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ドル円が再び160円を突破 マスコミの説明は何かがおかしい

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ドル円が再び160円を突破した。テレビの報道を見ると「アメリカの金利引き下げがなかなか起らないから」と説明されている。

だがFRBの金利引き下げ予測の後退はしばらく前から噂されておりその影響も織り込み済みだったはずである。一方でアメリカが日本を再び為替操作の要警戒国に指定している。市場関係者は日本がアメリカの顔色を窺う国であると知っているのだからこれが直接の原因ではないのかと思える。

日本はアメリカの顔色を窺うような為替操作から卒業する必要があるが、為替対策は国政の中心課題になっていない。いずれにせよ次のイベントはフランスの議会選挙だ。今ドルを買うべきと主張するつもりはないがこれまでドル資産を持っていなかった人は少しでも安い時にドルを買い進めておくべきなのかもしれない。

なお通貨安は非通貨性の資産(例えば土地、建物、工場設備など)を持っている人にとっては朗報になる。ただ東京都民が住宅不足に悩むことになる。かつてソウルなどで起きていた動きが東京でも起きる可能性がある。

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ドル円が再び160円を突破した。神田財務官は「いつでも為替介入を行う準備がある」と示唆しているようにみえる。

ところが専門家は介入には懐疑的である。例えば神田財務官は次のように発言している。この発言は別の記事では「ボラティリティ」と言い換えられているが金融情報を読み慣れていない人にはやや難しい表現なのかもしれない。

神田財務官は記者団に、「特定の相場水準を対象には考えておらず、あくまで投機などによる急激な変動、あるいは無秩序な動きに対して対応する方針に変わりない」と語った。

第一にアメリカ合衆国はそもそも為替介入を例外的な措置だと考えている。また日本は為替操作の監視対象国に再指定されたばかりだ。アメリカの外交的な配慮(日本に対する優しさ)はあるがイエローカードと言って良いだろう。

ロイターは次のような指摘を紹介している。神田財務官の表現をボラティリティと言い換えている。

150円台後半の攻防から160円台へと局面が変化した背景について「ボラティリティが低下し、為替介入の大義が薄れる中で市場の警戒感が後退していた側面があるだろう」(ニッセイ基礎研究所の上野剛志上席エコノミスト)との見方もある。

アメリカはそもそも中央銀行を介した為替介入には消極的だ。ところが例外として「投機マネー撃退の場合は例外的に介入しても良い」としてきた。日本はこのため「為替の急激な変動は投機マネーによるもの」という「見方」を数回重ねたのちに介入に踏み切る傾向がある。つまり、一連の発言はアメリカの議会対策なのである。

しかし今回の動きは「ボラティリティ」が高くない。つまり「投機対策だ」と言いにくい。だから介入は実施しにくいという論理構成になる。だから160円を超えても介入は起こらないのではないかということになる。

テレビ局は記者クラブ依存を強めておりテレビの説明は「大本営発表」と言って良い。つまり円安は日本の失策ではなくアメリカのせいだと言いたいだけなのである。テレビはこれを右から左へと流しており資産保持者への情報提供の役割をを十分に果たしていない。

もちろん、日本語でも金融関係者からの情報を取ることは可能だ。まず今の為替水準はファンダメンタルズ(国力)の反映でありさらに最後の武器であった為替介入が封じられつつあると読み込めばいい。

現状はわかった。

次に気になるのは「では今後ドル円相場がどうなるのか」だろう。これに関しては別の記事を見つけた。フランスで議会選挙が行われ極右の台頭が予想されている。極右はその後の混乱を恐れて「財政拡大には慎重だ」と言い続けているが投資家はそれを信じていない。これはユーロ安につながる動きである。

ユーロ安は結果的にドル高・円高にニュートラルに作用するはずなのだが、おそらく現在の状況を見るとドルに資金が流れることになろう。したがってユーロ安は円安に作用するのではないかという論理構成になっている。

今後、この予想が当たるか外れるかはフランス議会選挙の結果にかかっている。フランスの有権者が冷静な判断をするならば極右の台頭は抑えられるはずだ。フランスの議会選挙は二段構成になっており1回目の選挙結果で極右の台頭を恐れる有権者が多ければ選挙結果は是正される見込みだ。

いずれにせよ日本の政治の最優先課題の一つははファンダメンタルズの向上を図ることと言えそうだ。しかし国内政治情勢(今日は菅義偉氏と麻生太郎氏をそれぞれフィーチャーする記事を各1本・合計2本書いた)を見る限り「日本の国力をどう回復するか」についての議論は行われておらずそれが起きる気配もない。

こうなると国民は自力で資産防衛を行う必要があるということになる。ジリジリと円安が進行し続ける中でいつ資産を円から逃避させるかは悩ましい判断だ。またトランプショックという全く別のファクターもある。トランプ氏は中国への高い関税とFRBに対する金利引き下げを要求する可能性がある。これはインフレを抑える効果があるがアメリカの経済を破壊するだろう。株安とドル安の要因になりかねない。

「目の前で起きている状況を整理するとユーロ安・円安」なのだが11月にこれが反転する可能性があるということになる。専門家が「このまま円安が続くだろう」と断定しないのはそのためである。だが経済情報を読み慣れていない人は「何だかよくわからない」と感じるはずだ。

なお、円安は通貨安なので通貨外資産を持っている人には逆にチャンスになる。中国では富裕層の資金逃避が起きており現在は香港に向かっているそうだ。東京の土地や建物は逃げ切りに成功した中国人富裕層には宝の山に映るはずだ。

つまりこれは土地や建物を持っている人にとってはビジネスチャンスである一方で円で給料を受け取る人は東京に家を持てなくなるかもしれないということを意味している。

都知事選挙はこの辺りの事情を全く織り込んでいない。どうも今までの論戦を見ている限り経済・金融通のブレーンを持った候補者は誰もいないようだ。誰が次の東京都知事になってもこの動きは重荷になることだろう。

「あなたと次の東京に」を目指す候補者にとって東京の物価高はかなりの障害になるはずだが、現職は現職で「なぜ3期目になってこんなに状況が悪化したのか」と批判される可能性がある。

晴海フラッグのデベロッパーは大儲けしただろうが中国人富裕層に買い占められている。しかし今では民泊にして貸し出されている可能性もあるそうだ。家を買ってもそれが収益を産まなければ単なる無駄な投資になってしまう。土地デベロッパーは高継続を維持したいと考えるのが自然であり、そのためには新規開発を続けなければならない。新規開発を続けるためには現職を支援する必要がある。これがティッピング・ポイントを超えてしまうと都民が家を持てなくなってしまう。

つまり、都知事にとっての長期政権は「逃げ遅れ」を意味する可能性があるということだ。

すでにインバウンド需要は高級な米の価格を押し上げているとも言われている。「割安な日本」は国民生活にさまざまな影響を与え始めているのだ。

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