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イギリスのEU離脱国民投票

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イギリスでEUの離脱か残留かを決める国民投票が行われた。結果は52%対48%で離脱派の勝利だった。国民投票には法的拘束力はなくキャメロン首相は結果を無視することもできる。しかし、無視した場合には勢いづいた離脱派との間で混乱は避けられない。この場合、キャメロン首相は間違いなく辞任に追い込まれるだろうと考えられているということである。(と書いたところ「キャメロン首相辞意を表明」というニュースが飛び込んできた。結果が出てからわずか数時間後の表明だった)。
国民投票法自体には法的拘束力がないため、この後議会がどのような対応をするかは分からない。イギリスの政治が混乱し機能停止に陥る可能性がある。国民投票に従うならイギリスはEU離脱手続きを進めることになる。手続きには2年かかる。イギリスはEU経由で行っている諸外国との条約交渉を自前でやり直すことになる。
最終的にどのような形態になるかが分からないのが一番の問題だ。スイスやノルウェーのようにEUとの間で経済連携協定を結ぶ可能性もある。このため経済の先行きが見通せず、不透明さが増すだろうと考えられている。これを嫌ってポンドが売られ円とドルに向かい、金融市場は大荒れとなっている。ポンドは対ドルで10%超安と、1日の下落幅として史上最大を記録。31年ぶりの安値に沈んだ。日経平均は8%以上下落して15000円を割り込んだ。こちらは歴代8位の下落率だという。逃避資金がどこに流れたかは不明だが、リスク退避資産として日本国債が買われているものと思われる。円は一時99円台になったがその後102円台に戻した。乱高下だったようだ。
EUとの一体性が失われるため、金融免許などが別になる可能性があるそうだ。人の往来やビザ取得の煩雑化などの悪影響が出そうだ。日本の会社はヨーロッパとイギリスに別拠点を置く必要がでてくるかもしれないし、場合によってはイギリスから大陸諸国に拠点を移す会社も出てくるだろう。
どうなるかはすべて離脱の枠組み次第だ。離脱には2年かかるとしている人たちがいるのだが、実際には離脱表明してから2年以内に協定がまとまらなければ、EUとの関係が全て失効してしまうということだ。つまり、調整にかけられる時間が2年しかないということになる。
キャメロン首相が政治生命をかけた投票の結果、却ってイギリスの対立構造が浮き彫りになった。スコットランドでは残留派が多かった。自治政府の首相はスコットランドの独立と単独でのEU残留を求めている。北アイルランドも残留派が多かったのだが、こちらの動向はよく分からないということである。シンフェイン党はイギリスからの離脱を求める投票を要求している。
皮肉なことにEUに多く支出しているロンドンの人たちは残留を支持し、補助金を受け取っているであろう地方は移民を警戒して離脱に票を入れた。イングランドでは都市対地方で深刻な対立が起きていることが伺える。Twitterを分析すると離脱派の投稿には「怒りに満ちあふれている」という調査結果もあるようだ。離脱の意思表明の裏には格差拡大に伴う怒りがあったことになる。
ヨーロッパの他の国にもEU懐疑論が広まっており、最悪の場合にはこうした人たちが離脱投票を要求する可能性がある考えられている。オランダで同様の投票を呼びかける声がある。もともとは東欧エリアからの移民の増大が問題だったのだが、中東から流入する難民(および難民に偽装した経済移民)が社会不安を引き起こしていたことが分かる。これはヨーロッパに共通する問題だ。アジアの移民問題がヨーロッパを分離させるという事情はローマ時代から変わっていないようだ。
日本政府はこの決定を織り込んでいなったようで「情報収集を急ぐ」としている。国民投票は前から決まっていたことなのだが、離脱するとは思っていなかったようだ。対策が後手に回っている印象がある。麻生副総理も「見守りつつ、必要な措置をとる」と言っているだけで具体的な対応は示さなかった。円高を是正するために介入する選択肢もあり得るのだが、アメリカに通貨安競争への警戒感があるため日本が独自の介入策を取れるかは疑問だ。G7も懸念を表明していたが具体的なアクションは取れなかった。
市場ではドル円は90円から85円台まで行くと予想する人もいる。ここまで下がるとアベノミクスの唯一の成果とされていた円安基調が崩れることになる。輸出産業には大きな痛手となるだろうが、これまで国内の輸出企業が円安の恩恵を蓄積していただけなのか、それとも構造変化によって円安そのものにはメリットがなくなっていたのかが分かるだろう。もし前者なら日本経済は大きな混乱に見舞われるだろう。
経済の不確定要素は次の二点に集約される。

  • ヨーロッパの国でどの程度追随の動きが出るか。最悪の場合にはEUの崩壊が起る可能性があり、それが長引くかもしれない。
  • イギリス議会が国民投票を受け入れて離脱交渉を進めるか、またどのような枠組みでの離脱になるのか。

日本経済への影響は2つあるが、これがスパイラルを起こす可能性もある。

  • ヨーロッパや新興国経済が混乱することで需要の減少が起る。すでに中国経済の成長が減速しているので連鎖的な需要減が予想される。
  • リスクオフ基調となり、円高が進行し、株からの資金逃避が起る可能性がある。

リスクオフの動きは早くも広がっているようでウォンが急落したという報道もある。これが広がればヨーロッパだけでなく新興国にも需要不足による不況が広がるかもしれない。
参議院選挙の影響は分からないが、危機回避指向となり、政権が不安定になるのを避けようとする心理が働くかもしれない。需要減は容易に予想されるために、財政出動への圧力も強まるだろう。国債の買い手には困らなくなるために赤字国債発行の圧力は弱くなる。容易にバラマキができるわけだが、経済が良くなったときには逆方向の圧力が働くことになるだろう。つまり財政破綻に一歩近づく訳だ。
自民党が大勝すれば憲法改正への圧力が強まるわけで、これがどのような政治的混乱をもたらす(あるいはもたらさない)かは未知数だ。