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EU残留派の議員が殺された

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つい最近、テレビでテムズ川にたくさんのボートが浮かんでいる映像を見た。まるでお祭りか合戦のようだがあくまでも民主主義的意思決定プロセスの一環だ。EU離脱派と残留派が船をチャーターして争っているのである。民主主義は平和な戦争なのだな、とそのときは思っていた。
だが、それはとんでもない間違いだったようだ。ついに死者が出てしまったのである。
残留派の女性議員が離脱派とおぼしき男性に殺された。やり方は執拗で銃で撃った後にナイフで挿したのだそうだ。男は「ブリテン・ファースト」と叫んだそうだが、これは離脱派の団体の名前でもある。「ブリテン・ファースト」は関与を否定している。このスローガンはトランプ候補の「アメリカ・ファースト」を思わせる。自由主義への懐疑が徐々に広がっていることが分かる。
つまり、少なくとも一部の人たちにとってこの戦いは平和な民主的闘争などではなく、生存をかけた本物の戦争だったということだ。優雅にテムズ川でお船を浮かべて合戦ごっこをやっている場合ではなかったということになる。
殺された人と殺した人のバックグラウンドを知るとさらに複雑な気持ちになる。
殺された女性議員はオクスファムのメンバーだった。多分、社会福祉や女性の権利などについての発言が多かったのではないかと推察される。一方、容疑者は52歳の男性だ。どのような経済的バックグラウンドだったかは定かではないものの、定職に付いたことはない。
テレグラフによると社交性がなく精神病歴があり極右思想雑誌(アパルトヘイトを賞賛していたそうだ)を購読していた経験があるそうだ。つまり、女性議員が「救済してやろう」としていた側の人ということになる。恨むなら資産家の味方をする保守系の議員を狙うべきだと思うのだが、そうはならないのだ。容疑者は周囲からは「特に政治的思想もなく、おとなしくて、大それたことをしでかしそうもない良い奴」だと考えられていたとのことだ。
だが、よく考えてみると「定職が見つけられない」ほどの人が、殺人を計画できるとも思えない。誰か手引きをする人がいたのだとしたら、その人たちの意図はどこにあったのかと、空恐ろしい気分にもなる。
この事件がEU離脱にどのような影響を与えるかは分からない。犯人への同情から離脱票が集まるとは考えにくい。このところ加熱していたらしい選挙戦を冷ます効果はあるので、冷静になった結果残留票が増えるかもしれない。欧米の政治家たちは「民主主義への挑戦だ」として犯人を非難している。民主主義国としては当然のことだろうと思う。暴力が民主主義プロセスに影響するなどあってはならないのだ。多分、あまり民主主義のプロセスを理解しているとは言いがたい日本の官邸はコメントを出さないのだろうなとは思った。


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