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EUの女傑対決 フォン・デア・ライエンVSメローニの熾烈な争い

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東京都知事選は小池VS蓮舫の女傑対決と言われている。「日本では女性の地位が低いため目立った女性は女傑などと差別される」という指摘もある。だがこうした「女傑対決」はヨーロッパにも存在する。EU委員長再選を狙うフォン・デア・ライエンEU委員長VSメローニイタリア首相の争いがそれである。

今回はこのEU女傑対決に合わせてフランスとイギリスの選挙事情についてもざっくりとさらってみることにした。日本のマスコミ報道はあまりヨーロッパの事情を伝えない。また、普通の政治メディアでは外見や容姿などに言及することは「政治的に正しくない表現」とされる。このため「政治的に正しくない表現」に腹を立てそうな人はこの記事は読まない方がいいかもしれない。

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EUの議会選挙では極右が躍進し全体の2割から2.5割を占めるとされている。だが実際に政権を担当するのは穏健保守欧州人民党でそのパートナーは穏健左派である。そしてその欧州人民党を率いるのがフォン・デア・ライエンEU委員長である。

フォン・デア・ライエン氏は当初メローニ・イタリア首相の協力を仰ぐのではないかと言われていた。EUではメローニ氏がマスコミを抑圧しているというレポートをフォン・デア・ライエン氏が差し止めたとして話題になっていた。協力を仰ぐのに邪魔にならないように排除したという疑いが持たれたのだ。

Von der Leyen buries report slamming Italy as she seeks Meloni’s vote(Politico/EU)

ところがフォン・デア・ライエン氏はできるだけ多くの要職を抑えたいと欲張っているようだ。協力相手の穏健左派は不満を募らせている。極右メローニ氏に至っては協議にすら呼ばれなかった。このため表立って不満を表明している。

Round 2! Von der Leyen, Meloni and the battle for Brussels top jobs(Politico/EU)

女性の政治進出が進んでいるヨーロッパでは女性同士の対決が「政治的に正しくない表現」とは見做されない。EU版のポリティコではRound2(おそらくこの前に何かいざこざがあったのだろう)とのみ表現されている。

メローニ氏も単に「仲間はずれにされた」と泣いているわけではない。極右が台頭する西ヨーロッパにあってメローニ氏の政権は例外的に安定しており発言力が増している。

現在フランスでは議会選挙が行われることになっておりルペン氏の率いる国民連合が躍進するのではないかと言われている。同じくEUでフォン・デア・ライエン氏から仲間はずれにされているオルバン首相(この人はおじさん)がルペン氏とメローニ氏に接近しているがメローニ氏もルペン氏もおじさんにはあまり興味がないようだ。

Join forces already, Orbán tells Meloni and Le Pen (Politico/EU)

メローニ氏はむしろフォン・デア・ライエン氏に接近し経済担当閣僚などのポジション獲得に意欲を持っているというのがポリティコの分析である。仮にフォン・デア・ライエン氏がメローニ氏を受け入れなければEUのトップ人事が固まらない可能性もある。

軍事的なまとまりであるNATOは男の世界だがEUの政治は女性リーダーの進出が進んでいる。そしてその権力闘争は男性主導社会とは違う熾烈さがある。女性がリーダーになれば「和やかに全てが決まる」というわけでもなさそうだ。もはや男性的な競争社会をなくなさければ女の社会進出はないというようなナイーブさ微塵もない。女性には女性ならではのキツさがある。

一方のフランスでは興味深い動きも起きている。現在の首相はガブリエル・アタル氏(34歳)だ。若くてイケメンでユダヤ系(ロシア正教徒だそうだが)の同性愛者である。国民連合が勝つとルペン氏が首相になるのではなく28歳の移民系イケメンが首相になるのではないかと言われているそうだ。こちらは女性がリーダー(大統領候補)でそれを若い男性が支えるという構図になっている。

「政治的な実力と見た目は関係ない」と思われるかもしれないが、極右の潜在的な激しさをカバーするにはやはり「女性であること」や「若いこと」が極めて重要だ。また改革派右派も「多様性」を全面に押し出して刷新感を出したいという気持ちがあるのだろう。男性の見た目の爽やかさと若さが重要視されるという状況が生まれている。

フランスの政局に詳しい専門家のXの投稿を見ていると「あの人がこっちの陣営に鞍替えした」とか「この人とあの人の仲が悪い」というような内容が多い。フランスでも政治に対する嫌悪感を持つ人が増えており、それをカバーするために見た目の爽やかさが重要視されているのだろうか?などと勘繰りたくなる。

これはイギリスでも見られた状況だった。お騒がせ首相ジョンソン氏とコロナ禍でパーティーを繰り広げていたスタッフの後継として浮上したのは女性のトラス氏とイケメンでインド系のお金持ちのスナク氏だった。こちらも女性と多様性を背景にした男性という構図だ。

しかしトラス首相はトラスショックと呼ばれるトリプル安を招き短期政権に終わった。スナク首相も保守党をまとめるのに失敗している。今回の選挙において保守党ではスタッフが「選挙結果でギャンブルをしようとしていた」という疑惑が浮上している。スナク氏は激怒しているそうだが、スナク氏自身も落選の危機にあるなどと伝えられている。どうせ負けるに決まっているとやる気を失った保守党は「選挙結果で賭けをしよう」と考える人が出てくるほど堕落したということだ。

ヨーロッパにおいて見た目(若いこと、女性であること、容姿が移民系でエキゾチックであること)はリーダーになるための重要な要素になりつつあるのだが、やはり最後は「実力と結果」ということになる。

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