テレビが信じられなくなったらそっとブックマーク

イスラエル・ガザ情勢が必要以上に複雑に見える理由

Xで投稿をシェア

江川紹子氏がバイデン大統領のイスラエル政策について「なんだ口ばっかりだったのね」とのSNS投稿しているのを見かけた。戦争はいけないことだという単純な視点に立てばこういう感想になるのだろうと感じた。そこで今回はイスラエル・ガザ情勢が必要以上に複雑に見える理由と題して書くことにした。

主題はヨアブ・ガラント国防大臣の新しい声明だ。なぜかネタニヤフ政権を批判しているが、この人はリクードの人である。つまりネタニヤフ陣営なのだ。

Follow on LinkedIn

コンテンツのリクエストや誤字脱字の報告はこちらまで

|サイトトップ| |国内政治| |国際| |経済|






ガラント国防大臣が声明を発表した。ガザ地区情勢が落ち着いた時に軍政を敷くつもりはないと言っている。ネタニヤフ首相に何度も確認をしているがこれに対する明確な回答は得られていないそうだ。それぞれCNNRetuersBBCが書いている。

世界的な世論は二国間統治に傾きつつある。国連ではパレスチナを国連に加盟させるべきだという総会決議が出されヨーロッパの国の中にはパレスチナの国家承認を前倒ししそうな国も出てきた。ガラント国防大臣の声明はこの国際世論に応えたものだ。またネタニヤフ氏が率いるリクードの対抗勢力を率いるガンツ氏もこの声明に賛同している。

では彼のポジションはアメリカ合衆国の姿勢と重なるのだろうか。つまりガラント氏はアメリカの支援を求めてこのようなポジションで発言しているのだろうか。

必ずしもそうではない。アメリカ合衆国は人道被害につながるガザ侵攻をやめてほしいと考えている。だがガラント氏はガザ地区の重大な人権侵害につながる攻撃は続ける姿勢を示している。

ガラント氏はあくまでも戦後処理についてはガンツ氏と同じ考えを持っている。つまり現在所属するリクードのネタニヤフ氏を見限っているのだろう。このままでは国民の支持が得られず次の選挙で勝てないからである。つまり、これは単純なイスラエル政局を見据えた動きということになる。

一方のアメリカ合衆国にも同じような事情がある。バイデン氏を支持する若者はバイデン大統領のイスラエル支援策に反対している。一方でトランプ氏は「バイデン氏はイスラエルを見捨てた」と言いたい。そう言えばユダヤ系の寄付が集まることがわかっているからだ。つまりバイデン大統領は「どっちつかず」の状態になっている。

  • アメリカの事情とイスラエルの事情は別個だ。それぞれを独立した事象として分析した上で重ね合わせなければ状況が理解できない。
  • バイデン大統領は合意形成に苦労していて打ち出すメッセージが明確なものではなくなっている。

これがイスラエル情勢をよくわからない理由である。実はガザ地区の情勢は起点ではなく結果に過ぎないのだ。

江川紹子氏がどのような理由で「バイデン政権は口ばかりの政権だ」と見做したのかはご本人に聞くしかないのだが「戦争はいけないことだ」という視点で単純化してしまうと「バイデン大統領は本音では戦争推進派なのだ」という間違った結論が生じかねない。

だが、おそらくバイデン大統領はイスラエル情勢には大した興味は持っていない。重要なのは自身の再選である。

ただこの「口ばかり論」は既にアメリカ政治では問題になりつつある。例えば、ロイターが対中関税について二つの記事を出している。

今回の対中関税には実効性はないと見られている。つまり有権者に向けて強硬な政策をアピールする必要があったが実効性のある政策をとってしまうとアメリカの経済に悪影響が出る。このために実効性はないがインパクトがある政策が求められていた。

ところがやはり関税はアメリカの製造業と消費者に非常に悪い影響をもたらす。最初のコラムは「実効性はなく中国は対して反応しないだろう」になっているのに次のコラムは「米中貿易戦争は避けられず、アメリカの経済に悪い影響がある」と言っておりいっけん矛盾するように思えるのだが実は同じことを言っている。

いろいろな状況を配慮した結果として非常に妥協が多い政策パッケージが作られる。中途半端な政策では状況は改善しない。これが有権者に「バイデン政権は口だけだ」「バイデン政権は弱腰だ」という印象を与えるのである。長年国際政治を研究している鈴木一人さんもこのように言っている。なんとなくため息混じりというか諦めの入ったコメントに聞こえる。

真に平和維持を望むのであればこうした複雑な状況をできるだけ理解可能な範囲に分解した上で個別に理解する必要がある。さもなければ「もう面倒だ」と考えるのをやめてしまう人が大勢出てくるだろう。おそらくはそれが最も危険なことなのではないかと感じる。

さらに我が国の経済や安全保障を考える上でもアメリカサイドの揺れ(彼らは保護主義に傾いている)は非常に重要な変化である。日本があてにするアメリカ発信の自由で開かれた経済という世界が消えつつあるのだ。特にトランプ氏が大統領になると「アメリカも日本も同じようなもの」ということになり排除される側に周りかねない。この時にいくら熱心にロビー活動をしても「安倍晋三氏はほくそ笑んでいただろうが」など言われたように「新しい首相はほくそ笑んでいただろうが」と言われかねない。

コンテンツのリクエストや誤字脱字の報告はこちらまで