政治資金規正法の問題で音喜多駿政調会長が高いハードルを課した時に「あれ、このハードルはどう修正するのだろうか」と思った。茶封筒に入れた100万円の束を押し付けるような政治資金運用をやっているような政党(自民党のこと)が領収書の開示などできるはずはない。このままでは単に「政策活動費合法化」の共犯者になってしまうと感じた。
だが結果的に維新は何も考えていなかったようだ。今になって「梯子を外された」と怒っている。おそらく彼らは現在の岸田自民党のガバナンスが崩壊しているという事実に気がついていなかったのだろう。「ガバナンス土砂崩れ」に巻き込まれそうになっている。
ニュースは悲惨なものだった。おそらく岸田総理は政治資金規正法の「検討事項」を前に進めるつもりはない。仮に岸田総理が前に進めたいと考えても彼にはその能力はない。麻生太郎副総裁は岸田総理を暗に批判し「政治にはお金がかかるのだから若者のためにも行きすぎた改革は阻止しなければならない」と宣言している。岸田総理は「上の人」には逆らえない。
音喜多駿政調会長は「参議院では独自の対応をとる必要がある」と宣言した。だが衆議院で共犯になったという事実は消えない。さらに公明党が賛成すれば議案は維新の共犯通りに通ってしまう。後の祭りとはこのことだ。
衆議院の法案審議でも維新は迷走し続けた。いったん自民党と維新の間でまとまった政治資金規制法の改正案は音喜多駿政調会長の「今のままでは賛成できない」発言でひっくり返った。蚊帳の外にあった野党は度重なる修正に「一体何を審議しているのかわからない」と苦言を呈したほどの混乱ぶりだった。当然、維新は政党として自民党の改正素案に賛成したのだから音喜多駿政調会長もこのプロセスに参加していたはずだ。だが、どうやらそうはなっていなかったようだ。
だが準備がないのは音喜多駿政調会長だけではなかった。浜田国対委員長(自民党)が旧文通費の問題は会期内に処理できないと発言すると、遠藤敬国対委員長(維新)は「「(Q.内閣不信任案の対応に影響するか)その通りです。影響しないはずがない」」として内閣不信任への賛成を仄めかす発言をおこなっている。
自民党は単に野党から賛成があったという形を作りたかっただけだった。岸田総理の約束がその後沈んでゆくというのもよくあることだ。このため個人的には「今は高すぎるハードルを設定しているがそのうちハードルを下げてくるんだろうな」と思っていた。
維新には「橋下徹」という秘密兵器がある。つまり橋下氏が途中で「音喜多君もよく頑張ったがまずは60点でも上出来ではないか」などと世論を誘導する分業を行うのではないかと思って見ていた。
だが、橋下徹氏は「旧文通費の問題が解決しなければ維新にとって政治的敗北である」などと煽り始めた。「あれ、橋下氏は何か秘策があるのか?」と考えたのだが実はそれもなかった。単にそう言っているだけなのだ。
どうしてこんなことになるのかを考えた。理由は二つある。第一に日本維新の会のガバナンス不全がある。少なくとも「学歴高い組」「学歴そうでもない組」に分かれていて総合的な意思疎通をしないままそれぞれがSNSで好き勝手に情報発信をしている。ここにOBの橋下徹氏なども加わっている。
維新はもともと「テレビ政党」だ。吉村大阪府知事がコロナ対策で関西圏のテレビに出演し地方自治に強い維新というイメージを作り出した。維新が人気の地域は大阪をキー局とする放送局のサービス範囲と重なる。維新はSNSに熟達しているという印象があったが、結果的には政党で戦略を作ってそれをSNSで分配するという仕組みが構築できていなかったことがわかる。
ただこれだけでここまでの混乱ぶりが露呈することはなかったはずだ。一番の問題は自民党のガバナンスの崩壊だろう。総理大臣が覚書まで作って約束したのだから当然それは守られると考えるのが普通だ。だが岸田総理はおそらく自分の約束を党内で徹底させることができなくなっている。
おそらく維新は自民党のガバナンスが既に崩壊状態にあるということをきちんと認識していなかったのだろう。雪崩に巻き込まれるように党内統治の脆弱性を露呈してしまった。
馬場代表はおそらく「自民党の補完勢力」という「戦略(彼なりのではあるが)」を持っていたのだろうが、突然「都構想」に再度挑戦すると言い出した。新しい戦略(彼なりのではあるが)が崩壊したために原点に戻ろうということなのだろう。音喜多駿政調会長(彼は政策の総責任者のはずだが)と申し合わせた形跡はない。音喜多駿政調会長は外野から「賛成します!」と発言し「発言が軽すぎる」として大阪の支持者たちから叱責されていた。
メディア戦略という意味で考えると、SNSは情報が拡散しやすく、それをどう統合するかに課題がある。あるいは最初にメディア戦略を作っておいてそれをSNS上で「役割分担した上で」展開する必要がある。自民党はそもそもSNS戦略ができていないが、いっけんSNSに熟達しているように思えた維新もまたSNSにはうまく対応できていないことがわかる。