当ブログではイスラエルがガザ地区で「飢餓」を武器にしたパレスチナ人の一掃を図っている状況を「ラファ惨劇」と命名し事態を記録している。
これがラファ惨劇と呼ばれないのはアメリカ合衆国が国内情勢に配慮する形で「人道危機などない」と主張し続けているからである。国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)は西岸でも「別の戦争が起きている」と警告している。
つまり大規模な惨劇が既に起きているが誰もがそれを見て見ぬふりをするという「部屋の中の象」が生まれている。現代型の戦争の最も新しい形だ。
しかしいくら無視しても「象」が消え去ることはない。そればかりか事態は徐々に悪化している。
ラファに空爆が行われ少なくとも45名が死亡したと考えられている。エジプトとイスラエルの間には緊張が高まっておりついにエジプト側に死者が出た模様だ。現在調査が行われている。
我々に今できることは少ない。「今目の前で起きているのは戦争なのですよ」と言い続けるしかない。だが何もしないよりはマシなのではないかと感じる。
エジプトとイスラエルの間の衝突は各社が伝えている。アルジャジーラの報道によるとエジプト側に死者が1名出ているという。どちらが先に出を出したかはわかっておらず双方が調査をしている。
この問題のポイントはおそらくエジプトとイスラエルの関係がどうなるかだろう。エジプトはアラブ圏の国の中では早くからイスラエルとの関係を修復している。こうした歴史的経緯から両者とも決定的な衝突は避けたいものと思われる。調査の内容よりもそれをどのようなトーンで伝えるかが非常に重要だ。仮にエジプトとイスラエルの間の関係が破綻すれば和平交渉に決定的な影響が出ることになるだろう。
バイデン大統領とトランプ前大統領の間ではユダヤ系支持者の寄付をめぐる駆け引きが続いている。国際社会と国内の一部から批判されるバイデン大統領はできればネタニヤフ政権に厳しい態度で望みたい。だが共和党がこれに反発するユダヤ系の取り込みを狙っており制裁的な対応には踏み切れない。
アメリカには「アメリカが支援する武器を市民に向けてはいけない」とする厳しいコードもある。だが、バイデン政権は「これを確認する方法がない」とした上で「人道的な問題は起きているとは断定できない」と主張し続けている。人道被害についてはほぼ認めているがレッドラインを設定してしまったために最後の一言が言えないのだ。これはアメリカの歴史に大きな傷になって残るだろう。
米バイデン政権は10日、イスラエルが米国が供給した兵器をパレスチナ自治区ガザで国際人道法上の義務に「反する」状況で使用したと判断するのは合理的との見解を示した。
ICJはラファ地区に対する攻撃を即時中止するようにとの判決を出している。一部のヨーロッパの国がパレスチナ国家承認に向けて動き始めており対イスラエルの国際包囲網は高まるばかりだ。
ネタニヤフ首相は内閣から極右が撤退することを恐れて戦争がやめられない。極右は正義は自分達の側にあると強硬な姿勢を強め西岸での圧力を強めている。UNRWAはこれをもう一つの戦争と呼んでいる。
イスラエル軍の行動は意外だった。ネタニヤフ政権に最終通告をおこなっている状態でアメリカの意向に沿って戦争をやめる方向なのかと考えたのだが、どうやらそうではなかった。戦争ができるうちにやれることはやっておこうという姿勢だったようだ。戦時内閣は内部に決定的軋轢を抱えたまま孤立の度合いを深めている。
このため、イスラエル軍はハマスの拠点を攻撃するとの名目でラファの北西部に激しい空爆を加えた。最新情報では45名の民間人が亡くなったと言われている。イスラエルは悪びれることなく「調査をする」と言っているが、国際司法機関にとってもう一つ人道犯罪の記録が増えたことになる。既に彼らは「ノート」を持っていてその中に人道犯罪の記録が書き加えられてゆく。そしてアメリカの武器がその人道犯罪に使われている。
ラファの検問所はラファ地区の南東にある。つまりエジプト側は「ラファの北西部に攻撃を加えることで人々を追い詰め検問所に向かわせようとしているのではないか」と疑念を持つことになる。
和平交渉ではエジプト側がハマスに有利なように文言を書き換えてハマスに和平提案を飲ませようとしたのではないかという疑念が伝えられていた。エジプト側は「関係国による濡れ衣であり和平交渉から撤退するかもしれない」と憤りをあらわにしている。CNNの報道の真相はよくわかっていない。エジプト側がハマス有利の既成事実を作ろうとした可能性もあるが、アメリカ側が事態が収拾しない責任をエジプトに押し付けようとしたという可能性も否定できない。
中途半端な圧力が返ってイスラエル側の反発を招き、必ずしも一枚岩でなかった人たちが過激な行動に走るという、まるで集団思考の教科書に載せてもいいような状況が続いている。
ガザ地区の民間人が大勢巻き込まれるという意味でも悲劇なのだが、現在の国際秩序は「国連安保理」や「覇権国」のような絶対的な存在ができる前の歴史的混乱状態に戻りつつあると言ってもいいのかもしれない。主権国家をまとめ上げるような安定装置がなくなると一旦生じた混乱を止めることは誰にもできなくなってしまうのである。
もともとはハマスという「国家ではない存在」が引き金となった悲劇だったが、今や常任理事国アメリカを含む各国が事態に振り回されている。