バイデン大統領が提案し国連安保理決議まで取り付けたガザ・和平に向けたロードマップが早くも破綻の危機を迎えている。背景にあるのが中東流の交渉術だ。大枠で賛意を示した後で「だがしかし」と条件を加えるやり方である。国際社会はこの中東流の「賛成」に振り回されている。
むしろ最初から破綻していたと見た方がいいのかもしれないが誰も自分が和平交渉の破壊者とは見做されたくないため望みのない提案がいつまでも「生き続ける」ことになる。
バイデン大統領のロードマップは最初から難航することが予想されていた。だが、バイデン政権は国内の選挙事情から交渉が破綻したと見られたくなかった。このためどちらも受け入れることができるように解釈の余地を残した提案を行い国連安保理決議を加えて正当性を担保しようとした。そもそも最初から「問題解決より継続」が優先された提案だった。
まずイスラエルが国連で「賛成はするが細部には問題がある」と指摘した。次にハマス側も「いい提案ですね」と言いながら「細部は合意できない」と打診してきた。イスラエル側は「ハマスが提案を拒否したぞ」と宣伝したが、アメリカはそれを打ち消した。ハマスがどのような提案をしたかは公開されていないがアメリカ側はまだ希望が持てると言い続けている。そして自分達から交渉を台無しにした思われたくないハマスも「イスラエルが嘘をついている」と主張している。ヨルダンとエジプトはイスラエル側に「まず停戦に応じるべき」と働きかけているが戦闘は続いている。
この状態を最も端的に表現しているのがBBCだ。ハマスがまだ回答を示していない段階の表現は次のようになっていた。アメリカのメディアではイスラエルはバイデン大統領の提案を受け入れたと主張しているがBBCはそれに賛成していない。
ハマスもイスラエルも、バイデン大統領が提示した停戦案を受け入れるとは、表立っては表明していない。
どの陣営も「ノー」とは言っていない。だが真摯に相手に向き合って合意点を探そうとはしていない。だから実質的には受け入れていないという見立てになる。
BBCはブリンケン国務長官が「同じ24時間を繰り返している」と書いている。日本流に言い換えれば賽の河原に石を積むような状態ということになる。一方でネタニヤフ首相は時間稼ぎをしていて「そのうちフォローの風が吹くかもしれない」と期待している。
その間もガザ地区の状況は悪化し続けている。国連はイスラエル・ハマスの双方が戦争犯罪に加担しているとの調査報告書をまとめた。だが、ガザ地区も完全な被害者というわけではない。ハマスの幹部はアメリカがこの問題を片付けたがっており民間人の死者が出れば出るほど国際社会の反発が強まることを知っている。彼らの優先順位は崇高な聖戦(ジハード)の続行であり統治ではない。このため民間人の犠牲などやむを得ないという立場だ。ハマスに統治意欲がないことは明白だ。
今回のラファ惨劇の特徴は全ての参加者の優先順位にある。自分達の政治的生き残り以外に興味がある人がいない。ガザを統治しているハマスも含めてガザ地区の市民などどうなってもいいと考えている。
日本人は戦争報道に「正義と悪」という構造を置いた上で正義の側に立って悪を裁きたがるがこの戦争にはそうした分かりやすい構造がない。従って日本人はこの話題に対する興味を失いつつある。見ていてもいい気分になれないからだろう。
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