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今回の参議院議員選挙が盛りあがらないたった一つの理由

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参議院選挙が盛り上がらない。どうやら参加している人たちは「安倍政治を力強く前進させる」とか「戦争への道を阻止する」と息巻いているようだが、それは当事者だけのことである。では、なぜ今回の選挙は盛り上がらないのか。
まず、安倍陣営側から見てみよう。安倍政権にはアイディアがあった。もともとは「財政出動して瀕死の経済を立て直す」か「緊縮財政を引く」という2つの選択肢しかなかったのだが、「再びインフレを起こせば経済成長が再開する」というセオリーが持ち込まれたのだ。ところが、このセオリーはやがて実行が不可能だということが分かり始めた。よく考えてみれば「成長するからインフレが起る」のだ。
結局、実現したのは円安と株高だけだったが、これも本質的な改革ではなく、一時の現象だということが分かり始めている。アベノミクスは効果がなかったのだ。
そんな中で安倍首相が傾倒し始めたのが公共事業だ。力を入れている分野がいくつかある。一つは海外のインフラ整備を請け負うことと、秩序維持に加わることである。前者は「事故が起きた原発を輸出する」として嫌われており、後者は「世界中で戦争をする」と指摘されている。だが、この両者は一体である。
もう一つは国内事業への介入だ。こちらは、回収の見込みのない地方に投資するか、潤沢な資金を持った企業に無理矢理投資するかの二択だ。例えばJRは自前でリニア新幹線を作ると行っているのだが、安倍首相は投資すると言い張っている。税金が投入されると今度は「駅を奈良ではなく、京都に作れ」などといった声が出てくる。
安倍首相にとって誤算だったのは、イスラム世界が不安定化していることと中国が台頭してきていることである。日本が参加するのはアメリカを中心とした秩序維持とインフラ整備だが、中国はそれを自国中心でやりたがっている。
ここで重要なのは軍事と経済は表裏一体であるということだろう。この2つを分ける評論が多いのだが、それは無意味である。と、同時に世界経済のシフトも感じる。経済が国家から自立しており、国は通商が阻害されないように平和維持だけを行うという、自由主義的な枠組みが退潮し、かつてのように国家が商業を経営するという重商主義的な方向へのシフトが進みつつあるということになる。かつてのイデオロギーベースの対立はなくなり、国家群同士の経済競争へと変わりつつあるということだ。
例えば尖閣諸島は小さな海域に過ぎないのだが、ここを抑えることができれば「アメリカは中国との直接対決を望んでいない」ということが分かる。その意味では、東シナ海はトロフィーのような意味合いを持ちつつあるのだろう。中国が目指すのは当該空域と海域をアメリカに補足される心配なく自由に移動できる権利だろう。だが、安倍首相には中国の台頭を抑える知恵がないので、この地域で起きている紛争は無視されている。もし何かアイディアがあれば、それがどんなにデタラメなものでも「力強く」吹聴しているはずだ。
イスラム地域への「貢献」が、どんな結果を招いたのかはバングラデシュの件を見れば明かだ。現地の腐敗した政府に飽き飽きした人たちの恨みを買っている。バングラデシュから無言の帰国をした人たちは殉教者扱いで報道されたが、それは偶然ではない。JICAは国家事業なのだから、戦死と同じ扱いになるのだろう。
さて、ここまでは安倍政権が手詰まりだということを見てきた。何もできないから「力強くアベノミクスのエンジンを……」という内容のないことしか言えない。だが、打ち手が内のは民進党も同じだ。民主党は3年の間にいろいろやってはみたのだが、結局「税金を上げる」ということだけしかできなかった。彼らは「何をやっても無駄だった」ということを知っている。もし何か残っていれば「これをやり残したからやらせてほしい」と言っているはずだ。
打ち手がないのだから「安倍首相は日本の民主主義を壊そうとしている」ということしか言えないことになる。
ではなぜ安倍首相は「民主主義を破壊してしまった」のだろうか。いくつか要素はあるが、もう打ち手がないので、なりふり構っていられないという事情があるようだ。

  • 軍事作戦という国際公共事業に参加するためには、日本がこれまで培ってきた平和主義が邪魔になる。軍事活動と経済が一体化しつつあるとすれば、戦争せずに金儲けはできない。
  • アベノミクスは実効性がないので、検証が不可能だ。しかし失敗したとも認められないので、数字や事実をゆがめることになる。国内に起因するものと、外国由来のものをごっちゃにして語る手法が蔓延している。
  • 成長を前提に社会保障政策の持続可能性を担保しているのだが、成長していないので約束ができない。このため経済困窮が起きていること自体を認めない。

参議院選挙が盛り上がらないのは、政治が打ち手を提示できないからだ。