中国のSNSに横須賀基地(自衛隊・米軍)の空撮写真が投稿された。その後の経緯をみて「岸田政権では日本国民の安全は守れないのだろうなあ」と確信した。世襲を中心に構成される政権は日本を統治対象としかみておらず国民に寄り添った目線が感じられない。今回も深刻に受け止めて警戒監視体制を強めますとしか言っていない。
悩ましいのは日本全体から国を守るという意識が失われつつあるという点だろう。防衛に対して勇ましいことを言っている人たちほどその傾向が強い。彼らの強気な態度は無気力な日常生活の裏返しに過ぎないのである。
中国のSNSにドローン空撮映像が投稿された。横須賀にある自衛隊と米軍の基地を空撮したものだった。当初朝日新聞がこれは中国の情報戦に違いないが挑発に乗ってはならないという記事を書いている。タイトルは「「いずも」ドローン動画はフェイクか 「情報戦」をしかけられた日本」と勇ましい。
ところが次第に情報戦ではないことがわかってくる。NHKは次のように書いている。趣味のいたずらだったようだが難しいことを成し遂げた達成感があったのだろう。随分と気分が高揚していたようだ。アカウントの国籍などはわかっておらず中国人の投稿かどうかはわからない。
このアカウントでは、映像の撮影・公開の目的は触れられていませんが、中国本土で使われる簡体字が多く用いられているほか、英語やフランス語、日本語などでも投稿があり、「私は国外にいる」「安全です。捕まっていない」「これは未来の戦争だ」などとも投稿されています。
のちにこのアカウントは取材に応じており「ちょっと危ないことをしたかっただけの人」ということがわかっている。おそらく中国では軍事機密はかなり厳密に守られているはずだ。その常識から日本を見て「あ、この程度なんだ」と思ったのかもしれない。
となるとそもそも最初の朝日新聞の「情報戦云々」という話はなんだったのだろうか?という気がする。
ところがこれについて自民党の長島昭久氏が「撃墜できるようにする法整備を目指す」と言っている。仮にこのドローンがいたずらではなく攻撃目的だったとしても今の法体系では防御できないということになる。可視範囲を飛行できるのだから、当然攻撃もできる。
確かに領土・領海内に入ってきた場合には「撃墜可能」ということになるのだがドローンは遠隔操作も可能だ。領土・領海外にあるものはどうするのだろうか?などという疑問も湧く。また誰が撃墜を決定し実務を誰が担当するのかもよくわからない。長島さんが提唱してどれくらいの国会議員がついてくるものなのかという気もするが「どうせ無理に決まっている」と決めつけるのはやめておきたい。
軍事戦略に詳しい小川和久氏などは「少数の攻撃でも自衛隊は麻痺するだろう」と言っている。ただしこれは氏が提唱する陸上自衛隊予算獲得のための誘導議論となっているようだ。
いずれにせよ、現在の体制では中国からやってきたドローンに防衛上の要所(軍事拠点だけではなく原発などのエネルギーインフラなどもある)に攻撃が加えられてもなんら対処できないということになる。自衛隊施設であれば自衛隊が防御すればいいのだろうが、例えば公安施設の場合は一体誰が撃墜を担当するのか?という問題もあろう。
おそらくこの両識者は自分達が考える予算獲得や支持拡大の誘導議論のために今回の件を使いたいのだろう。だが、実はかなり重要なセキュリティホールが提示されている。
では実際に防衛省はどのように対処したのか。SNSにアップされてから何もしていなかった。さらにこれが本物だとわかった後も「今後気をつけます」としか言っていない。Yahoo!ニュースのエキスパートの記事に次のようにある。
防衛省は9日、海上自衛隊横須賀基地に停泊中の護衛艦「いずも」をドローンから空撮したと称する動画と画像の真偽について、「映像は実際に撮影された可能性が高い」とする最終分析結果を公表した。そして、防衛上、重大な支障を生じかねないことから「極めて深刻に受け止めている」とし、警備に万全を期す方針を示した。
世襲の多い岸田政権は国民を統治・管理の対象くらいにしか思っていない。このためアメリカの要望に従った国内法整備には極めて熱心である。民間人に政府の調査が入るセキュリティクリアランス法と、有事の際にアメリカからの支持を受け取りやすくする総合指令本部の設立に関する法律はスムーズに成立した。
だが、こうして「降って湧いたような」問題についてどのようにしたいのかという政府の意思は全く感じられない。ただ「結果的に攻撃されていないのだから問題はない」というばかりである。もはやアメリカの要望という具体的な指示なしには動くことすらできなくなっているのだ。こうしたマインドセットは選挙でスクリーニングすることはできない。またなぜ自発的にアジェンダセッティングをやろうという気概が政治家から失われてしまったのかもよくわからない。これは防衛だけではなく通貨政策にも言えることだ。円安が加速しても政府は「注視しています、懸念しています」としか言わなくなった。
今回もう一つ浮き彫りになったことがある。それは普段熱心に憲法第9条の改正を説いている人たちの無知と無関心ぶりだ。彼らは権威の側になって単に大きな顔をしたいだけであり、こうした政府の無策に対して抗議の声を上げることはない。
彼らの頭の中では、台湾有事では必ず中国が攻め込んでくるということになっているようだが、おそらく実際にはそのようなことは考えていないのだろう。今回のドローンで政府に対して早急な対策を求めるような運動はなかった。自称愛国者と呼ばれる人たちの話は「話半分」くらいに聞いておいたほうがよさそうである。
今回の議論を見ていて「日本も随分無気力な国になったものだな」と感じた。と同時に単に冒険心の強い人物の仕業でよかったとも感じる。悪意と意思があれば国土を麻痺状態にすることなど容易かっただろう。
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