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「政治と金の問題」で自民党のガバナンスが崩壊中

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「政治と金の問題」で自民党のガバナンスが崩壊しているとTBSが伝えている。維新がこれまでの永田町のリテラシーを破ったことで混乱が生じているようだ。だが内容を見てみるとどうやら維新のせいというわけでもないらしい。

組織をコンピュータになぞらえるとわかりやすい。外から情報を取得し、それを処理し、外に出力する。ところが自民党では「内部処理」が崩壊している。中にいる人たちと共にこれまでの予定調和的な政局報道に慣れた人たちもこれを「ガバナンスの崩壊」と感じるのだろう。

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そもそも自民党の支持率が落ちているのはどうしてだろうか。それは国民からの要望に岸田総理が答えてくれていないと多くの国民がうっすらとした違和感を感じているからだ。政府・自民党内ではさまざまな意思決定が行われているが「なんとなく何かが違う」ものばかりである。

これまでは、岸田総理のやり方や考え方にどこか問題があると思われていた。

ところが「政治と金」の問題で状況が少しずつ変化し始める。どうやら岸田総理はそれなりに統治改革を進めようとしているようだ。だが議員や長老(森喜朗氏)の発言は何かがおかしい。そもそも彼らは何が悪いのかがよく理解できてない。

それが示される事例があった。

自民党の田畑裕明議員はパーティーへの参加者に対して「出席は不要です」という連絡を行った。確かに政治資金パーティーは議員個人に対する献金の迂回のための単なる手段なのだが、それでも体裁の上では「実態のあるパーティーをやる」という理由で開催が認められている。つまりごまかしの主旨がわかっていればこんな記載になるはずはない。だが、田畑議員はおそらくそれが理解できていない。「何だ比例の泡沫議員か」と思ったのだが、田畑議員は富山市を地盤にし4回も当選したする安倍派議員である。選挙には比較的強く必死でパーティをやる必要もなさそうなのだが、それでもやめないのである。

安倍総理が自民党から奪ったものは大きかった。それは「考える力」だ。

個別の議員は単に数合わせ要員であり必ずしも幹部たちが何をやろうとしているのかを理解する必要はない。単に議会に出席し安倍総理の振り付け通りに動いていれば「後は自由に利権の追求をしていい」というのが安倍政権時代の自民党の姿だった。このため個別の議員は「今有権者が何を考えているのか」を考えなくなり最終的には自分で考える力も失った。つまり外から情報を取り込んで自分達のものにするという装置が壊れてしまったのである。

外からのフィードバックの不在が岸田政権の「不具合」の根本的な理由だったといえるだろう。今回、岸田総理は各種世論調査などを参考に「これでは世論の要求に応えられない」と判断した。そこで頼ったのが支持母体との連携が綿密に取れている公明党と無党派とのコミュニケーションパスを持つ維新だった。つまりセンサーが壊れていない人たちに頼ったことになる。

今回維新はかなり具体的な要望を出したようだが外からのフィードバックが取れない自民党は「維新相手に条件闘争をすればなんとかなる」と考えてしまったようだ。維新の向こうにいる無党派層の人たちの存在を無視し、維新を単なる利益獲得団体だと考えてしまった。ここで何らかの取引をすれば維新も靡いてくるだろうというのが自民党の基本的な考え方だった。そしてマスコミもそれに同調した。マスコミも政治は永田町の中で行われていると考えている。

しかしこの目論見は外れた。維新が「このままでは賛成できない」と宣言したことで自民党内も自民党的な政治手法になれていたマスコミも大騒ぎだったようである。結果的に「維新は何を取りにきているのだろう?」「自民党はどこまで譲歩させられるのか?」ということになり「ガバナンス崩壊」という自体に陥った。

TBSの伝えるところによると岸田派の中からは「このまま解散総選挙をして自民党を下野させた総理(つまり宮沢・麻生両総理大臣の再来)」になるよりも「憲法改正を発議した初めての総理大臣になるべきだ」という声も出たそうだ。多数派の国民は「経済政策よりもとにかく憲法改正」などは望んでいない。だが、もはや自民党にはそのような冷静な判断能力は残っていないだろう。

おそらく自民党の議員たちには「国民の声を聞いてそれを政治的なアジェンダにまとめるべきだ」という意欲はない。表紙になる総理大臣さえ国民を納得させ続けてくれれば自分達は今まで通りに好きなような利益追求活動ができると考えている。

今回の騒動のきっかけになった政治と金の問題は維新がどの程度レッドラインを妥協するかが次の争点になる。

これまでのお金の扱い方を見ていると自民党が政治資金を透明化させるとは考えにくい。おそらく領収書の全面公開につながるような改革案は出てこないのではないかと思う。維新が「貸しを作る」ことを優先するならばレッドライン(譲れない一線)をこっそり修正した上で成果を強調するのではないかと考えられる。遠藤国対委員長は「賛成します」と情報発信しており玉木雄一郎氏から「まだ何も獲得できていないのでは?」と言われてしまった。橋下徹氏も「旧文通費の問題はどうなった?」と注文がついている。

つまり、今回の維新の「功績」は政治と金の問題を解決する上では非常に瑣末な「前進」ではあるが、岸田総理が大きな妥協を行い公明党と維新に特点を与えた上に支持率の回復につながらなかったという結果が残る。つまり形式上は対立姿勢を保つ立憲民主党が実は形を変えた自民党の翼賛勢力であるということもわかる。「反自民」が党是になった政党なので自民党がいてくれないと困るのだ。

仮に報道されている通りに岸田総理が解散総選挙を諦めたとするとこのまま「次の総理大臣は誰なのか」に関心が集まりそうだが、果たしてその程度で済むのかと問われると疑問も残る。意思決定のための装置が完全に故障した状態で「骨太方針」をまとめることになるからだ。国民はまた「ああそういうことではないんだよな」と感じるのではないか。

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