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亡き総理大臣の怨霊が政党政治を破壊する

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平安時代の歴史を読むとよく「怨霊」という言葉が出てくる。だがこの怨霊は今でも日本政治に生きているようだ。暗殺された総理大臣の怨霊が日本の政党政治を破壊しようとしている。怨霊はまず安倍派を破壊しそれが自民党にも波及している。興味深いことにその混乱は野党にも波及している。

だがここで疑問も浮かぶ。怨霊のような非科学的なものは本当に存在するのか……と。科学的に説明するならば怨霊は複雑系の崩壊ということになる。

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岸田総理がG7・ウクライナ平和サミットから帰国した。外交成果を宣伝したいところだが全く盛り上がっていない。日本人は「世界の中心で輝く日本」という姿を好む。だがG7はウクライナ問題もイスラエル問題も解決できなかった。そもそもこれらの問題が語られなくなっている。勧善懲悪が好きな日本人は「どちらが悪いかよくわからない」この2つの戦争に興味をなくしつつある。見ていても面白くないのだ。

現在の政治の中心課題は安倍派の不始末から引き起こされた「政治と金の問題」の後処理である。清和会の人気は不幸にも暴漢に暗殺された総理大臣経験者の個人的資質に大きく依存していた。この人がいなくなったことで取り巻き達と森喜朗氏の存在が浮き彫りとなった。極めて内向きで国民生活に関心がない安倍派本来の姿が剥き出しになったのだ。

岸田総理は「保守」をつなぎとめようと任期内の憲法改正を打ち出したがこの戦略は破綻しつつある。現在一部の議員から憲法改正議論を進めるように請願が出ている。さらに政治資金規正法の改正にも失敗しつつある。政治資金規正法は国民にはなんのメリットもない法律だが自民党が反省を示すチャンスではあった。ところがここで岸田総理は麻生副総裁に頭が上がらず茂木幹事長もコントロールできなかった。そこで公明党に近づくが麻生太郎氏と公明党の関係がよくない。最後に頼ったのが維新だった。

結果的に総理は維新との約束を果たせなかった。政治資金規制改革はゼロ回答であり会期内の文通費改革も断念した。維新は当然反発していて総理大臣に対する問責決議を準備している。ここで立憲民主党が政治資金規正法の採決に反対すれば「強行採決」という絵柄が作られることになる。

冷静に考えると「自民党が反省を示すチャンス」が「自民党が反省していない姿の宣伝」になっているが、おそらく当事者達はこれに気がついていないだろう。

維新にも誤算はあった。吉村知事の個人的なテレビ人気に依存する維新は全国に浸透するにあたって「交渉力がある戦略的政党」という新たな自己像をアピールしようとした。ところが実際には「ツメが甘く場当たり的な」自己像を晒すことになった。内部では苛立ちが募っている。実質的な後援者である橋下徹氏はSNSのXで連日苛立ちをぶちまけている。一体何を意味しているのかはよくわからないが「戦略的飲み食い」という表現も見られる。冷静でキレのある橋下氏の復活を望みたいところだ。

若返りを図る公明党も山口那津男代表の続投が決まりそうだ。公明党も反省なき自民党の共犯者に見られかねない。また、公明党にとって大切な東京都知事選挙で小池百合子氏が敗北すれば公明党の内部も動揺することだろう。世代刷新どころではなくなった。

では立憲民主党が今回の勝者なのかということになる。どうもこれが怪しい。蓮舫氏は無所属で選挙に挑む。ところが初手で大きなミスを2つ犯している。一つは日本共産党と組んだことだ。共産党と組むこと自体は悪いことではない。だが共産党はいち早く前面支援を打ち出した。彼らが政治活動を行う際「蓮舫氏を支援している共産党の主張」を配る。何も知らない人は「共産党の公約=蓮舫氏の公約」と考えることになりかねない。誰かが交通整理すべきだった。

次に連合との関係が怪しくなっている。連合には強い共産党嫌悪がある。自民党の共産党嫌悪は1970年ごろの中国のイメージに根ざした単なる印象論に基づいているが労働組合の主導権をめぐる争いは現実的な嫌悪を生み出している。

立憲民主党の支持母体は「労働組合」「市民運動」「地域の企業」でありもともと連立政党の色合いが強い。ここで蓮舫氏が勝ってしまうと「市民運動+共産党」が勝ったことになり労働組合系が反発することになりかねない。連合は国民民主党と組んで立憲民主党を取り戻そうとしているが政策協定は都知事選が終わるまで結べそうにない。

これも非常に皮肉な話だ。自民党が弱体化したことで立憲民主党が動きやすくなっている。ところが立憲民主党が動けるようになるとこれまで彼らが見て見ぬふりをしてきた矛盾と向き合わざるを得なくなる。

蓮舫陣営がこの矛盾を解決するためには「無党派層へのお手紙」である公約を発表し無党派層を運動に巻き込む必要があった。第三者が入れば組織的支持者もある程度自省的に動いてくれる。だが、今の段階ではそれは実施されていない。蓮舫陣営の今後の巻き返しに期待したいところである。

「勝ち負け」にこだわり部分だけを見ているとわからないことがある。

全体を俯瞰するとある総理大臣経験者の死がきっかけになりこれまでかろうじて保たれてきたバランスが崩れていることがわかる。こうして広がった動揺には合理性が一切ない。平安時代には今のようなメディアもなく「これは誰それが無くなった祟りなのだ」と説明されてきたのだろう。日本の政党は原理原則ではなく小さな人間関係の集まりによって作られそれが非公式なネットワークを形成している。つまり日本の政治は自律的に作られた複雑系ネットワークで数学的にグラフを使って記述できる。そしてそれは平安時代とさほど変わっていない。このため中心人物がいなくなると、近くにあった系(今回は清和会)が崩壊し連鎖的に周囲に波及してゆくのだろう。

SNSのXを見ていると自民党の平議員が麻生派の解体を主張し「この人は麻生太郎氏に私憤があるからこんなことを言っているのだ」と指摘されていた。きっかけは麻生派の岸田おろし発言だった。これも波及効果である。

いちど「なんとかおろし」が始まるとそれが党内の人間関係に波及効果をもたらす。こうして「怨霊」は全てを破壊してゆく。日本人はこれに対応できないので「宥めのための祈祷」や「恩赦」を行い動揺を最低限に食い止めようとしてきた。

つまり怨霊とは複雑系のバランスの崩壊なのである。複雑に作られた非公式の人間関係のネットは変化を難しくする。ところがあるハブ(グラフとしては記述可能だが普段意識はされていない)が崩壊するとその破壊が系全体に広がる。こうして誰も動かすことができないと思われていたものが一気に動くことになる。かつて土井たか子氏が言ったように「山が動く」のだが、ここで誰もそれを管理しなければそれは山体崩壊(つまり大規模な山崩れ・山津波)になる。

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