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上川陽子外務大臣の「問題発言」からわかるこの国が少子高齢化に陥った原因

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上川外務大臣の「産まずして何が女性か」という発言が問題視された。この一連の騒ぎを見ていてこの国が少子高齢化に陥った理由がよくわかった。「産む」という言葉がまるで呪いか忌み言葉のように扱われている。だが実はこの呪いの原因は思い込みなのだ。これが社会全体に呪いのように充満し「子供を産まない選択をする人」を増やしている。本来は不必要なことだが我々は我々の社会自身を呪い続けている。

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まず、問題を知らない人のために経緯から整理したい。上川陽子外務大臣が静岡県の知事選挙応援に入り「うますして何が女性か」と発言した。これを伝えたのが共同通信だ。共同通信は次のように書いている。「可能性がある」と書いているが、あたかも問題発言ですよ、騒いでくださいねと言っているような内容だ。共同通信は時々とんでもない社会扇動を平気でやってのける。

新知事を誕生させる趣旨とみられるが、出産困難な人への配慮を欠くと指摘される可能性がある。

この報道をめざとく見つけた野党の国会議員らが「これは問題発言だ」と騒ぎ始めた。NHKも同様の報道を出しているがさすがに「問題発言と仄めかす」ような書き方にはなっていない。

程なくして発言の趣旨が伝わると「なんだ切り取りか」として、今度は共同通信を「マスゴミ」として批判する報道が溢れた。最終的に共同通信は補足記事を出し上川陽子外務大臣も発言を撤回した。

これを政治報道としてみると次のように分析できる。

現職退任に伴う静岡県知事選挙は与野党対立構図になっている。鈴木氏、大村氏が競っている状況だ。また、勝てる可能性がある静岡県知事選挙で野党が勝利すれば「岸田政権はもううんざりだ」という民意がまた一つ示されたと主張できる。野党が選挙にのめり込む中でSNSでバズる話題はいくつあってもいいという状況が生まれ、政策そっちのけで子供の喧嘩のような批判合戦に発展したのだろう。

だが、今回のXでの騒動を見ていると全く別の感想を持つ。それがこの国の「産む」ことに対する猛烈な拒否反応だ。ほぼ拒絶と言ってもいい。「女性はいつも産むことを押し付けられている」という被害者感情に溢れていた。

共同親権問題でもいえたことだが日本では女性の処遇についてまともに考えてこなかったため女性の被害者意識が高まっている。私たちはもっと評価されていいはずなのに重荷だけを背負わされているという感覚が非常に強いのである。

これでは「産むか産まないか」を迷っている人が子供を持たなくなるのは当然である。その後社会復帰が遅れなおかつ非正規化で賃金が抑制されることも含め出産・子育てが陸続きの「罰ゲーム」になっている。

今回は悲劇的なことに上川陽子外務大臣自身が「出産は苦役である」という印象操作に加担している。NHKは次のように報道した。

そして、自身が過去に行った演説に触れ「初陣の時に『うみの苦しみにあるが、ぜひうんでください』と訴えたが、うみの苦しみは本当にすごい。しかし、うまれてくる未来の静岡県や今の静岡県を考えると、私たちはその手を緩めてはならない」と訴えました。

実は世界的にはもはやこれは常識ではない。世界では無痛分娩がかなり一般的になっている。日本産科麻酔学会が数字を出している。無痛というが実際には出産痛緩和だ。またドイツのようにあまり無痛分娩が普及していない国もある。

  • アメリカ全体では硬膜外分娩率は73.1%
  • フランスでは1981年にはわずか4%だった硬膜外無痛分娩率は2016年には82.2%まで上昇
  • カナダ(57.8%)、イギリス(60%)、スウェーデン(66.1%)、フィンランド(89%)、ベルギー(68%)
  • イスラエル(60%)、中国(10%)、シンガポール(50%)、韓国(40%)

保険が使えるという点も大きいようだが「選択肢として準備されているか」という違いがある。日本ではそもそも保険適用外となるばかりでなく「無痛分娩など母親の義務を放棄している」という外からの意見(ほぼ思い込み)が強く、母親が希望していたとしてもなかなか言い出せないという事情があるようだ。上川さんの世代ではおそらくこれが常識だったはずで当然お姑世代さんも「お母さんは産みの苦しみを味合わないと母親になれない」などと嫁世代を洗脳しかねない。社会が作った思い込みによって制度が作られているため女性には実質的な選択肢がない。

第一「思い込みを克服できていない」という問題があり常識がアップデートされてゆかない。そこに加えて「女性は出産と育児という重荷を押し付けられている」という恨みが加わり、産むという本来それ自体が特権であり祝福でなければならないものが忌み言葉のように言葉狩りの対象になってしまうのだ。

日本社会はまず「産むことは罰なのだ」という思い込みから解放される必要があり、なおかつ産むことが罰になっている理由を一つひとつ潰してゆかなければならない。だが「呪い」というのは恐ろしいもので、おそらくSNSで「産むことがツラいはずはない」などと呟けば「男に何がわかる」と攻撃されかねない。きちんと説明しようとするとどうしてもこれくらいの文字数が必要になってしまうのである。

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Comments

“上川陽子外務大臣の「問題発言」からわかるこの国が少子高齢化に陥った原因” への1件のコメント

  1. 細長の野望のアバター
    細長の野望

    女性の権利拡大やフェミニズム運動が、少子化になった原因と主張する人たちがいますが、出生率ランキングをみると欧米のほうが日本よりも出生率が高いという現実があります(移民が出生率を高くしている要因である可能性もありますが)。
    「産むことが罰になっている理由を一つひとつ潰してゆかなければならない」という主張は大いに賛同できます。これが出来なければ、日本の出生率はさらに下がり韓国と同じ状況になってしまうかもしれません。

    そういえば、韓国はフェミニズム運動が盛り上がっているように感じますが、ジェンダーギャップ指数は100位台だったり、ネット上では男尊女卑がはっきりと感じ取れます。韓国でおこなわれる強いフェミニズム運動は、こういう現実への反発なのでしょう。こういうことを書いていると、日本と韓国の女性を取り巻く環境は似ているように感じますね。

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