あまり盛り上がらなかった参議院選挙が終わった。感想をいくつかまとめたい。第一印象は「誰も大勝しなかったな」というものだった。負けた人たちはいるが、これはぼちぼちとまとめたい。
自民党・公明党だけで2/3を取ることができなかった。維新を入れてようやく届くか届かないかというところらしい。自民党は改憲に消極的な公明党を乗り捨てて維新と組むという選択肢がなくなった。もうすこし明確に勝てば「時計の針」は大きく進むことになっただろうと思う。おおさか維新の会もそれほど勝たなかった。
だが、マスコミは「改憲できる条件が整った」と言い出した。この人たちは知ってて言わなかったのだなあと思った。田崎史郎氏などは「みんなが賛成できる緊急事態条項から変える」などと言い出している。緊急事態条項は左側の人たちが「ナチの再来だ」と騒いでいる条項なのだが、田崎さんにとって「みんな」とは、左側の人たちを除いた「みんな」なんだなあと思った。田崎さんはバカの壁を作るのはもうやめたほうがいいと思う。田崎さんや安倍さん的には「安保法制はみんな必要だと思っている」ということになるのだろう。
さて、「立憲主義を破壊する」というキャンペーンは無効だったようだ。やはり主眼になったのは利益分配(みんなが経済政策といっているもの)だった。ソーシャルメディアは不満の捌け口にはなっているが、実際の投票行動とは関係がないようである。ソーシャルメディアは負けたが民進党は大敗しなかった。議席はとれなかったものの自民党と競った地域がかなりある。潔く負ければ政界再編が進んだかもしれないのだが、かつての社会党のように(もう知らない人が多いのではないかと思うが)しぶとく残ってしまった。
東北の自民党の敗北は驚きだった。今回農協は軒並み自民党を支持せず「自主投票」にしたのだが、TPPに対する不安が広がっていることが分かる。と、同時に地方での農業系の票の大きさが伺える結果となった。あまり表立って情報発信する層ではなさそうだが、実際には違いを作った。民進党が大きく負けなかったことと合わせて考えると、財政出動をして地方をなだめる必要があるわけで、やっかいな結果となった。
日経の調査によると東北で自民党が負けたのは高齢者の票が野党側に流れたかららしい。
鹿児島県の結果が面白かった。参議院選挙区では自民党が勝ったのだが、知事選挙では原発反対を訴える三反園さんが勝った。中央からの利益は受け取りたいが、不利益の分配は嫌だということだろう。東北の結果と合わせると、地方と中央はねじれて行くのかもしれないなと思った。農協が自民党を支持した福島でも自民党が負けている。原発への反発は強かったのかもしれない。とはいえ、佐賀や福井では自民党が勝った。
農家が静かな影響力を見せる中、若者向けの政策はあまり意味がないことが分かった。表現の自由の山田太郎氏は26万票程度取ったのだが落選した。一方、東京の三宅洋平氏も渋谷に人を集めただけでは当選できなかった。結果を見る限り、若者は投票に行かないから、若者に訴えても無意味だということになる。結果的に、山田太郎氏は社民党から出馬すべきだったことになる。福島瑞穂候補と同程度の得票数を得ているからだ。すると社民党は議員を獲得できていたかもしれないわけで、政党要件を失うことはなかっただろう。一方で、自民党は20歳以下の票を伸ばした。「自民党=正解」という図式ができつつあるようだ。今40歳から50歳代の人が若い頃には「反抗しても社会自体はうまく回っていた」ので、気軽に社会党に投票することができた。でも、今の若い人たちがそういう気持ちになれないのはよくわかる。新卒が大会社にこだわるみたいなものなのではないだろうか。
当初の感想では「若者関連の政策は意味がない」と思ったのだが、山田太郎候補の28.9万人というのは比例落選者の中では最多得票だったようだ。若者の支持を集めたがっている政党にとっては、新しい票田の発見ということなのだろう。
細かく各県の得票率を見ると民進党と自民党が競っている選挙区も多く「アメ玉」の投下がなくなれば、離反されそうな地域が多そうだ。地方をなだめるための財政出動は続くだろう。これはすぐさま日本を破滅させるわけではないが、成人病のように経済を蝕んで行きそうだ。
護憲派は敗北したと言ってよいだろう。本当に自民党による改憲を阻止したいなら、極端な陰謀論を含む「戦争ができる国づくりが」という言動は控えたほうがよさそうだ。社民党はついに政党ではなくなってしまった。なにやら感慨深いものがある。
普段から安倍政権批判のエントリーには「いいね」が良くつくのだが、ページビューは多くない。つまり社会的に影響力のない人たちが食いついているようだ。だから、ツイッターで安倍政権に対する不満を呟いても何も変わらないことは明確だ。自分の家族や友達をどれだけ説得できるかが重要だということだ。
「自民党が勝つとどうなるのか」という検索キーワードでの流入が激増した。選挙速報が始まった頃に激増し終わると収束し、7月11日にまた増えた。検索して答えが見つかる訳ではないと思うし、選挙直後にすぐに状況が激変する訳でもない。このあたり、危機感がある人たちは真剣に考えたほうがよいと思う。結局、政治というのは継続的にモニターするしかないのである。おすすめは住んでいる地域の近所の事務所を訪れて話を聞き、どんな選挙結果が出たかを見ることだ。結果は市町村のウェブサイトで結果を見ることができる。まずは、気軽な社会科見学のつもりでいいのではないだろうか。地域の課題が分かるし、面白い発見があるかもしれない。