昨日に引き続き「バカな政治家」についての議論を進める。バカの定義を再確認したうえで国と社会の安全が危険にさらされる実情について分析するのが今回の文章の目的だ。
海上自衛隊で特定秘密の情報漏洩が確認された。海上幕僚長は退任の予定だ。だが、その後の調査で自衛隊で広く蔓延していたことがわかっている。おそらく処分されるのは海上幕僚長だけでないだろう。
幹部の首を切ったところで緩みきった自衛隊の文化が良くなるわけではない。適切な目標設定ができないバカが国のトップとして居座り続ければ国民の苦労はこれからも続くのではないかと感じる。
- 護衛艦「いなづま」で2022年、当時の艦長が適性評価を受けていない隊員を「特定秘密取扱職員」に指名し特定秘密に当たる情報に触れさせていた
- 防衛省は今年4月、管理がずさんとして艦長らを停職などの懲戒処分とし、同様の事案がないか調査
- 海上自衛隊の護衛艦など多数の艦艇で、安全保障に関する「特定秘密」に指定された情報を、資格がない隊員に取り扱わせる不適切な運用をしていた
- 不適切な運用は常態化していた
ただしこの運用は海上自衛隊だけでなくその他の自衛隊でも蔓延していたようだ。こちらは共同通信から紹介する。
空自や3自衛隊の運用を担う統合幕僚監部、背広組中心の内部部局でもずさんな取り扱いをしていた疑いがあることが6日、政府関係者への取材で分かった
おそらく辞任するのは海上幕僚長だけではなくなりそうだ。統合幕僚監部でも問題が見つかっており法律(施行から10年経過しているそうである)の趣旨が全く共有されていなかったことがわかる。
複数の幹部を含む処分対象者が数十人規模になる可能性がある
法律の趣旨が「身内」である自衛隊にも共有されないまま、特定秘密保護法は民間にも拡大された。民間人も政府からプライバシーを調査され違反すると5年以下の拘禁刑の可能性がある「セキュリティ・クリアランス制度」が導入されたのだ。
背景にあるのはおそらくアメリカ合衆国の懸念だろう。日本の情報管理の甘さに疑念があり機密共有に消極的と言われる。
ここでバカの定義に話を戻そう。
イギリスの選挙の話から「バカは全体を分析しない」と書いた。イギリスは僅かなスウィングを最大限に利用するために勝てる選挙区には資源を投じず「がんばり」が必要なところに資源を回したのではないか。これがBBCの初期分析だった。このためには党が選挙資源を一括管理し戦略的に分配する必要がある。一方で日本の選挙は個人商店化しており各派閥が自派閥のプレゼンスを高めるために水面下でカネを配っている。情報が不透明化すれば逆に選挙コストは吊り上げられるだろう。
マイナンバーカードの話から「バカは目標を適切に定めない」事もわかった。マイナンバーカードにはIDカードと鍵機能が混在しており、カード所持は必須でもない。このため地方自治体は「持っている人」「持っているが意味がよくわかっていない人」「持っていない人」向けのサービスを展開する必要がありかえって事務コストが上がってしまっている。また健康保険証も実質強制だが義務化されていないため資格者確認証制度が残る。コスト削減の名のもとに制度が複雑化してゆく。
マイナンバーカード問題では目的さえ決めることができなかった政府だが、さすがに「おつかい」くらいはできる。
特定秘密法はアメリカから言われて作られた法律だ。だから目的そのものははっきりしている。しかし政府は「ルールを作ることが目的」と考えている。このため自衛隊の現場を調査し実運用に耐えうる制度設計をしなかった。また現場の自衛隊も「バレなきゃいいだろう」と考え法律の趣旨を理解しようとはしなかった。自衛隊内の士気にも懸念はある。
ここから考えると「バカ」の特徴は「そもそも目的が設定できず」「他人から設定された目標も理解しようとしない」という点にあるものと思われる。また全体像に関心が向かず細かいところにばかり気が向くというのもバカの特徴だ。
彼らは適切な目的を選ぶことはできないが国家経営者としてのプライドだけは極めて高い。麻生太郎副総裁は国民は国を支えて当然と不遜な発言を繰り返しており菅義偉前首相と茂木幹事長は外資系ステーキハウスで今後の国家運営について語り合っている。せめて彼らが食べた肉が円安の影響を受けにくい和牛であることを願うばかりだ。
さて、国家機密の問題はこれだけにとどまらない。そもそも目的を定めたうえで適切なリソース配分ができないのだ。
日本政府はアメリカの要望に従って業務委託先に「アメリカンスタンダード」の導入を求めている。機器の導入と基準の厳格化がその内容なのだが、実はそれを動かす人材が足りていない。この指摘もアメリカのNPOの試算によるものである。11万人の人材が足りないそうだ。
低成長で「頑張って高度な知識を得ても仕事が得られない」「きつい仕事をしても報われない」という状態が続いている。このためそもそもセキュリティエンジニアになりたがる人がいない。KADOKAWAグループはランサムウェアの攻撃を受けて業務に壊滅的な被害を出した。そこでセキュリティエンジニアを592-800万円というレンジで募集し世間の失笑を買った。確かに一般正社員としては破格なのだろうが、このギャランティで0を1にする仕事をやりなさいといわれても「いや、そんなの無理です」という話にしかならないだろう。しかし低成長が続く日本では人材にそれほど高い給料は支払えない。
そもそも全体の分析もせず目標設定もしないのだから国が主導して必要な人材を確保する総合計画など立てられるわけもない。影響は安全保障だけでなく我々が普段使っている生活インフラにまで及び始めているのかもしれない。
おそらく今回の事例でも国は問題総括はしないだろう。「自衛隊幹部の管理が悪かった」として自衛隊幹部の首を切って幕引きにするのではないか。このままでは国民の苦労は今後も続くことになる。対策が求められる。