ざっくり解説 時々深掘り

ICCの逮捕状請求に広がる波紋 覇権国家アメリカの終わりと今後

Xで投稿をシェア

カテゴリー:

ICCがハマスとイスラエルに逮捕状を請求した。これについての報道を見ていて二つのことを感じた。一つは覇権国家としてのアメリカ合衆国の終わりである。もう一つはICCの所長を出している日本政府のいい加減さである。

Follow on LinkedIn

コンテンツのリクエストや誤字脱字の報告はこちらまで

|サイトトップ| |国内政治| |国際| |経済|






覇権国家としてのアメリカが終わったなどと書くと「この人は反米なのか」と思われるかもしれない。だがおそらく日米同盟推進派の人たちの方が事実を重く受け止めているものと思われる。

アメリカ合衆国は民意によって成り立つ民主主義国である。イスラエルは「いい国」でイランは「悪い国」になる。そして、覇権国家はルールを自由に決められる。だからイスラエルはいい国でイランは悪い国であるという価値観を世界に広めることが許されている。問題はこの前提が崩れた時に何が起きるかだ。アメリカ合衆国が覇権国家である時代が長かったために「何が起きるのかがよくわからない」のが実情だ。

回の逮捕請求にはバイデン大統領がかなり強硬に反発している。国内向けには「イスラエルはいい国」ということになっている。これをテロリスト(ハマス)と同等に扱うことは受け入れられないという主張である。一方でイランの大統領の死去に関しては「これまでイラン国民を弾圧してきた独裁者の死」などと表現されているようだ。

ところがこの「善悪はアメリカがアメリカの理屈で決める」という前提が崩れつつある。ICCは民主的に選ばれたリーダーであろうがハマスであろうが結果的に国際法違反を犯せば平等に裁かれると主張する。つまり「選ばれ方は関係がない」と言っている。法律の元に人々は平等に扱われるという考え方はスペインとフランスに支持されている。イギリスとドイツはICCのやり方に反対している。

アメリカ合衆国には二つの選択肢がある。一つはこのこれまで他の国がやってきたように「国際法のもとでの平等を受け入れる」というやり方である。この場合は国際法を起点にして民意を説得しなければならないのだが、そのためには「もうこれまでのやり方は通用しません」と国民に説明する必要がある。だが、バイデン大統領はアメリカの覇権からの転落という事実に対応できていない。そして国内でも何が善で何が悪かに関する意見が割れている。当座の注目ポイントはシカゴで行われる民主党大会がどの程度荒れるのかである。

もう一つのやり方は「アメリカの言い分が通らないならそんな意見には従わない」という方法だ。議会ではICCを懲罰する制裁案が準備されていてバイデン政権もこれに同意するものとみられている。さらにこの「自分の意見が通らないルールは認めない」という意識はトランプ氏の主張によく現れている。ドラえもんに出てくる架空の人物ジャイアンになぞらえた「ジャイアニズム」と言っても良い。

トランプ氏は数々の裁判を抱えているが「そもそも自分は大統領に選ばれた特別な人間なのだから裁判所が自分を裁けるはずはない」と主張する。同様にアメリカ合衆国も特別な国であり「アメリカの意向が通らないディールには従わなくてもいい」と主張している。だからこそ彼は多国間協調を嫌うのだ。

バイデン大統領のやり方はこの「中間」にあった。自分達に都合が悪いルールは認めたくないがかと言って孤立主義的なやり方はこれまでのアメリカのやり方とも違っている。だから彼はアメリカ主導で国際的な枠組みを作りたがる。しかしながら今回のICCの逮捕状請求ではヨーロッパの対応が二つに割れておりG7という枠組みも揺らいでいる。

当然、日本は「アメリカの覇権が揺らぐ中でどのように国際社会と協調してゆくのか」を決めなければならない。これまでは「アメリカが主導するG7と協調するか」あるいは「国連中心主義でゆくか」を決めればよかった。特に安倍政権時代はアメリカ追従路線が明確だったことから民主党は「だったらこちらは国連中心で」と言えたのである。

ウクライナの戦争で国連安保理の機能不全が露呈してもなおこの問題は「ロシアと中国の西側世界に対する反抗なのだ」と説明することができた。だがイスラエルという(我々にとっては)ワイルドカードが生まれたことで、アメリカ+西側先進国VS国連という構図も成り立たなくなりつつある。

特に日本はICC所長(赤根智子氏)の出身国であり、本来ならばICCの決定を強力に推進するべき国だ。実際にプーチン大統領に逮捕状が出た時には赤根氏の「毅然とした対応」を褒め称えていた。

だが、林芳正官房長官いつものように「重大な関心を持って注視する」としか発言していない。

政権基盤が安定しているならば岸田政権は「なぜこれまでのようなアメリカ追従が唯一の選択肢なのか」を説明すべきだったとは思うが、現在の政治情勢を見ているととてもそんな余裕はなさそうだ。自民党・岸田政権が6月ごろに総選挙をやるのか9月に総裁選挙をするのかはよくわからないが、国内政局が落ち着くまで日本はこの問題には全く答えが出せないのであろうと思う。

だが次の政権が第二次トランプ政権になろうが第二次バイデン政権になろうが覇権国家としての地位が揺らいでいるアメリカとどのように付き合ってゆくかという課題が消えるわけではない。

さらに不思議なことにアメリカに依存する国は増えている。韓国が既に核兵器の共有に期待しているがサウジアラビアの防衛にアメリカが明確にコミットする協定が結ばれるようだ。仮にイスラエルとイランがコントロールできなくなるとこの約束はアメリカにとっては非常に高価なものになる。すると当然台湾有事や韓半島有事に対応できなくなるのだから日本国民に課せられる負担はさらに大きなものになるだろう。

コンテンツのリクエストや誤字脱字の報告はこちらまで

Xで投稿をシェア


Comments

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です