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計算し尽くされた自民党の演劇的な政治

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自民党の参議院選挙キャンペーンがうまいなあと思った。青い空をバックにした安倍晋三首相が出てきて明るいメッセージを流したうえで、何やら数字をだし、世界の首脳と語り合う写真を使っている。15秒のCMでは印象しか残らないので、全てがうまく行っているような気分にさせられる。
メッセージは単純だ。「あの暗い時代がいいのか」「それとも今のような状態が良いのか」という二択だ。日本人はバブルが崩壊してから「日本は変わらなければならない」と考えてきたのだが、それが「あれは暗い時代だった」ということにされてしまっている。大げさに言えば歴史を改ざんしているのだ。
安倍首相はかなり印象操作を勉強しているようだ。ポスターの作り方や手の使い方などに、アメリカ流の大げさな演出を感じる。ゆっくりと切って話すのも計算されたスタイルだろう。野党の議員が高音の早口でまくしたてると「序列」が作られてしまう。高音の早口は弱者のむなしい抵抗に聞こえる。視聴者は議論の内容など分からないのだ。
一方、民進党のメッセージは悲惨なものだ。岡田党首が表情が暗いのは仕方がないとして、民進党の基本的トーンが暗いのは2つの理由があるだろう。安倍首相を批判する立場から現状を暗いものと捉えざるを得ない。また、民進党は政権担当を前提とした組織であり、存在に対する危機感もあるのだろう。だが、視聴者の間には印象しか残らないので「民進党=暗い」という印象しか残らない。
Twitterを見ていると左派のトーンは暗い。世論が付いてきていないという焦りのようなものがあるのだろう。だが、このトーンが却って右派が正義で左派は抵抗勢力(かつ弱者)という印象を強めている。つまり、左派がメッセージを発すれば発するほど、右派(つまりは改憲勢力とされている人たちだ)に有利に働くことになる。
確かに、自民党の手法は演劇そのものである。言ってしまえば、単なるプロパガンダだ。だから騙される国民が悪いということになる。しかし、国民が印象にやすやすと騙されてしまうのもまた事実である。人はなんとなく景気が良さそうな方向に誘導されてしまうのだ。これは2009年にテレビが大々的に自民党を叩いたのと同じ図式である。あのときには民主党の議員たちが「地方分権」などの改革について訴えていたが、実際には全く中身がなかった。財源が手当できなければ後で謝れば良いという実力者さえいたのだ。
このプロパガンダ合戦は実は民主党が始めたものなのだ。これを下野した自民党(正確には安倍首相)が模倣したのだろう。一度火がついてしまったわけだから、これに追随せざるを得ない。
つまり、民進党も演劇的な手法を駆使したCMを作り、メッセージを発信する必要がある。演劇的に自民党を悪辣にしたて上げる手法はいくらでもあり、そうした映像表現に長けた演出家もたくさんいるだろう。相手を徹底的に悪役に仕立てつつ、自分たちの権威を演出するような手法を開発しなければならない。岡田党首はまじめそうなので、ネガティブキャンペーンには頼りたくないのだろうが、負けてしまっては何もできなくなる。
とはいえ、これは果てしない演出合戦であり、何の成果ももたらさない。起点になっているのが、約束事を平気で破る政党なので、それに対抗しようとする政党もすべて演劇合戦に巻き込まれてしまうことになる。政治をまじめに捉えて消えてしまうか、果てしない演劇合戦を繰り広げ消耗戦を展開するかの二択ということになるだろう。
日本はそうして政治的な資源を消耗して行くのだろうと思う。先進国の政治は軒並みこうした演劇的な政治に翻弄されている。SNSではヘッドラインだけが消費され、適当に加工されており、自己実現的な予言が蔓延している。これがどうやったら終わるのかと考えたのだが、壮絶な演劇合戦の結果、国民がかなり痛い思いをしなければならないのかもしれない。