ氏にもインタビューをオファーしたが断られたと主張している。
一見厳しい対応をして弁明のチャンスを与えるという手法はアメリカではよく用いられる。日本では蓮舫内閣府特命担当大臣(行政刷新担当)の「二位じゃだめなんですか」発言が炎上した。日本人は気が弱く自己主張に困難を抱える人が多い。このためアメリカでは普通に用いられる手法が通じないのだろう。
しかしながらバイデン大統領はこの疑問に直接答えることはなく、アメリカがさらされている脅威に目を向けさせようと躍起になっていた。おそらくこれを見た視聴者は「バイデン氏はごまかそうとしている」と感じたはずである。
これではステファノプロス氏もバイデン大統領を「レスキュー」することはできない。ABCはスタジオ解説の中で「今回のインタビューはテレビ認知検査ともいわれるが」と厳しい評価をしていた。国民の厳しい目がバイデン大統領に注がれているとの強い自覚がある。
日本では「あの」ニューヨーク・タイムズが撤退要請を出したと報道されていたがロイターには次のような記事が出ている。
バイデンおろしはしばらく収まりそうにない。なおバイデン氏はバイデンおろしなど起きるはずはないし自分を撤退させることができるのは神様だけといっている。つまり死ぬか立ち上がれないほど病状が悪化することがない限り撤退しないと言っている。
今回のインタビューでは評価できる点もある。
おそらく岸田総理はバイデン大統領の説得を受けて防衛費増額を決めている。ただ前提となる防衛増税について事前に調整していなかったこともあり(調整不足は岸田総理にはよくあることだが……)自発的に防衛費増額を申し出たということになっている。
バイデン氏は自分の成果を強調する場面で「自分が岸田総理から防衛費増額を引き出した」と正直に認めている。おそらく嘘を付く能力が低下し正直になっているのだろう。
官邸記者クラブ依存のマスコミがこれに慌てた。この件では官邸とマスコミは「共犯者」となってしまっているので今更バイデン氏に正直になられても困る。時事通信は「バイデン氏の失言だ」と決めつけている。
- 「日本に予算増加させた」 バイデン氏、また失言(時事通信)
NHKは「バイデン氏の認識が問われそうです」とごまかしているが実際に問われるべきなのは負担を求めるために正直にならなかった岸田政権とそれを擁護したマスコミの不誠実な態度だろう。
今回、日本の予算の増額を自身の実績として再び言及したことで、バイデン大統領の認識が問われそうです。
いずれにせよバイデン大統領は健康不安をごまかそうとして夢中で話している途中でこの話題に触れてしまっており岸田政権としてはちょっとした巻き込み事故になってしまった。
岸田政権はバイデン大統領の気持ちを繋ぎ止めて自身の評価を上げたかったのだろう。このため党内でも反発があった増税を前提とした防衛費増額を自ら差し出してしまったのだ。