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国民の分断を図る自民党とシュタージ

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今朝から「密告フォーム」という言葉がTwitterでトレンド入りした。自民党が「偏向教師」を密告するフォームを設置し、削除し、文言の一部を修正した上で復活した。これを見て心底悲しい気分になり、なおかつ「それでも自民党に投票する人が多いんだろうなあ」と考えると、もう絶望的な気持ちしか残らなかった。
これはなぜいけないことなのだろうか。東ドイツにシュタージという組織があった。秘密警察なのだが、なんと国民の1割がシュタージに関与していた。東西ドイツが統一されたとき「本人や家族だけが閲覧してよい」ということになった。東ドイツ国民が知ったのは、会社の同僚、近所の人、あるいは家族までもシュタージであり、自分たちの事細かなプライバシーが国家に売りつけられていたという事実だった。このことは東ドイツ社会を大いに動揺させ、中には家族崩壊も引き起こした。
自民党がやったことは「ほんの小さな出来心」のようなものだろう。自民党は日教組に敵対意識を持っている。そのため、教育現場には「アカ」が潜入しているという意識が強いのだろう。アカが政権担当という自分たちの神聖な権利を妨害することがあってはならない。自民党が日本に君臨することは日本の安定のためにぜひとも重要なことなのであり、つまりこれは正義なのだ。
ところがやっていることは、国民を監視網に巻き込むことだ。密告は社会を「監視する人」と「される人」に分断する。つまり、自民党は国民の分断を図っていることになる。日本は均質性が高いので、「分断」という用語は大げさに聞こえるかもしれない。しかし、一度分断された国民を融和させるのはとても難しい。私たちはイギリスの「離脱派」対「残留派」とかアメリカの「白人」対「黒人やイスラム教徒」という図式で分断の恐ろしさを嫌というひど学んだはずではなかっただろうか。
自民党は既に下手な説明で国民を「戦争法案派」対「中国脅威論派」に分断している。さらに、多くの国民を密告という手段を通じて分断を加速させようとしている。これは社会に深刻な亀裂をもたらしかねない。
さらにまずいことに自民党の人たちはこれがどんな深刻な結果をもたらしうるかということについて全く意識がない。できれば自分たちの権力保持に利用できるのではないか程度の意識しかないのだ。
だが、もし人間関係に軋轢のある学校でこのフォームが悪用されたらどうなっていただろうか。面白くない教師を陥れたいモンスターペアレントがあることないこと密告する可能性があるということを想像しなかったのだろうか。
最後に自民党はこのリストをどのように利用するつもるだったのだろうか。校長や教育委員会(こちらは建前上政治的に中立ということになっている)を通じて圧力をかけるつもりだったのではないだろうか。表立って表現の自由を奪う訳にはいかないので、待遇や昇進などで差別するのだろう。学校で特定の思想信条を持った人たちを「いじめる」わけで、そういう人たちが教育を担うことになるのである。疑心暗鬼に陥った現場の教師は密告を恐れ何もいわなくなり、あるものはさらに燃え上がるだろう。萎縮と反発で荒れる現場でどんな教育を行うつもりだったのだろうか。
少なくともこのリスト作りに加担した人は、人権や表現の自由は権力者の意に沿う範囲で適応されるべきだと考えているのだと思う。自民党の憲法改正案に多くの人が疑念を持っているのは、この政党が人権というものを基本的に全く理解していないからだろう。
もちろん、自民党に投票するのは自由だと思うし、左翼が騒いでいるだけだと主張するのも結構だ。だが、その行為が国民の分断と教育現場の萎縮に荷担しているということだけは知っておいたほうがよいだろう。