尖閣諸島の上空が騒がしいことになっているらしい。中国が空域の実行支配を狙って戦闘機を飛ばしているのだ。自衛隊は規定通りにスクランブル発進しているが、最近では命の危険を感じているらしい。防衛省のトップはついにたまりかね、OBの織田(「おだ」とかいて「おりた」と読むらしい)元空将を経由してブログで告発した。中国側が攻撃動作をしかけてきたというのである。
当初毎日新聞は「防衛省の幹部も認めている」と書いていたのだが、日中政府は双方とも否定したので「攻撃はなかった」と後追い報道が出た。萩生田官房副長官は否定したばかりでなく「織田さんは後輩を慮ってそういう発言をしたのだと思うが、いかがなものか」と苦言を呈したようだ。
日本側が衝突を恐れて曖昧な言動を取ったため中国はさらに態度をエスカレートさせた。「日本側が先に攻撃動作を取った」と言い出しているそうだ。
当初NHKはいっさいこの件を報じなかったのだが、ネットでちらほらと情報が出てきたのを苦慮したのか、7時と9時のニュースで「自衛隊のスクランブル飛行が増えている」ことを伝えた。同じ空将レベルの人を登場させて「困ったことですね」と言わせている。いわば「火消し」を図ったのである。
しかし、ニュースでは日中の緊張状態については伝えず「南シナ海でアメリカとの間に危険な接近があった」と話を逸らした。その上、日本政府の対策として「中国との間でホットラインを作ろうとしている」と主張した。危機は潜在的な物であり、日本側は対話路線を取ろうとしているというアピールなのだろう。
よくネトウヨの人たちが「中国の戦艦に乗り込んで憲法九条で話し合ってこいよ」とサヨクの人たちを揶揄しているが、「ホットライン」それと基本的には同じことである。仮にホットラインができたとしても「あの海域は中国の領空だから問題がない」と言われることは火を見るより明かだ。「はいそうですか」で、実行支配権は中国に移る。
ここから分かるのは、日本がアメリカのバックアップなしに「勇ましいことはできない」と言う事実である。安倍首相が全面に出ないことからも分かる通り、実際にけんかになっても「どうやってけんかしていいか」分からないのだ。その結果、中国は「日本はナメてもアメリカを怒らせない限り大丈夫だ」と思われてしまったのだろう。あとは「言いたい放題」で「やりたい放題」だ。四方を海で囲まれて日米同盟にも守られている日本はけんかのやり方を知らないが、中国は周辺国との間に領土問題を抱え小競り合いを繰り返している。けんかなれしているのである。
安倍首相は潜在的な脅威を煽って国内の支持を集めることはできても、現実的な脅威には対応できないということがよくわかる。政治家によって作られた危機に対峙するのはいつも現場の人たちだ。この場合は自衛隊機ということになる。
このニュースを聞いて「やはり憲法第九条のせいで弱腰にならざるを得ない」と考える人がいるかもしれない。しかし、現在のこの状態は「けんか」である。けんかなれしていない人にナイフを持たせたらどうなるかを考えたほうがよい。偶発的なけんかでナイフを振り回して、人殺しに発展してしまうかもしれない。最悪の事態は、中国とアメリカを巻き込んだ第三次世界大戦だ。さすがにそんなことはないと思いたいが、中国はどうやら本気みたいである。
確かに憲法第九条を護符のように振りかざして「日本人は平和主義者だから攻撃されない」というのは馬鹿げている。だが、一方で「日米同盟があるから、日本は絶対安全だ」というのも同じように馬鹿げている。
さて、ここで終わりにしたいのだが、問題はもう一つある。今回の件は「リーク」なのだから情報を漏らした人がいるはずだ。そしてその公務員は特定機密保護法を破ったことになる。しかし実際にはこの公務員が特定秘密保護法で罰せられることはないのではないかと思う。もし適用してしまえば政府が何かを隠蔽しようとしていたことがばれてしまうからだ。この法律も抑止力としては機能するが、それも「抑止力として機能するのではないかとみんなが信じている場合だけ」ということが分かってしまった。米軍の立場から見ると、やはり日本国政府は大切な情報を教えてもらえないのではないかと思う。