さて、理論を作ったので実践してみる。東京都民が立憲主義を守るためには誰に投票しなければならないかという問題である。ちなみに、僕は東京都民ではないので参政権がなく、都政には興味もない。この文章は特定の候補者への投票を呼びかけるものではない。
普通の人が考える調停者は鳥越さんだろう。野党4党は立憲主義を守るために協同している。しかし、この枠組みにはいくつかの懸念がある。
岡田党首が改憲論争に参加する表明した。支援者の中には「ハードルを上げることで改憲論争を不可能にしようとしている」などと正当化している人がいるが、これは間違っているだろう。つまり、「立憲主義云々という人たち」は見限られたのだ。民主党の支持母体は労働組合なのである。
さらに鳥越さんにはこれといった政策がない。このため鳥越さんが取れる選択肢は2つある。革新系の公約を実行しようとして機能不全に陥る(これは国政で民主党政権がはまった経路と同じ)か民進党会派の既得権益を守るための傀儡になるかという二者択一だ。機能不全に陥れば「やはり野党共闘はダメだった」という認識が広まることになる。すると将来に渡って非自民の政権を作るのは不可能になるだろう。民主党が自民党の増長構造を作ったのと同じ経路で立憲主義破壊につながる可能性が高いのである。
もちろん、増田さんに投票すると、自民党利権は温存される。これは調停手段として、民主主義ではなく、集団主義的な手法が使われることを意味する。現在の国政がたどりつつあるのと同じルートだ。増田さんのルートは「調停」という意味では悪くなさそうなのだが、それは比較的利権構造が明確な地方だから成り立つ話だろう。だが、東京には利権構造に組み込まれていないアウトサイダーが多いという点だ。インサイダーとアウトサイダーの間でインバランスをおこしているのだ。
さて、小池さんに投票すると何が起るのか。現在、自民党の中には都連の通達を無視して小池さん側への支持を表明する議員さんたちが増えている。つまり組織(利害調整機能)に亀裂が入ることが示唆される。組織の中で「勝ち組」と「負け組」が生まれる。
小池さんが当選するとしたら、その原動力は、五輪利権に対する他罰感情だ。小泉政権の場合の郵政族と同じ立場の人たちである。内部情報に通じており、現在の利権構造を破壊するために知識がある。構造としては内戦と同じだ。内戦の場合には資金と武器が外部から提供されることで、混乱状態が長引くのだが、小池さんの場合意の「外部」は無党派の東京都民だ。
もちろん、小池さんが政権を取ったあと、利権側の人たちと結びんで利権擁護派に転じるということも考えらなくはない。しかし、無党派都民の間で大ブーイングが起ることだろう。二期目を目指すとしたら、都民の他罰感情を満たしてやらなければならない。いったん他罰感情を満たすような動きが始まれば、あとは報復感情が自動的に作られる。マスコミは対立構造好きなので注目されることになる。すると、張り切った小池さんは小池劇場を加速させる。ショー・マスト・ゴー・オンである。
このポイントは何なのだろうか。利権が比較的小さかった頃はそれほど注目も集めなかった都政なのだが、オリンピックで巨大な利権が転がり込んできた。だから、内部の利権構造を崩して利益を収奪したいと考える人が出てきたということだ。つまり、利権の急激な変化は、集団の調整機能を機能不全に陥れるのである。つまり、集団主義は変化に弱いのだ。これが逆に民主主義がなぜ優れているかということを示している。つまり、変化がない(成長しない)経済には民主主義は必要がない。現在の世界は成長を前提にしているので、民主主義が必要なのである。
内戦が続き、利権構造が破壊されれば、他党派が流れ込む。暗黙知的な利権調停構造が崩れて、より形式知的な調停構造(つまり、これが民主主義なのだ)が作られる可能性がある。もちろん、内戦がいつまでも続く可能性もある。内戦が続くためには外部からエネルギーが注入され続ける必要がある。それが都政の場合は「世論の力」なのだ。
鳥越都政では議会が膠着する可能性が高い。一方で小池都政にも議会膠着の可能性がある。つまり、オリンピックは東京都政を破壊する可能性が高いといえる。