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岸田総理では頑張れない 「そうじゃない・それじゃない」感満載の自民党政治の正体について考える

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なんとなく岸田政権にうんざりしている人は多いのではないかと思う。だが一体何にうんざりしているのかと問われるとうまく言語化できない。色々と考えてゆくと、「なんかちがう」が多いと気がつく。

さらにこれについて考えてみると「岸田総理の元ではなんとなくやる気がでない」という問題が見えてくる。いっけんとても稚拙な感想なのだがこれを感想を突き詰めてゆくと発見も多い。おそらく普通の政治ブログではこんな幼稚な議論は怖くてできないと思うのであえて挑戦してみたい。

しばらく考えた先に「人は何によって動かされるのか」が見えてくる。それでは人は何のために頑張るのか。それはちょっと頑張れば手が届くかもしれない余剰である。日本にはそれが足りない。日本は「余剰欠乏社会」なのだ。

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岸田総理が「新しい資本主義実現会議」を開いた。そもそも「新しい資本主義」が何なのか説明できる人はいないと思うのだが頭から否定するのもつまらないので内容を見てみよう。あれこれアイディアを出してみるがこれと言った決め手がないことを「総花的(そうばなてき)」という。一言で言うと総花的な内容だ。

  • 改定案は足元の経済について「デフレ脱却への道は、いまだ道半ば」と指摘。
  • 物価上昇を上回る持続的な賃上げには中小・小規模企業の賃上げ定着が必要と分析。
  • 中小企業・小規模企業の賃上げのためには公正取引委員会と関係省庁が連携して転嫁を後押しする。
  • しかし価格転嫁だけではサービス産業の賃上げには結びつかないので人工知能(AI)やロボットの活用など自動化・省力化投資を加速して生産性を向上
  • 新しい産業も必要だから、これまで通りにコンテンツ産業の輸出支援を行う。スタートアップ(新興企業)育成に向けては、起業家と海外大学や投資家のネットワークを構築し、東京都内での連携拠点の整備

時事通信のまとめ方は少し乱雑だが、整理して情報を並べ替えると一応「作文」としては成り立っていることがわかる。二極化した経済状態を解消するために価格転嫁を行いそれも波及しないところは生産性向上で乗り切ろうとしている。

だが、何が足りない。テクニカルに分析すればそれなりに矛盾点は指摘できる。例えば「デフレ脱却」はそもそも「もうインフレなのに」と感じる。時事通信は「自民の財政積極派、再建派が提言 岸田首相「両方聞き検討」」という記事も出している。つまり岸田総理は足元の異なる意見を集約できていない。これは政治と金の問題でも言えたことだが党内から少し浮遊して存在しており党内の気持ちを掴みきれていないのだろう。おそらく岸田総理は自民党の「その他大勢」のことが好きではない。この自己否定の気持ちが自民党のガバナンスの混乱につながっている。

だがそれ以前にそもそもどうやったら「今日1日頑張って働こう」と思えないと感じた。政治について真面目に考えているような人は「そんな稚拙なことはどうでもいい」と感じそれ以上はこの違和感について追求しないかもしれない。

人が頑張るためには「1日頑張って働けばちょっと贅沢なものが食べられる」とか「今月営業成績を上げたらボーナスがもらえて今考えているよりも一段階いい車が買えるかもしれないというような「ご褒美」が必要だ。

このご褒美を「余剰」という。手が届く範囲で頑張ればちょっとした余剰が手に入ると思える時に人は頑張る。実は日本の今の社会にはこの余剰が得られる見込みが少ない。つまり今の生活をぎりぎり維持することはできるがそれがこの先続けられる見込みが立てられないという「余剰欠乏症」に罹患した状態なのだ。

余剰欠乏症は未来への投資の不足という症状を引き起こす。

  • 企業は国内に投資しなくなった。少子高齢化のために経済成長が見込めない。
  • 企業は(現状維持のための教育は行うが)成長のための人材教育を行わなくなった。
  • 高齢者は今のかろうじて健康な生活がいつまで維持できるかわからないので貯蓄を放出しなくなった。
  • 現役世帯は「子供を育ててゆくだけの余剰がいつまでも得られるかどうか不安だから」という理由で子供を作らなくなった。
  • 国立大学への投資も滞っていて「今のままでは経営が成り立たない」という声が出ている。

例えば子育てに対する不満は「ぎりぎり頑張れば子育てはできるがそれによって報われている感じがしない」ことに起因する。さらに「ぎりぎり頑張って張り詰めてた生活を送っているがこれが報われる日が来るのだろうか」という心もとなさもあるかもしれない。実はこの現象は個人だけでなく企業にも広がっており、その症状は意外と深刻だ。

自動車産業で認証不正問題が広がっている。実は認証規格を決める国よりも現場の方が技術を蓄積していることが原因となっている。海外にも車を売っているメーカーもあり海外のスタンダードで認証をやりたいという会社もあったようだ。

国は「何かあった時に責任を取らされたくない」から基準を守らせようとしているだけだ。つまり「この仕事を頑張ったからといって官僚が報われる」という状態になっていない。このため、官僚は情報をアップデートして自動車産業を発展させようという意欲を持たない。この認識のずれが日本にとって最後の金のガチョウである自動車産業を締め殺そうとしている。つまりここでは官僚の余剰のなさがやる気のある自動車産業を殺そうとしているということになる。

半導体はもっと悲惨なことになっている。ラピダスには民間投資が集まらない。このため政府は国家補償をつけてラピダスへの投資を促すことにした。投資家の不安を取り除こうというのだ。だがラビダスに投資が集まらない理由は不安ではない。将来性が感じられない。

このプロジェクトは非常に不幸な歴史を辿っている。リスクをとって市場を開拓してゆこうという意欲がなくなった日本の半導体産業からなるエルピーダメモリや韓国や台湾に負けつつあった国内液晶パネルメーカを集積したジャパンディスプレイなどが成果を出していない。成功体験がない企業の集積体が成功体験を勝ち取れる見込みがないまま国に引き取られたからである。

このためラピダスは「世界でどの企業もなしえていない2ナノメートルの半導体」という高すぎる野心を掲げている。「国家支援が失敗した」といわせないためやる気のない中でさらに高いハードルを課すというダブル・ダウン状態に陥っている。ちなみにダブル・ダウンとは「あと一枚だけ引く」という条件で掛け金を二倍に増やせるというトランプゲームのルールである。当たると大きいのだが失敗する確率も高いという状態だ。

現状はなんとなかっているという人が多いので国民は政治に関心を向けなくなった。このため日本には目立った反政府運動がない。国の支援に期待する人たちはそもそも余剰がないので政治家をサポートできない。このため与野党共に(実は立憲民主党もパーティー依存に陥っている議員がいる)金策に走り回っている。

さらに国が何か新しいことをやろうとすると「新しい負担」を要求するようになっている。このため「政治には関心がない。政治を支えるための負担もしない。とにかく何も変えるな。現状を維持しろ。新しいことをやるな」という空気が生まれた。岸田政権が政策を打ち出すたびに不機嫌な反応が出てくるのはそのためだ。

これも余剰欠乏症の症状の一つと言って良い。しかしながらこの国には政治の症状を分析するドクターがいない。

近視眼に陥った政権内部では「憲法改正で名前を残すべきだ」という意見が聞かれるようになった。憲法改正をやれば未来に希望が持てるようになるだろうか?と考えてもポジティブな回答は見出せそうにない。もちろんそれはそれで重要な問題なのだが経済に対する明るい見通しを実現させる方が優先順位は高いだろう。

国会議員が「国民がもう一度頑張ってみようと思える」政策を提示できないのはなぜなのか。

第一に思い浮かんだのは「実業を経験した人が政治に参加していないからだろう」というものだった。だがこの疑問をもう少し深掘りしてゆくと「そもそも政治の役割」や「何が人を動かすのか」を深く考えたことがある人がいないからなのだろうと感じた。政治の中枢にいる人たちは、政治家になる理由を考えたことがない世襲の人か議会内政治を通じて上に上がってきた人たちばかりである。おそらく実業を経験していなくても「人はなぜ動くのか」について深い知見があればこのようなことにはなってないはずである。

岸田政治の終わりが近づき議会内政治家たちは盛んに動き出している。横浜市議経験者である菅義偉前総理は非主流派と呼ばれる人たちを呼んで「私たちを忘れないでくださいね」とアピールした。マスコミ評によると岸田おろしに発展させるつもりはなくプレゼンス誇示に終始したようである。

堺市議の経験のある維新の馬場代表は盛んに岸田総理に取り入っている。前回は「黒塗りもあり」と主張し波紋を広げていたが、今回は「憲法解散もアリなのではないか」といっている。憲法では自民党に歩調を合わせると言っておりわかりやすい「政局利用」となっている。維新は大阪市民の「自民党はちょっと違うよね」という違和感から生まれた政党なので、おそらく馬場代表の自民党へのアピールは維新の既存顧客の離反につながるだろう。

「岸田総理を筆頭に今の政治ではなんかやる気が出ない」というのは非常に稚拙な意見のように思えるのだが、実は「人は何によって動かされるのか」という割と根源的な問題とつながっている。未来を提示するのは重要なのだが、その未来は「ちょっと頑張れば手が届きそうな」物でなければならない。

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