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大森元貴氏らMrs. GREEN APPLEの「コロンブス騒動」から我々が学べること

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大森元貴(27)氏らMrs. GREEN APPLEのMVが物議を醸している。部外者が騒いでいるだけだとか熱心なファンこそ問題を大きくしているなど騒ぎになっているが当ブログを読んでいる人は「一般大衆の議論は不毛だなあ」と呆れているかもしれない。

おそらくすでに肌で感じている人も多いだろうが、ここはマーケターやグローバルエリートを目指す人がここから何を学ぶべきかを考えてみた。日本のマーケティングが国際キャンペーンに組み込まれたことから、国際ニュースを通じて情報をアップデートすることが重要になってくる。と同時に暗記中心の日本式学習からの脱却も求められている。

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まず背景を見てみよう。今回の楽曲はコカコーラ社のキャンペーンに採用されていた。どんなキャンペーンかを確認するとCoke Studioというオンライン・キャンペーンで。どうやらこれが「コムスラ」仕切りのようなのだ。

「日本とアメリカは文化が違う」とされることが多くかつて日本は日本独自でキャンペーンを行なっていた。日本コカ・コーラはキャンペーン資金が潤沢であることで知られていた。ところが、ある時期から自由度の高いローカルキャンペーンは減り「本社仕切り」のキャンペーンが増えてゆく。.com上で展開されローカルにはスラッシュが割り振られるため「コムスラ」などと呼ばれていた。

過渡期にはマイクロ・キャンペーンサイトを作って対応していたが現在はかなり統合が進んでいるようである。ビルボード(全文を読むためには登録が必要)は今回のキャンーペーンについて次のように紹介している。

Fifty years ago, the iconic brand’s jingle proclaimed “I’d like to buy the world a Coke.” Now it’s connecting with a global audience by releasing original songs by some of music’s biggest stars.

キャンペーンを集約化して「国際的規模感」を演出するという手法だ。YouTubeなどで世界中のカルチャーに触れている若者をキャッチするためにはこうしたオンラインキャンペーンが欠かせない。いわばオリンピックのような国際大会になっていてMrs. GREEN APPLEはその「日本代表だった」ことになる。つまり、マーケターやグローバル・エリートが最初に知るべきなのは「日本市場が縮小すると世界と直接リンクする可能性が増える」ということだ。

スポーツやエンターティンメントの世界でも同じことが起きている。日本のワイドショーは日本のプロ野球には目もくれずメジャーリーグの大谷翔平選手の活躍を追いかける。テレビドラマも国際的なオンラインメディアに置き換えられようとしている。NetflixやAmazon Prime Videoなどは世界配信を念頭に潤沢な制作費を供給する。当初は「イカゲーム」などの韓国ドラマが席巻するものと思われていたが、現在では日本発のドラマもヒットしている。

かつては本社仕切りのプロジェクトを「com/jp」などと言っていたが統合が進むとこの言い方すらも過去のものになるのかもしれない。

日本市場の縮小やオンライン化を背景に日本のアーティストやマネジメントが国際的な価値観に合わせなければならない事例は増えてゆくだろう。では今回は何が問題になったのか。CNNやBBCなどを読むと「日本人は歴史を学んでいないのか?」という声が多く聞かれた。当然「日本人だって世界史を専攻している人がいる」と反発する人もいるだろう。

だが、日本の歴史教育は厳密には年表の暗記である。

「え、世界史の勉強って年表を暗記することじゃないの?」と考える人も多いかもしれない。

近年多様性が進むアメリカではクリストファー・コロンブスの位置付けが変わりつつある。「アメリカはコロンブスに発見された」のではなく、コロンブスがアメリカを侵略し現地の人たちを奴隷化したと考える人がいる。さらにこの価値観の変化に抵抗する人も多く南部諸州では連合軍の政治家・軍事化の復権運動も始まっている。多様性を背景にして「定説」が消えつつある。

おそらく日本の歴史の教科書も国際的な潮流に合わせてそれなりには入れ替わっているものと思われる。だが世界史の権威のような人たちが唱える歴史観に若手が異議を申し立てられないということもあるのだろうし、学校の先生が内容を理解せず「とにかくアメリカ大陸「発見」の年号だけ覚えておけばいいから」などと指導することもあるだろう。大森元貴氏は27才だそうだがそれでも古い常識に囚われていたことから、日本人の知識はそれほどアップデートが進んでいない。つまり大森氏らだけの問題とは言い切れないのだ。

アメリカには歴史的トピックを取り上げてそれについて自分なりに調べて友達と議論するように勧める授業もあるという。アメリカ人はこうしてリサーチ力を身につけてゆく。

だが、日本のやり方では教科書を暗記したら終わりになってしまう。日本史でも「新説の登場で学校で習った日本の歴史常識がここまで変わった。」に示されるように常識がどんどん変化している。暗記中心の勉強では情報のアップデートができない。さらに歴史界の重鎮が亡くなるまで新しい学者の説が採用されないというようなことは起きているのではないか。

さらに英語力の問題もある。英語で情報をとっていればおそらく分断化するアメリカの文化闘争について知ることはできる。だが英語が苦手な多くの日本人は英語のメディアに接することができない。

つまり今回の件は、暗記中心で英語も苦手な日本人が情報アップデートできないまま国内市場の縮小を背景にして世界経済に巻き込まれていったことが原因になっていることがわかる。

これまでの失われた数十年は過渡期に当たり日本のマーケットだけを相手にしている「ドメな人」もそれなりに成功できた。だが、おそらく今後は「ドメ」だけを相手にしていては稼げなくなってゆくだろう。つまり外国語(今回の事例では英語)の習得とリサーチ力によって大きな差が生まれる。AIが発達すると外国語の習得もリサーチ力も要らなくなるとされているのだから皮肉な話ではある。

大森元貴氏らを個人攻撃したり炎上気味の外野に腹を立てるのは自由だ。だが、それではあまり有益な学びは得られない。おそらく気づいている人は既に気がついているだろうから「何を今更」と考えるかもしれないが、新しい経済環境に適応してゆくためには新しい学習方法を学び直す必要があるという点をあらためて確認しておきたい。

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