ざっくり解説 時々深掘り

石丸伸二安芸高田市長が東京都知事選に出馬 意義と懸念事項

Xで投稿をシェア

石丸伸二安芸高田市長が東京都知事選挙への立候補を表明した。マスメディアへの露出はそれほど多くないがネットではかなり有名人なのだそうだ。出馬の意義と問題点について考察してみた。氏が選挙戦に参加することでこれまでの都政に合理的な分析が入るものと期待できる。一方で対決型の姿勢により都政が混乱するリスクも生じることになるだろう。

Follow on LinkedIn

コンテンツのリクエストや誤字脱字の報告はこちらまで

|サイトトップ| |国内政治| |国際| |経済|






東京都知事選には二つの不確定要因がある。小池百合子氏の出馬が未確定で、なおかつ不戦敗を避けたい自民党が独自候補を出さない可能性が高い。選挙は2024年6月20日告示となり7月7日に投開票される。実はもうあまり時間がない。

石丸伸二氏は広島県安芸高田市出身。京都大学を経て三菱UFJ銀行に入行しアナリストとして勤務していた。ニューヨーク駐在経験もある。1982年生まれでまだ40代である。おそらくその期待の原因は徹底的な合理主義とアサーティブさにあるものと思われる。旧態依然とした現状に満足せず「何かを変えてくれそうだ」という漠然とした期待感がある。

東京都は長く小池百合子氏の体制が続いている。小池氏はどちらかと言えば漠然としたイメージで人気を維持してきた。つまりマスコミ型都知事だ。男性中心の旧態依然とした中央政界に対峙し環境問題などを意識した新しい政策を推進するというイメージが強いが「じゃあ実際に何をやったのか」について明確に説明できる人がいない。また運動を煽っておいて不都合があると姿を現さなくなるという姿勢にも問題がある。次から次へと新作映画の予告編ばかりが流れてくるが「実際に映画を見たことがある人がいない」という不思議な状態だ。

石丸氏に寄せられる最初の期待は実務的な分析力だろう。小池氏は既に石原時代の蓄積をかなり食いつぶしていると考えられる上に政策においてKPI(Key Performance Indicator)を示さない。石丸氏がここに当事者として分析を加えおそらく自分なりのリフォームプランを持ち込めば(小池さんが出るにせよ出ないにせよ)小池都政の評価に深みが加わる。

古い政治家はKPIの提示を嫌がる。政治家がキャリアのゴールになっているため失敗が許されないからである。だが、石丸氏はまだ40代だ。「成果が出なければクビにしてもらってもかまわない」くらいの潔さは示してくれるものと期待したい。

石丸氏の合理性志向はマスコミ対応にも表れている。彼は「その質問が本当に必要なのか」と聞きたがる。これが一部の有権者には非常に魅力的に映るのだろうが、その分反動も大きい。これが最初の懸念事項である。

おそらく問われた記者には「合理的に質問する」という発想はない。彼らはサボっているわけではない。日本人にはそもそもない発想と考えたほうがいい。

小林製薬の紅麹問題で「キャップがトーンを要請した」ことが問題となった。トーンに合わせて取材先の発言内容(カギカッコ)を修正した。おそらくこうしたことはよく行われているはずだ。視聴者が「トーン」を求める上に記者たちも「大体こういう質問をしておけば夕方のニュースの原稿が書ける」というあまり合理的でない目論みがある。だから石丸氏に「その質問は本質をついていない」などと言われても応えようがない。

そもそも合理性のないところに合理性を持ち込むとどうなるか。追い込まれた人たちは理解できないものを見ると興奮し反抗的になる。特に高齢議員はもう「合理性」には対応できないだろう。

東京都議会は非常に大きな組織だ。旧態依然とした議員たちが多く残っているため、議会と首長が対決する構図になればおそらく大混乱するだろう。安芸高田市とは規模が全く違う。自ら「炎上型」と認めているが東京都政で同じことをやれば大混乱に陥るはずである。

今回、石丸氏は出馬の理由を次のように説明している。一見いいことを言っているようだが2つの問題がある。AERAは次のように書いている。

「小池知事の公約、ゼロを掲げられていますが、ほとんど人口集中過密に原因があります。見ていると、全部が対症療法で、ものすごくコストをかけながら、なかなか結果が出ない。多極分散、東京の過密を解消することによって、東京都を世界で一番住みやすい街にする。これを東京で追求することが、地方の活性化につながる。一石二鳥、一挙両得、小池知事の言葉を借りれば、『アウフヘーベン』ですか」

多くの東京都民が地方への移住促進を第一目標に掲げた候補に投票するとは思えない。これは単純に東京都民の期待とは異なり合理的ではあるが腹落ちはしないだろう。また、おそらく現在の政治の仕組みでは一極集中是正は国家の仕事であり地方自治体の首長の仕事ではない。

つまり突き詰めてゆくとこれは現在の地方自治という大きな問題なのだ。

  • 国には大きな権限があるが議院内閣制という集団主義的な仕組みになっておりリーダーシップが発揮されにくい。つまり民主的独裁にならない。
  • 一方で地方自治体は二元代表制なので(やり方によっては)民主独裁体制が作れるが権限が少ない。

小池都知事は総裁選にチャレンジしたもののガラスの天井を打ち破ることができなかった。だが東京都知事としてはリーダーシップが発揮できている。選挙に勝ちさええすれば総裁選のような多数派工作をやらなくても済む。石丸氏がやりたいことを実現したのならば国会議員を目指すべきだ。だが、おそらくまずは公認権という利権を獲得した上で雑巾掛けから始めなければならない。

最後の問題は有権者の期待である。有権者の一部はおそらく現在の政治に閉塞感を感じており現状打破を期待している。アメリカ型のポピュリズムと比較すると合理性への強い憧れがあり西村博之氏のような「論破」を好む傾向がある。

だがおそらく彼らは積極的に政治には参加しないだろう。エンターティンメントは見ていて面白いものであって、あえて自分から参加するようなものでもない。おそらく石丸氏が人気なのは「一緒に参加してください」と言わない点にもあるのではないかと思われる。

改革型の政治家は国会議員にも大勢いるのだが、彼らが「運動を支援してください」と求めれば求めるほど有権者は引いてゆく。政治という面倒ごとに巻き込まれるのが嫌だからである。

石丸氏の登場の仕方は千葉市の熊谷市長に非常によく似ている。前市長の汚職と財政の不安定化があり「もうこのままでは千葉市は持たないだろう」ということになり登場した民主党系の市長だった。ただし熊谷氏は自民党の議員団を敵に回さずオール与党体制を作り財政再建を優先し千葉県知事に転出した。おそらく石丸氏が政界進出できたのは安芸高田市の前市長の汚職の後の選挙だったからなのだろう。

コンテンツのリクエストや誤字脱字の報告はこちらまで

Xで投稿をシェア


Comments

“石丸伸二安芸高田市長が東京都知事選に出馬 意義と懸念事項” への1件のコメント

  1. 細長の野望のアバター
    細長の野望

    石丸伸二安芸高田市長ついては、正直な感想を言うと「ひろゆき」みたいな論破ばかリしている人という印象が強いです。しかし、もしほかの人たちが彼に対して積極的に協力的な対応を出来ていたら、彼の「合理性志向」を活かした政策が実行できたでしょうか。