ざっくり解説 時々深掘り

国民の期待に応えないままで議論が迷走 政治資金規正法の改正案が自民・公明・維新の賛成で可決

Xで投稿をシェア

岸田総理手動で進められた政治資金規正法の問題で政治(自民党だけではなく)が何を失ったのかについていくつかの記事を書く。この文章はその基礎になるものだがおそらく多くの人は文末まで到達できないだろう。だが、それこそがこの問題の本質である。つまり議論全体が無意味であり徒労感しか残らないため「政治に関心を持っても仕方ない」以上の印象にならないのである。

まとめ

  • 今回の議論は全体的に国民の期待には全く応えないゼロ回答だった。
  • 自民党が変わったという実感も得られなかった。
  • 決意がないまま条件闘争が始まってしまいさらに頻繁に内容が変わる複雑な議論となった。蚊帳の外に置かれた政党から「内容がよくわからない」という指摘がついている。国民が理解できるはずはない。
  • 「制度に穴がある」ことは立法者も認めている。維新は「穴に蓋がついたのが前進である」と主張していた。今回維新が失ったものはとても大きかった。
  • 細かい点を決めないままで「賛否」だけを問われる結果になった。ほとんど全ての問題は「後日」検討となる。このため議論をつぶさにみても政治理解の解像度は上がらずモヤモヤ感しか残らなかった。
Follow on LinkedIn

コンテンツのリクエストや誤字脱字の報告はこちらまで

|サイトトップ| |国内政治| |国際| |経済|






国民が議論に期待を持てない理由

国民のそもそもの疑念は何か。整理してみよう。

  • なぜ今の国会では国民の感覚と違った意思決定が連発され国民が蚊帳の外に置かれるのか
  • 政治が少子高齢化、地方の過疎化、経済の活性化を解決できないのはなぜか

このためうっすらと「企業献金によって意思決定が歪められている」という疑念が生まれている。だが、今回も政治資金に対する根本的な議論が進まなかったことで「うっすらとした疑念」としてそのまま放置された。

根本の問題が整理されないままで、自民党と維新が条件闘争に陥ってしまった。そもそも政治資金とは何か・政策活動費とは何かという最初の定義すらまとまらず、そのまま枝葉が話し合われたため「中身を見てもよくわからないし議論の過程を勉強しようとしてもついてゆけない」という状況が生まれている。

そもそも議論の中身がよくわからない上に「これが解決されたらいいことがある」とも確信が持てない。政治議論に興味を持てと言われても「いや、それは無理ですよね」としか言いようがない。

政治に関わるとロクなことがない

さらに驚くべきこともわかった。政治家たちは支援者が「政治家に関わると嫌がらせをされる」と考えているようだ。

例えば自民党には「献金者は政治家との関係を知られたくない」という一貫した認識がある。また維新も「政治家とのつながりが世間に知られると嫌がらせをされる」と考えているようだ。奇しくも「党勢拡大」のために政策活動費が必要と考えている政党はおそらくほか陣営からの引き抜きをおこなっているのだろう。このため「裏切り」がバレるのを恐れているのだ。政治に興味を持っている人たちは小さな村を作っている。この村の中にいてこっそりみんなと違う人たちと接触をしているのだから嫌われて当然だ。

政策活動費は「政治家との関わりを実名で語れない」という後ろ暗さをうんでいる。これが政治資金が透明化できない理由のようだ。

立憲民主党や共産党は企業団体献金こそが諸悪の根源であると主張している。確かにこれが選挙で争点化されれば国民が選択できる。しかし、そもそも「政治に関わるとロクなことがない」という固定観念はかなり根強い。

理論的にはその気になれば当然立憲民主党を勝たせることで企業献金の廃止などに向かうことができる。政治に関わっている人は村の監視を嫌い政治に関わっていない人は「政治に関わってもロクなことにならない」と考えている。税金の優遇措置などが行われたとしても個人の政治参加はまったく活発にならないだろう。

政治資金の定義すらまともにできなかった

今回の議論で最も驚いた点がある。実は政治資金とは何か・政策活動費とは何かという合意ができていなかった。「詳細は後日」となったことで今も厳密には明らかになっていない。不透明な政治資金は不透明な政治活動の結果だ。つまり多くの有権者が政治に興味を持たず限られた「パイ」を争っているために政治資金の定義そのものがゲームを左右することになりかねないという不健全な状況が生まれている。

議論の中に「政治活動のためにした」と「政治活動に関連した」の違いについての議論があった。だが、ここに明確なコンセンサスはなさそうだ。さらに政治活動に選挙を含めるかについても合意がないとの指摘さえでている。つまりこれだけ議論したのに選挙資金の問題が解決されない可能性がある。自民党の説明者は答弁の中で「選挙資金は当然含まれる」と主張しており、維新の青柳仁士氏(法案を取り下げたため答弁はできなかった)質問時間を使って「選挙費用は今回の議論に含まれる」との主張を展開していた。岸田総理も選挙費用は今回の規制に含まれると答弁していた。だが、それでも法案に反対している人たちは納得しない。

さらにかなり細かく除外規定が設けられており運用上「勝手な」解釈が残る可能性は高そうだ。そもそも「政策活動費」に法律的な規定がなく、政策活動費は何かという定義から行われた。さらに自民党が「50万円以上の政治に関係するお金」と定義したことから議論はすっかり「50万円以上かどうか」ということになってしまった。

さらに「出入り」のうち「出(支払い)」だけでは資金の透明化は図れない。当然お金の流れを把握する場合には当然「入(受け取り)」も明らかにしなければならない。

午前中の締めくくりで福島伸享氏は重要な指摘をしている。政党から政治家に「言い値」で政策活動費に相当するお金を渡す。ただしそのお金は言い値による渡し切りであり法的には連続していない。つまり、政治家が実際にどう使っているかは法的には監視されない。これを「政党のガバナンス」で補うというのが今回の修正案だ。そもそも自民党のガバナンスが崩壊しているためにこのような話になっているのだから「結局何も変わらないのだ」ということになり午前の答弁が終わった。

午後の岸田総理へのの質疑では「収入に関しても監査すべきではないか」とする質問が出されたが、岸田総理の答弁は後ろ向きなものだった。「出入」が明らかになりかつお金の流れが紐づかない限り全体のお金の流れは明らかにならないため、裏金の対策にはなっていない。また青柳仁士氏も同じ指摘(幹事長から個別の議員に渡ったお金をどうトレースするのか)について質問していたが、岸田総理は「対応する」とは答えなかった。

ここまで読んで「一体何を言っているのかわからない」という人がほとんどだと思う。共産党も法案がコロコロ変わるために質問が組み立てられなかったと指摘し、国民民主党も「ほとんどが今後協議になっており国民に説明できない」という立場だった。つまり参加している人たちでさえよくわからないのだから、途中から議論に参加した国民に理解できるはずなどないのだ。


午前中のテクニカルな審議についての詳細は以下の通り。維新の提案を撤回し午前の会議が始まる。午後は岸田総理を加えて質疑が行われた。

  • パーティー券の公開は5万円超に書き換え。お金は全て口座振込になり透明性が確保される。
    • 自民党としてはかなり思い切った「決断」だったとの答弁。
  • 政策活動費は当初50万円以下未公開としていたがこれを撤回。また、全て10年後に公開し、年月単位で公開(詳細は後日検討)。政策活動費用には上限を設ける(詳細は後日検討)
    • 領収書提出は10年後であり黒塗り領収書が提出される可能性がある。なぜ政策活動費を廃止できないのか?
    • 領収書はどこで誰が保存するのか?
      • 明確な回答なく各党で協議するとの答弁。
    • 誰が公開するのか。政党がなくなってしまえば公開されなくなってしまうのではないか?
      • 明確な回答なく各党で協議するとの答弁。
    • 法律のどこに「領収書が保存される」と書かれているのか?
      • 附則で説明されており法制度化そのものは(公開条件を除き)担保されている。
  • 議員が逮捕された場合は政党交付金を頭割りで停止
  • 政策活動費の使い道について第三者機関を設置するべく検討
    • 詳細を問われるも詳細について言及なし(なるべく早い段階に)
  • 外国人の寄付の監視(3年を目途に検討)
  • 個人の寄付を促進する税優遇(3年を目途に検討)
  • 選挙区支部への税制優遇の見直し(3年を目途に検討)
  • 代表者が会計状況の報告を受け虚偽があった場合は50万円以下の罰金と公民権の停止があるがどのような効果があるか?
    • 代表者が「知らなかった」と言い逃れすることができなくなる。
  • 政治資金終始報告書の透明性向上を狙ったデジタル化の推進について
    • 詳細は今後議論する。
  • なぜ今回委員会審議がこんなに混乱したのか?
    • いろいろ調整が大変だったから仕方なかった。
  • 企業団体献金が「失われた30年」の原因ではないか?
    • 既得権を守ることにならないように自らを律してゆくことが重要だ。政党ガバナンスの問題だ。
  • 人件費・光熱費などの経常経費や交通費などが公開対象になっていないのはなぜか?
    • 「問題になっている」政策活動費に当たらないから。
    • 本来公開すべき政治資金を経費と偽った場合には(故意・重過失の場合のみ)虚偽記載の対象になる。会計責任者から報告を受けていた場合には議員が失職する可能性があるため抑止効果が働く。
    • 政党が「経費だ」と言い切ればそれは全て経費になってしまう。また時効を迎えており実効性は担保されないのではないか?
      • 差額がわかるから政治活動人偽って個人収入になっていた額は「可視化」はされる。10年後課税の対象になる(可能性がある)ため実効性がある。
    • 陣中見舞いなどはどうなるのか?
      • 政治資金規正法と公職選挙法で「政治活動に関連した支出」の定義が違う。これは選挙関連費になる。
    • 何が経費になるのかなどが明確でないのでまた運用上混乱するのではないか。
  • 旧文通費は今国会で成立させるのか?
    • 詳細はお答えできない。できるだけ頑張る。(岸田総理)

コンテンツのリクエストや誤字脱字の報告はこちらまで