AppleがiPad Proを発売したプレゼンテーションで楽器を押し潰した映像が話題になった。興味深いことに率直に違和感を表明している人とそうでない人がいた。
「日本人だけが騒いでいるのではないか」と気にしている人が意外と多かった印象である。日本人だけが騒いでいる=間違いと考えたのだろう。
CNNもWSJの記事を引用した記事を出しているくらいなので特に間違いだと気にする必要はないと思うのだが、それでも周りと違った意見を持つことに不安を感じる人が多いのだろうと感じた。
IT Media Mobileが「Appleが楽器や創作道具、ガジェットをプレス機で破壊 新型iPad Proの“意外すぎる”PVが物議 あなたはどう思う?」という記事を出している。次のような一説がある。非常に日本人の国民性がよく現れていると思う。
詳細に精査したわけではないが、映像表現自体を批判しているのは日本人とみられるXユーザーが多く、英語圏などのXユーザーは新型iPad Proの機能自体を批判するツイートが多いように感じられた。ただし、表現を疑問視する日本人のツイートには「そう思っているのは日本人だけではありません」といった海外からのリプライも寄せられており、“破壊”が気になるのは日本のお国柄というわけでもなさそうだ。
この記事の構成は複雑だ。まず日本人だけでなく外国にも同じような気持ちを持っている人がいるとしているのだがそれでも自信が持てなかったのだろう。最後は「あなたはどう思う?」と判断を投げている。自分の意見を持つことをそれくらい嫌う国民性なのだなと感じた。
おそらくこのブログを読んでいるような人は「自分の率直な気持ちを表現して何が悪いのだろう?」とくらいにしか考えないだろう。つまりこの件をあまり深刻に捉えた人はいないのではないかと思う。
だが、Xの投稿を見ていると「騒いでいるのは日本人だけなのではないか」と不安がる人たちは一定数存在した。中には「プレス機に押し潰される映像に慣れなければならない」などと主張している人もいた。メディアに露出しているあの識者でもそう思うのだなあと感じた。
ワールドスタンダードとまでは言わないが少なくとも「自分の気持ちには素直にならなければならない」というのがアメリカのスタンダードだ。特にIBMなどが支配するメインフレーム支配からの脱却を掲げていたアップルのファンにはその傾向が強いだろう。
実際にアメリカでは次世代のテック文化人たちが育ちつつあり、かつての解放者だったAppleが今や昔批判していたIBMと同じになりつつあるという評価も出ている。
もちろんAppleもいつまでも解放者ではいられない。世界中の投資家から資金を集めて株価を維持しなければならず理想ばかりを追いかけているわけにもいかないのが実情だ。このためかつてジョニー・アイブ氏のチームメンバーが次々とAppleから離職している。
カー氏の退社によって、かつてアイブ氏が率いた20数人のチームはほぼ完全に消失する。2019年にアイブ氏がアップルを去った後、トップデザイナーが相次いで退職。人材流出はこの1年にも続き、バート・アンドレ氏のほか、コリン・バーンズ氏、ショータ・アオヤギ氏、ピーター・ラッセルクラーク氏も退社した。
うっすらとした違和感を持っていても周りが賛成してくれるまで意見を言えない同調圧力の奴隷のような人も多いのだなあと感じた。日本人は政治言論でも「周りと異なった意見を持つ」ことを嫌う。
こういう人はむしろ次のような説明の方を好むかもしれない。
心配することはない。このプレゼンに関する違和感はあの有名なCNNでも記事になっている。
CNNが引用しているのはWSJだが「あのAppleが今や専制主義に陥った」という文脈の批判になっている。Appleが変質してしまったと嘆いているのは何も日本人だけではないことがわかる。
ウォール・ストリート・ジャーナル紙の記者は、「これまで私たちが喜びを感じていたもの全てをテクノロジーが破壊してしまうという人々の思いを、この広告は完璧にまとめている」とコメントした。
このブログを読んでいるような人に言っても仕方ない話なのかもしれないがワールドスタンダードとは世界の多数派の意見に合わせることではない。自分なりに考えた意見を表明し相手の意見も尊重することが重要なのではないだろうか。
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