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TPP・国民投票・沖縄

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「TPPに加盟したら、あとは国民投票でもして離脱せざるを得なくなる」というツィートを見つけた。イギリスのEUからの離脱投票を意識した物と見られる。しかし、残念なことに日本では実現できそうにない。日本には国民投票法がないからだ。日本でできる国民投票は憲法の承認手続きだけ。あとは間接民主主義的手続きに頼らざるを得ない。
TPPに限ると、社民党・共産党が政権を取る可能性があると考えれば話は別だが、自民党、民進党ともにTPP支持であり国民には実質的に拒否権がない。仮にTPPが深刻な問題を引き起こしたとしても、離脱や破棄などに傾くとは思えない。そもそもTPPには離脱手続きが規定されていないのではないかと思う。
興味深いことにクリントン候補は「TPPの見直し」を公約に掲げている。これは破棄ではないという点がポイントだろう。トランプ候補が破棄を唄っているので、そのカウンターとして「過大な要求を突きつけて枠組みを維持する」ということを言っている。ただしそのスタンダードが何かは示していないので、予め変更可能な交渉要素があることを知っているのかもしれない。
ここで「一度決まった枠組み」を見直すことができるのかという疑問が出てくる。自民・民進が言い出すとは思えないのだが、国内議論が全て無効にならないためにも合意内容を慎重に精査すべきだろう。多くの人は関税を心配するが、通貨安競争の防止などが念頭にあるものと思われる。いったん出られない枠組みに入ったら、別の譲歩を迫られる可能性があるということでは議論する意味がない。TPPの改正は「民主的な」手続きに則って進められるものと思われるのだが、一国一票ということはないだろう。経済規模によって票の重みが決められているのではないだろうか。つまり実質的にアメリカだけにとって「民主的」なルールと言える。普通これを民主主義とは言わないだろう。
いずれにせよ日本には国民投票法がないので、国民の抵抗手段はデモか革命だけである。膨大なエネルギーが必要だが政治的には実りの少ない手法なので、デモが起る領域は限られている。

  • 原子力発電に関するデモ:アメリカの核技術拡散構想の端を発する。核兵器開発のための技術と材料を確保したい人たちが賛成しており、原子力行政は今の形になった。
  • 安保に反対するデモ:日米同盟そのものを破棄したいという人たちのデモ。改訂という形で固定化することになった。
  • 安全保障法制に関するデモ:アメリカの軍事政策の変更に伴って、海外で協調行動を取ることが求められた。これに反対してデモが起きた。日本の近隣海域だけであればこれほどの反発はなかっただろう。
  • 沖縄の基地撤去と地位協定の見直し。

つまり、デモが起るようなことに裏にはすべてアメリカと自民党が関連していることになる。もしTPPが成立すれば、このリストにTPP反対が加わることになるのかも知れない。興味深いことに、アメリカが支援した憲法を除いた全てが左派の運動のよりどころになっている。
アメリカは民主主義を日本に「インストール」したのだが、なぜ国民投票法は採用しなかったのだろうか。当時の東アジアは共産主義が席巻していた。そこで国民の政治参加を制限したのではないかということが予想できる。国民一人ひとりはコントロールできないが、国会議員のレベルでは管理が可能だと考えたのかもしれない。その予想はおおむね当たっているように思える。形式上は自主独立した民主主義国家であるという形態を取ることで、直接的な風当たりを避けつつ、基地などの権益を守ることに成功しているのだ。
その一番顕著な例は沖縄だろう。沖縄では日本政府を飛び越えてアメリカと交渉したいとする試みがある。これは「水戸黄門幻想」だ。途中に悪辣な代官(日本政府)がおり、最終意思決定者は必ず自分たちの味方をしてくれると信じているのである。アメリカ軍政府は沖縄の統治に失敗して(島ぐるみ闘争とキャラウェイ旋風)この地域を投げ出した過去がある。間接統治は懸命な手法だ。
ハワイ州と沖縄県の人口はほぼ同程度なので、沖縄はアメリカの州になっていた可能性がある。すると国内基準を適用せざるを得なくなる。面倒な管理と反発の矛先を日本政府に向けさせて、同時に協力費を取った方がアメリカには得策なのだろう。
このように考えると、アメリカが導入したもののうち自民党が唯一嫌っているのが現行憲法ということになる。それを覆すためには「国民が支持しています」という建前が必要なのだろう。唯一例外的に認められた国民投票が憲法だということの意味が分かる。ただ、日本人はおおむね日米の政治・経済・軍事的な同盟を支持しており、却って憲法改正が難しくなっている。と、同時に矛盾が自民党の立ち位置を難しくしている。憲法改正が視野に入ってくるとその矛盾が露呈する可能性がある。
また、仮にTPPであからさまな経済搾取が始まれば日米の連携に深刻な疑念が生じることになり、国内の政治体制は大きく動揺するのかもしれない。