トランプ氏が「2024年の選挙で負けた場合」の準備を始めた。法廷闘争などを指すものと思われるが「そのために武器となる法律を準備しておこう」という動きも含まれる。バイデン氏が負けた場合には比較的すんなりと政権移譲に向けた準備がはじまるものと思われるが、トランプ氏が負けた場合にはかなり混乱が広がるかもしれない。
ロイターの記事は「アングル:トランプ氏陣営、本選敗北に備え「異議申し立て」の環境準備」というタイトルになっている。文章の主題はあくまでも法廷闘争だ。選挙結果を受け入れずそのまま法廷闘争に入るものと考えられている。
懸念事項は二つある。1つは法廷闘争の武器になる新しい法律整備の必要性を訴えるという手法である。上院は民主党が支配しているために法制化は難しいものと見られるが下院で審議され混乱する可能性がある。アメリカの選挙制度は信頼できないという見込みの元に法律が審議されることになるため、民主党支持者も穏健な共和党支持者も大いに反発することだろう。
つまりトランプ氏は、20年の選挙を巡る振る舞いに起因する何件もの刑事訴追におびえるどころか、支持者の共感を呼ぶことが世論調査で分かっているので事実無根の発言を繰り返し、今回も敗北の際に不服を唱える上で必要となる法的な環境を整えようとしている。
現在の議会構成から法整備が進まないことはあらかじめわかっている。このためトランプ陣営は「選挙システムが操作されている(かもしれない)」との主張を始めているそうだ。1月6日の議会襲撃と同じ混乱が生じかねないことになる。
トランプ氏の批判派は、同氏が再び支持者に投票システムが操作されていると信じ込ませることで、本選後に新たな混乱が起きかねないと懸念する。4月に米誌タイムのインタビューでトランプ氏は、大統領選について「われわれが勝利しなければ、さてどうなることか」と語り、暴力的な混乱の可能性をあえて否定しなかった。
では、議会襲撃事件はどのように解決したのだろうか。実はまだ裁判が続いていて解決していない。
先日ある男性の裁判が下級裁判所に差し戻された。議会襲撃事件を有罪化するために企業改革法が使われている。議会襲撃など想定されていないのだからそれを直接扱った法律がない。色々探した結果「企業改革法が使える」ということになったのだがこれが法律の拡大使用なのではないかという疑義が生じているのだ。
仮に企業改革法が使えないとなるとトランプ氏を議会襲撃扇動で裁けなくなる。道徳と運用によって支配される傾向が強い日本では考えられないことだが、アメリカでは起こり得ることなのだろう。トランプ陣営が「法律整備」を求めるのはこのためだ。法治国家なので法律がなければ自分達が思うような裁判が進められないが「ならば法律を作ってしまえ」というのがアメリカ流ということになる。
このようにアメリカでは最高裁判所の判断で判決が覆ることがよくある。つまり最高裁判事の権限が極めて強い。何か判断があるたびに「この判事はこういった」という報道が行われている。
その判事の一人にスキャンダルが持ち上がった。保守派のサミュエル・アリート判事が自宅で議会襲撃に賛同して星条旗を逆さまに掲揚したのではないかと疑われている
サミュエル・アリート氏はジョージ・W・ブッシュ大統領に起用されたカトリック・保守派の判事である。トランプ氏に任命された判事と共に民主党に不利な判断を下すことが多い。
CNNの記事を読むとこれは「奥さんの仕業」なのだそうだ。
議会襲撃の際に近所の人がアリート判事を批判したところ、それに逆上した奥さんが星条旗を逆さまに掲げて見せたという。
このため判事は「これは妻がやったことで自分には関係がない」と主張している。だがやはりアメリカの民主主義と秩序を破壊しようとした運動に共感を示したのではないかという疑いは残る。民主党議員たちはトランプ氏関連の判断からアリート氏を排除しようとしている。
トランプ氏はあくまでもきっかけを作るだけにすぎない。元々「分断」が火薬のように充満していてそこに火をつけるだけで容易に発火する状態になっている。
バイデン氏が就任する際にもトランプ氏の敗北宣言が得られず政権発足にはかなりの困難があった。
仮にバイデン氏が負ければ政権移譲においてそれほどの混乱はないかもしれない(その後のトランプ政権は混乱するだろうが)が、仮に僅差で敗北となった場合には、これまでの議会襲撃事件の後始末に加えて2024年の大統領選挙を認めないという運動が起きる可能性がある。
アメリカの民主主義は今なかなか厄介なことになっている。