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選挙と都政のオープンソース化を AIエンジニア安野貴博さんの提案と挑戦

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AIエンジニア兼SF作家の安野貴博さんが都知事選挙への挑戦を表明した。政治のオープンソース化を提案している。これを読んで「なんのことを言っているかわからない」という人もいれば「政治の話は理解できないが彼の言っていることはよくわかる」という人がいるのではないかと感じた。現在の政治体制では泡沫候補で終わってしまう可能性も高いのだが彼の登場によって今の政治状況がいかに異常なのかということがよくわかる。

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安野さんは現在33歳。開成・東大と進みボストンコンサルティングを経て起業というマンガのような経歴を持っている。彼の提案のうち注目を集めているのが選挙の仕組みのオープンソース化と透明化だ。

まず、選挙の仕組みを全て公共財として提供し他の人も使えるようにする。また。GitHubアカウントを持っていれば政策にアクセスすることができ変更提案ができる。詳しい仕組みはわからないが、提案がコミュニティに受け入れれば採用されるという仕組みなのではないかと思う。チーム自治が行き届いた自律的プロジェクトでIT開発をした経験がある人であれば大体どんなことをやろうとしてるか想像ができるのではないか。

現在の東京都の一般会計予算は8.5兆円だそうだが、これはスポンジケーキに例えるとわかりやすい。おそらくこれまでの経緯が積み重なりマーブル状にさまざまな素材が混ぜ込まれている。甘いのかしょっぱいのかがわからず、そもそも膨らんでいるのかも怪しい。膨らんでいないこの塊をケーキと言えるのかというのがいわゆる「自民党型」の政治だ。

小池百合子東京都知事の「新しかった」ところは、このなんの味なのかわからなくなった(あるいはもう膨らんでいないかもしれない)スポンジケーキに生クリームたっぷりのデコレーションを施した点にある。生クリームを甘くすればなんとなくまだ食べられる。そしてそのデコレーションは2期の間に変質し今では小池さんの自身のデコレーションにも使われている。

蓮舫氏は当初はこの一般会計予算8.4兆円(当時)を全て洗い直すと主張していた。だが限られたスタッフだけでそんなことができるわけはない。結局小池さんが政策を出すまで自分は出さないとポジションを変更している。ある程度は都議会議員への聴取はするのだろうが、全体としてはデコレーションにケチをつけるか、あるいは「全体的に甘すぎて食べられない」「カロリーが高すぎる」と主張するのが落とし所になるのではないかと思う。これがいわゆる「反自民」なのだが、そもそも「自民政治」に実体がないので反自民にも実体はない。

実際には小池さんも蓮舫さんも「都知事に近い人の意見が通りやすい」という意味では同じ政治手法と言える。日本で古くから行われていた側近政治だ。だから自民党が隠れて小池さんを応援するとか、共産党と一緒に蓮舫さんを応援できないという話が出てくる。都知事との近さを競っているのである。国政でも維新と国民民主党が同じことをやっている。

安野貴博さんはこのプロセスをGitHubで公開すると言っている。アカウントさえ持っていれば誰でも参加できるというのも利点だがその変更過程をコミュニティが監視できるという利点もある。こういう政治手法が一般化すればおそらく今までの不透明な政策意思決定の流れが極めて異常なものだったということがわかるだろう。

既に電子投票の仕組みは準備されている。これも現在の自民党にとっては不都合だろう。自民党型政治ではまず利害調整が行われる。そしてやる気のない官僚が大手ベンダーに丸投げし、大手ベンダーはさらにそれを下請けに出す。「わかる人」がやれば開発期間も短く従ってコストも抑えることができる。これを運用すれば問題点も見えてくるので「どのようなスコープのプロジェクトであれば運用可能」ということがわかるはずだ。安野さんがXで取り上げているこの仕組みは安野さんが構築したシステムではないようだが、仕組みがわかる人がトップになればこうしたプロジェクトは進めやすくなるだろう。また安野さん自身も何か独自のシステムを提案してくるのかもしれない。

一方で課題も感じた。共同でのプロジェクト管理はプロジェクトメンバーの質によってアウトプットに大きな違いが出る。安野さんの経歴を見る限り「できる人」としかプロジェクト管理をやったことがないのかもしれないと感じた。

日本の教育は少数の士官・マネージャーとその他大勢の兵士の量産がベースの開発途上国型モデルだ。士官級の人たちの自律・自治的な仕組みをそのまま「下」におろしても意見がまとまらないことが多いはずだ。そもそも日本人は一部のトップエリートを除いて問題解決型の議論ができない。

安野さんは開成・東大卒業後ボストンコンサルティングに入っている。このことは現代の士官級の人たちがそもそも霞ヶ関のような政治に向かわないことを意味している。最近「東大の志望者が減り日東駒専が増えている」という記事も見かけたようにエリートは日本社会と日本型組織に魅力を感じなくなっている。

これは戦況分析ができなくなっているのにそれぞれの現場で兵隊たちが毎日塹壕を掘っていると言い換えられる。この「なんのために作戦を実行しているのかわからないがとにかく毎日忙しくて寝る暇もない」という徒労感だけが残る。これが自民党型政治の正体なのかもしれない。

安野さんに限らずトップエリートたちが日本型組織に対峙すると「士官なき組織」との対処を余儀なくされる。有権者の場合はグレン・ワイルが提唱している二次投票のような仕組みを使えばある程度補正は可能なのだろう。が、都知事は議会対策が必要になる。戦略的思考を持たなくなった職業政治家や「権力者に近い人ほど意見が通りやすい」という現状を変えてゆくのはなかなか難しいのかもしれない。

彼が実際に都知事になれるかは別にして都知事選にこのような人が出てくることによってようやく現在の政治の仕組みが異常なのだということが可視化できるようになる。都知事選挙での活躍を期待したい。

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Comments

“選挙と都政のオープンソース化を AIエンジニア安野貴博さんの提案と挑戦” への2件のフィードバック

  1. 細長の野望のアバター
    細長の野望

    政策のオープンソース化をで実現するという提案は、面白そうな試みだなと思いました。政策の公開だけなら色々なところで行われていますが、変更がオンラインで自由に行うことが出来るようにしているところはないでしょう(たぶん)。
    実施前から予想される問題点は多くあると思います。例えば、変更の提案(プルリクエスト)を承認か否認する人員(質と量の両方が求められる)の確保、悪意のあるプルリクエストの対処、「誰でも」をどこまで含めるか、(実際に使用したことがないので想像ですが)GitHubを使うのに高い情報リテラシーを求められるので「誰でも」使えるのか、そもそもGitHubという海外企業を使うリスクなど。
    しかし、実際に運用しないと分からないことも多いと思うので、実証実験を行ってみたらいいんじゃないかなと思います。おそらく、提案者も最初から実験的な運用を想定しているからGitHubという既存のシステムを利用しているのではないかと思います。
    試験的に運用しつつ、フィードバックを集めて細かく回収する必要があるので、アジャイルソフトウェア開発のような手法が求められるかもしれません。
    政策のオープンソース化が実用に至るためには、十分な年月をかける必要があり、お金もかかるでしょう。優秀な指揮者とエンジニアと分析者が求めらそうです。

    1. 結局TBSがどう取り上げていいかわからず「逆にどうしたらいいですかね」と安野貴博さんに聞いていたのが面白かったですね。インタラクティブ型の選挙に日本人の脳がついて行けていないというのがよくわかりました。

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