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鳥越さんに都知事をやってもらいたい、たった一つの理由

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鳥越俊太郎東京都知事候補が「都知事は日本で二番目に偉い」と言って、保守系の人たちから笑われている。「この人馬鹿なこと言っているなあ」とは思わなかったが、左派の人たちの心理状態というか精神世界が分かって面白かった。多分、彼らは権力というものを過大評価しているのだろう。
鳥越さんは無知なわけではない。週刊誌の編集長をやっていて、ニュースにも携わっていたのだから、いろいろ知っているだろうし、勉強もしたはずだ。東京都政を3日で勉強するといっているくらいだから知性にも自信があるのだろう。
同じような姿は菅首相にも見られた。長い間政治家をやっていた人だ。首相になれば原発が止められると思っていたようだし、情報が自然に自分の所に集まってくると考えていたようだ。しかし、首相というのは行政府の長に過ぎず、常に立法府に介入される。議会への「ご説明」の義務もある。そして、情報は自然には集まってこない。面倒な組織の論理を熟知する必要がある。その意味ではリーダーはサイエンスではなくアートだ。
こうした世界観は、よく居酒屋論議で聞かれる。普通の社員は社長というのがとても偉い存在だと誤認しているのだが、オーナーでない限りは資本家に使われる存在でしかない。企業人は長い階段を昇った結果、やっとこの事実に気がつくし、多くの社員はそこまでのぼることができない。「自分が偉い訳ではないんだな」ということに気がつくのは、ボードメンバーになった時だ。
日本人は突出したリーダーシップを嫌うので、一人で決めるということはほぼ絶対にできない。突出したリーダーは回りから排除される運命にある。政治でも「〜下ろし」と呼ばれる現象が何回も起きている。
鳥越候補は(多分福島と新潟を視野に入れて)近隣の原発を止めると言っているのだが、知事にはそんな権限はないし、ましてや他の自治体の原発すら止められない。そのことに気がついていないのは多分左派の支持者だけだ。だからこそ「原発止めろ」と気勢を上げることができるのだろう。
意思決定はとても面倒なプロセスだ。アウトサイダーは単に批判しているだけで良いのだろう。その意味では鳥越さんにぜひ都知事になってもらいたいと思うし、途中で逃げ出さないでいていただきたい。支持者たちも含めて「意思決定」というのがいかに面倒なのかということがよくわかるだろうし、ぜひ実際にやってみるべきだ。
さて冒頭で「権力なんて……」みたいな書き方をしたのだが、やはり権力は恐ろしい。社会が持っている意思決定プロセスを無視して「自分ですべてを決めてみたい」と思うようになる人が出てくるからだ。自民党は緊急時には立法府を停止したいと考えているようだが、これは「自分が王様になりたい」と考えているのと同じことだ。近代民主主義社会では異端の考え方だが、それを妄想するのと、実現に向けて動き出すのは、大量殺人を頭の中で構想するのと、ナイフを買いに行くのと同じ程度の違いがある。
左派はそもそも意思決定を巡るディテールがぼやけているのだが、右派も複雑さに疲れ果てている。本当に難しい判断をしたことがないからだろう。左右ともリーダーシップが存在しないのだ。70年の間、日本はアメリカに追随することで意思決定を避けてきた。このことのツケを支払わせれるのかもしれない。


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