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安倍政権がテロの犠牲者を生んだのは間違いがないのだが……

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バングラディシュで日本人7名を含む22人が殺された(犠牲者の数は増えたようだ)事件は、早くも政治利用が始まっている。政治利用に反発する層がいて「安倍政権は悪くない」と弁護をする。
一連のやり取りを聞いて「安倍政権がテロの犠牲者を生んだのは間違いがないのに……」と思った。
報道によると、犠牲者たちは地下鉄建設に従事していたそうだ。ダッカに限らずバングラディシュは人口過密なので都市渋滞が激しいのは間違いがないだろう。経済成長も続いており、都市の交通はますます過密になる。その意味では地下鉄建設は多分意味がある仕事だ。
高度経済成長が続き、失業率も低いのだが、高学歴者(日本の高卒程度)の失業率が問題になっているそうだ。これは低い人件費を求めた企業がやってくるからではないかと考えられる。マネジメント層は外国人なのではないだろうか。今回テロを起こした人たちも、比較的学歴の高い裕福な人たちだったと言われている。知識層が成長から取り残されているのだ。
一方、仕事がある人たちも労働搾取に悩まされている。この記事によると、アパレル産業で働く女性労働者は劣悪な労働環境に悩まされている。しかし、政府は何もしない。権力闘争に明け暮れており、問題を解決するつもりがないのだ。日本はバングラディシュではなく、バングラディシュ政府に援助をしている。
「バングラディシュは貧しいから、日本が援助をしてやっていることを知らない」などという人がいるのだが、実際にテロを起こした人たちは裕福な階層の人たちだった。つまり、ある程度分かってやっているのである。彼らは外国人が政府と手を結んで何をやっているのかを知っていることになる。先進国がやっているのは「バングラディシュの市場化」だが、要するに体のいい労働搾取である。
よく「集団的自衛権を認めたから日本人が標的になった」という人がいる。確かに、憲法と日本の自衛隊の役割などは、バングラディシュの人たちにとってはどうでもよいことだろう。その意味ではこれは「短絡的」な非難だ。だが、なぜ日本は集団的自衛権を行使するのだろうか。それは<権益>を持っている特権的な国の一つとして、世界秩序の維持に参加するためだ。なぜ世界秩序を維持する必要があるかといえば、援助や市場化を通じて、援助国の企業が収益を上げることができるからだ。つまり、経済活動・援助・軍事作戦は全て一体化した一つのオペレーションなのである。
これが良いことなのか悪いことなのかの判断はしないで置く。一応念のために、判断基準になりそうな項目をいくつか挙げておこう。

  • 先進国の市場が成長を止めており、需要は開発途上国にしかない。しかし、政府は国民の所得を上げるよりもインフラ整備など、援助国の企業が「手っ取り早く」収益を上げることができる事業に傾聴しがちだ。
  • 援助(という名前の経済活動)を止めてしまえば、援助国の経済は停滞する可能性が高い。一方、援助は被援助国の国民を豊かにしないかもしれない。
  • 被援助国にもリテラシのある層が育ちつつある。彼らはネットワークを通じて過激思想にも影響を受けることになるが、被援助国の経済を豊かにしたかもしれない人材でもある。
  • 経済活動を続けたいなら、厳重な警護の中で援助国の労働者を庇護する必要があり、場合に寄っては軍隊かそれに準じる組織を被援助国に常駐させる必要が出てくるだろう。

自分の主張を正当化したいがために「集団的自衛権は世界平和の維持に貢献している」と声高に主張する人がいる。あえてそれを否定はしないが、何のために「世界平和を維持したいと考えているのか」ということは考えたほうがよい。先進国の豊かさは周縁国民の搾取を前提として成り立っている。例えば、安いファストファッションのTシャツが買える裏には、バングラディシュの劣悪な縫製工場で亡くなった人たちがいるのだ。
「貧しくなるのは嫌か」と聞かれればたいていの人は「嫌だ」と答えるだろうが「そのために他人を犠牲にしてもいいか」と聞かれると答えに逡巡する人が多いのではないだろうか。その難しい問いと直面するのを避けるために「悪のIS」と「バングラデシュに貢献した日本人」という図式が演出されるのだ。
よく安倍首相が「海外で30兆円バラまいた」と批判される(金額は非難する人によって異なるのだが……)が、国民の権利などを考えない被援助国の政府を援助することで、地元国民の恨みを買っている。
JICAのウェブサイトを見ると、日本の援助には長い歴史があるそうだ。当初は農業技術の支援や地方のインフラ整備(水道など)が多かったという。政府に顧みられない地域を先進国が援助していたのだ。日本人は援助に対する意識が高く「地元の人たちが自立できないと、本当の支援ではない」と考えていたようである。だが、それも昔の話になってしまった。今では、日本人はテロのターゲットになっている。それを作り出しているのは政府であることは間違いがないのではないだろうか。
実は、先進国経済が開発途上国に依存しているということになる。