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国民主権・平和主義・基本的人権が日本をダメにした

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長勢甚遠という方が「国民主権、基本的人権、平和主義、これをなくさなければ本当の自主憲法ではないんですよ」と発言したとして話題になっている。YouTubeのビデオの再生回数は25000程度と大したことはなく、主にTwitterでヘッドラインが出回っている状態だ。
文脈を抜きにして善悪を判断するのも問題なので当該個所を聞いてみた。憲法の三原則はマッカーサーから押し付けられただから、これをなくさないと自主憲法ではないと言っている。自民党の憲法案はこの三原則を遵守すると言っており問題だと主張する。その後に続けて「人権とか平和主義と言っていると怖じ気づく」と発言している。何かと戦う気らしいのだが、何と戦うのかは不明だ。
創世「日本」は保守系の議員の団体らしい。つまり、偏った指向を持った一部の「国民」の団体ではない。会長は安倍首相だ。自民党の議員が多いのだが、現在のメンバーには荒井広幸(新党改革)・水野賢一(民進党)という現在改選を迎えた候補者がいる。
文脈を探る上で発言の時期は非常に重要だろう。2012年は民主党政権時代の末期に当たる。民主党政権ができたのは「民意」によるものだが、当時の保守系議員は被害者意識が強かった。民意という暴力によって正当な与党で居続ける権利を失ったという気持ちが強かったのではないかと考えられる。そこで仲間内で集まり、慰撫しつつ、気勢を上げているというのが本当のところではないだろうか。無知蒙昧な国民に正しい判断ができるはずはなく、マッカーサーのせいで国民が増長しており、その結果民主党に政権を取られたということなのかもしれない。
この団体の全員が本気で憲法の三原則を破棄しようとしているかどうかは分からない。メンバーの中には「SEALDsはわがままだ」と言った武藤貴也議員がいるのだが、表立って三原則の破棄を訴えたために攻撃の矢面に立ち、最終的に「未公開株」などの件で自民党を離脱してしまった。武藤議員によれば、与党に歯向かうのは「国民主権」で増長したわがままな大衆にしか見えないのだろう。
他の議員たちは内と外で議論を使い分けている。この会を支えている人たちはプリンスを祭り上げて政治的に利用しているだけかもしれないのだが、武藤議員のようにこの主張を真に受ける人たちが出てくるわけだ。現在の憲法の三原則は、日本が国際社会に復帰するために必要な措置だったと考えられる。三原則を受け入れたから再独立プロセスもスムーズであり、戦後の経済的繁栄の基礎にもなった。だが「保守とは人権を否定すること」などという極論を吹き込まれるうちに、武藤議員のように歴史を知らない人が出てくるのだ。
冷静に考えてみるといくつかの疑問がある。
第一の疑問は、この人たちが「何と戦うつもりなのか」というものだ。立ち向かったり、打破するという言葉は勇ましいのだが、一体何と戦うつもりなのかはよく分からない。中国の経済的台頭が著しかった時代なのだが、経済的な脅威が別のものとして捉えられていた可能性はあるだろう。
議員たちはどの程度のリスクを背負って戦後三原則の破棄をしたいと考えているのだろうかという問題がある。「国民主権」は邪悪な思想であると主張すれば国民の反発は避けられないのだが、憲法改正議論を突き詰めてゆけば、いずれはこうした問題を国民に訴えかける必要が出てくる。緊急事態条項で国会を無力化するということも考えられなくないが、これはクーデターであり一種の革命思想である。与党は国民の信任を得ているわけだから革命を起こす必要はない。
民進党・共産党があまりぴりっとしないため、自民党・公明党が2/3を握る可能性は高い。するといずれ憲法改正議論になり、こうした過激思想が表に出ることになる。議論が国民に晒されることになるわけだ。現在の憲法は70年以上も経っているので、憲法第九条のように現状にそぐわなくなってきているものもある。アメリカの地域での立ち位置も変化しつつあり、将来自前の軍隊が必要になる可能性すらあるのだ。つまりは、真剣な議論が必要なのだが、過激な極論のために憲法議論そのものが妨げられていると言える。いつまでたっても憲法論議をクローゼットから出すことができないのだ。
中には自民党の復古的な憲法改正案を警戒・敵視している新聞社がある。そのために「安倍首相は憲法改正を狙っているのでは」という論調の記事を書きがちだ。すると彼らはそれを隠してしまう。それよりも「立派な主張なのだから」と聞き出した方がよいのかもしれない。得意満面で「人権は欧米の間違った主張であり……」をいう話を「戦後教育に洗脳された」読者がどのように聞くのか興味深い所である。


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