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第一回目の討論でなぜ人々はバイデン大統領に失望したのか

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第一回目のバイデンVSトランプの討論会が行われ、その分析があらかたで揃った。分析はおおむね「トランプ前大統領の勝ち」という結果になっている。

民主党ではパニックに近い反応が広がり党大会までに候補者を差し替えられないのかという議論が行われることになりそうだ。現職かつ一度決まった候補者を差し替える公式のプロセスはなくまた差し替えが決まったとしても決め手になる候補はいない。

だがそもそも日本では「有罪評決を受け嘘ばかりのトランプ氏がなぜ勝つのだ?」と考える人もいるかもしれない。

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今回の討論を有益なものにしようとCNNは「マイクオフ」「無観客」という対抗策を講じた。つまりCNNとしては政策ベースの討論会にしたかった。

しかし、トランプ氏にとってこの対策には何の意味もなかった。トランプ氏は虚偽が入り混じった主張を繰り返しいくつかの質問にはまともに答えなかった。全体的に政策について新しい情報は何もなく従来通りの罵り合いが繰り広げられただけだった。

討論会が終わった後の総括はまるでお通夜のようになっていた。

バイデン氏はこのめちゃくちゃなトランプ氏を全く制御できなかった。感覚としては安倍総理のめちゃくちゃな答弁(ご飯論法)に野党議員の無力さに似ている。結果的に安倍政権は長期政権で民主党系の野党の支持率は低迷した。

例えばウクライナ問題ついてトランプ氏は「アメリカとウクライナは大西洋を隔ている=つまり何の関係もないのになぜヨーロッパよりも多くの金を払っているんだ?」と言っている。しかもこの問題はウクライナについてのディベートではなくイスラエルの文脈で語れているのである。全編がこんな調子だった。トランプ氏は質問にまともに答えず別の問題を持ち出して自身の主張を声高に繰り返すばかりだったのだ。

 Just going back to Ukraine for one second. We have an ocean separating us. The European nations together have spent $100 billion or maybe more than that, less than us. Why doesn’t he call them so you got to put up your money like I did with NATO?

しかしながらディベートの主な観客は戦後アメリカが築き上げてきた国際評価に興味がない「普通のアメリカ人」の感覚を代表しているともいえる。バイデン大統領は有効な反論を打ち出せなかった。つまりプロの政治家が庶民感覚に負けてしまっているのである。ここが民主主義の難しいところだ。

加えてバイデン氏はこのところかなり疲れているようだ。イベントでフリーズしているところが目撃され、G7サミットでもフラフラとどこかに行きそうだったところをメローニ首相に引き戻されてたりしている。直前に風邪をひいていたと言われているが声は掠(かす)れ表情の乏しさは画面を見ていて痛々しいほどだった。

もともと民主党が若いリーダーではなくバイデン氏を選んだのは「老練した政治家でなければトランプ氏に太刀打ちできない」と民主党が考えたからなのだから「老いぼれたバイデン氏ではトランプに勝てない」となると途端に離反が始まってしまう。

民主党の一部の議員は明らかにパニックに陥っている。

バイデン氏はすでに民主党の候補者として各州で認められている。後は民主党大会で正式な指名を行うのみである。仮に民主党がバイデン氏ではトランプ氏の勝てないと考えたとしても彼を公然と引き摺り下ろすことはできずバイデン氏が自ら退陣表明をするしかない。

つまりまず「誰がバイデン氏を説得するのか」ということが問題になる。

次に後継候補として有力視されるカマラ・ハリス副大統領には人気がない。このため交代させるにしても後継候補が問題になる。Biden Replacementで検索するといくつもの記事がヒットする。ディベート後かなり話題になっているようだ。複数の州知事と議員に混じってヒラリー・クリントン、ミシェル・オバマ氏など大統領夫人経験者の名前もある。つまり今からトランプ氏に勝てるような知名度が獲得できる人を見つけることは極めて難しいということを意味している。

ただし議論を細かく見ると心配な点は他にもある。

アメリカの経済は絶好調なのだがアメリカ人の中には経済状況の悪化を懸念する声がある。経済指標と実感が全く合致していないのだ。ロイターが「コラム:米経済、現実の姿と国民の認識に大きな落差 インフレが影」という記事を書いている。実況と実感にずれがありトランプ氏の「経済は崩壊している」「完全な無秩序状態にある」という指摘に多くの「普通の」アメリカ人が共感してしまうのである。

プロの政治家と「普通の国民」の実感のずれはバイデン大統領が作り出したわけではないが、結果的にはトランプ氏ではなくバイデン氏に不利な状況が作り出されている。

リスク分析管理会社を運営するイアン・ブレマー氏は次のように分析している。

トランプ氏はでたらめだったがバイデン氏はそれに対抗できなかった。故に今回の勝者はトランプ氏でありバイデン陣営のキャンペーンにとっては最悪の日になった。しかしこれをアメリカの外から見ている人はどう捉えただろうか。アメリカ経済は人を惹きつけているが政治は軽蔑されることになるだろう。

なお、アメリカでは過去にも第一回討論会の結果を挽回し最終的に勝利を納めた大統領がいるそうだ。その事例の一つとして挙げられているのがオバマ元大統領だ。だがオバマ氏の問題は経験不足でありその後の挽回が可能だった。仮に今回の問題が高齢不安だとすれば回復の見込みは乏しい。仮に回復したとしても「後4年バイデン氏で大丈夫なのか」という懸念は払拭できない。

アメリカ民主党は党大会までの残り数ヶ月でこの未曾有の事態を乗り切る必要がありまさに今回の討論会は大惨事と言って良いだろう。

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