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独裁のコスト

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選挙日を迎え「ああ、このままでは日本は憲法のうち緊急事態条項が改訂され、選挙がなくなり日本が独裁国家になってしまう」というツイートを多く見かける。確かにそんなことになったら大変だ。実際のところどうなんだろうと思った。

いろいろ考えてみて、独裁のコストってどれくらいのものなのかと思った。成熟した民主主義国がいきなり独裁国家になった事例はない。しかしながら、反対の事例はある。北朝鮮と韓国の事例だ。北朝鮮は独裁国家であり、南北ではGDPを比べるのも失礼なほどの差がついている。民族の優秀性という意味で南北には違いがなかったはずだし、北部は工業地帯だったのでそもそもの交易条件は悪くなかったはずである。つまり、経済格差は「独裁国家」かそうでなかったかという違いなのだ。
知っている方もいらっしゃると思うのだが、韓国も1987年までは軍事独裁国家だった。盧泰愚大統領が民主化宣言を出したのは1987年なのだという。金大中氏が釈放され、1988年にはオリンピックが開催される。その頃から韓国のGDPは上がり始めて、南北間の差はどんどん大きくなった。その後も若干のもたつきはあるものの、上がり続けている。
つまり、これが独裁のコストなのだ。開かれた市場がないと外資が導入しにくいなどという理由もあるのだろうが、国民の一人ひとりががんばって稼ごうというモチベーションは独裁によって毀損されるのだろう。また成長のためのリソースが国民に解放されるというのも重要な点なのではないかと思われる。
だが、残念なことにこのコストは隠れている。つまり、現在の北朝鮮がどの程度の潜在的成長力を持っているのかということは誰にも分からない。かろうじて「独裁はよくなさそうだ」と分かるのは隣に同じ民族の国家があり比較ができるからだ。
日本が独裁化(あるいは社会主義化)しても、それがどの程度のコストになっているかは誰にも分からないということになる。それはもう始まっているかもしれないが、誰にも分からない。そして、人権を制限して独裁制を敷き「国民の心を一つにして」も、経済的に成長できる見込みはそれほど高くなさそうである。
実際に、日本ではGDPがシャープに落ち込んでいる。グラフはドルベースであり、円安に伴って落ち込んでいるのだ。最近は円高進行なので、GDPが急進するかもしれない。円安を誘導したのは安倍政権の政策なので、GDPが急激に落ち込んだのは安倍首相のせいである。
不思議なことに民主党政権下ではGDPの上昇に伴い経済がよくなっているという実感はなかった。安倍首相は選挙期間中「あの閉塞した民主党政権時代に戻りたいですか」と叫んでいたが、実際に閉塞しているのは安倍政権の方なのだ。にも関わらずその実感がないのは、首相が単に印象操作によるものとしか考えられない。「閉塞感」は将来に対する見込みであって、現在の景気とはあまり関係がない印象のようだ。
さて、独裁は国家の潜在的な成長能力を著しく毀損させるので、経済が順調な国家が独裁を指向することは考えにくい。しかし、経済の行き詰まった国となると話は別である。日本が第二次世界大戦に突入したのは日本が独裁国家だったからではない。経済的に行き詰まった中でも党派対立をやめなかったために国民が軍部に期待したのだ。大きな新聞もそれを応援した。
つまり、現在の状態で自民党が独裁を指向するということはないだろうが、逆に国民が「人権(たいていは他人の人権という意味だろう)なんか要らないから、経済的な打開策を示してくれ」と「力強いリーダー」の登場を熱望することはあり得る。つまり、人権や自由を投げ出すとしたら、それはやはり国民の側なのではないかと思う。
だが、それは自滅への道なのではないだろうか。
 
 


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