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西側諸国は中華人民共和国のスパイの脅威を侮っている

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BBCが「中国スパイ活動の脅威は拡大中、しかし西側は追いつけていない」という記事を出している。香港返還時の「民主化維持」の約束を反故にされているイギリスは伝統的に中華人民共和国に対する警戒心が強い。過去にもBBCは新疆ウイグル自治区の人権侵害問題などに警鐘を鳴らし続けていた。この記事にはさまざまなことが書かれているが「なるほどな」と感じる点があった。それが中国のスパイ活動の目的だ。

元々スパイは軍事活動と結びついていた。だが次第に選挙を通じて相手の国に影響を与えるという政策に変わった。だがこれも過去の話になり今では「経済情報」が彼らの関心事になりつつあるそうだ。

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一般的にスパイ活動というと軍事的優位や覇権を狙って展開するという印象がある。中国が台湾を軍事的に制圧しようとしていると無条件に考える人は今でも多い。あくまでもBBCによるとだが「世界の覇権を狙っている」という点までは正しいようだ。だがその後のプロセスはかなり異なる。

中国はアメリカが覇権を握っているのは経済的に成功しているからだと考えている。また国内でも高い成長率を維持する必要がある。まともな選挙が行われないため「成果」をあげつづける必要がある。

このため「他の国から経済情報を取ってきて自国の発展に役立てたい」という気持ちが強いのだという。成長できないなら他所から盗んで来ればいいという発想はなかなか自由主義の国では出てこない。中国はプロフェッショナルのSNSであるLinkedInなどを使ってビジネスマンに接近するなどとBBCは指摘している。

どこか奇妙な考え方だ。では「アメリカはどこからアイディアを盗んできたのか」ということになる。アメリカはどこからもアイディアを盗んでいない。むしろ貪欲なイノベーションを通じて世界の技術革新をリードし続けている。権威主義の中国には自由な発想がない。このため国家が目標を設定し国家保障をつけて産業を育成する。この過程で支援目当ての企業が乱立しやがて「EV墓場」のようなものが作られる。ただその種は自国では採取できないので何処かから取ってくる必要がある。結果的に独自の経済を発達させることができず二番煎じに終わる。そこで相手の国から情報を取ってこようという発想になってしまうのである。

AI産業の発展を見ると、アメリカの技術者たちは時には「それが社会の発展につながるのであれば法律違反スレスレの問題を起こしても構わない」と考える。こうした人たちは民主党を支援してきた。ところが最近ではアメリカにも変化が起きている。シリコンバレーのごく一部の企業家がバイデン大統領を離反しトランプ氏に資金を供給している。トランプ氏が民主党の牙城になっているシルコンバレーで支援獲得に成功したとして話題になっている。行き過ぎた環境規制や富裕層に対する課税強化などに反対しているものとみられる。シリコンバレーの「保守化」がアメリカのイノベーションにどのような影響を与えるのかにも注目が集まる。「自由」がアメリカのイノベーションを支えていると仮定するとアメリカもまた変化の季節にあるのかもしれない。

いずれにせよBBCは今回の記事を次のようにまとめている。中国の関心は軍事的なものから、選挙介入を経て、経済的なものに移り始めている。いずれにせよ相互不信を背景に偶発的な軍事行動に発展しかねないということだ。

そして、各国のスパイ活動について次々と明らかになればなるほど、それぞれの国民の不信感と不安感が悪化する。そうすると、いざ危機が発生した場合、当事者が動ける余地が狭まってしまう。外国との関係が悪化し続けてついには大勢の命を奪う紛争に至ってしまう、そのような事態を避けるには、当事者がお互いを理解し、共存する方法を見つけることが不可欠なのだ。

これまで日本の中国脅威論者が主張してきた「中国は軍事力を通じて世界支配を目論んでいる」というシナリオは過去のものにありつつある。例えはロシアがウクライナに対しておこなったような軍事侵攻を台湾に対して実行するとは考えにくい。だがそれで安心とは言えない。脅威はむしろ深刻化している。

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