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あなただけが知らない、中国艦船の日本領海への侵入の意図

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NHKが中国の艦船が日本に入ってきた、大変だ!大変だ!と騒いでいる。これを聞いて「大変だ、中国が攻めて来る」と思った。第三次世界大戦が始まってしまうかもしれない。それも僕だけに一般常識がなかったからだ。だが、いろいろ調べてみると、政府も、マスコミも、専門家も、みんな知っていて騒いでいただけらしい。知らないのは「なんちゃってジャーナリスト」の人たちだけだ。多分、他のニュースリテラシがある人たちもみんな知っているはずで、大変な恥をかくところだった。
依然、中国が日米陣営を挑発していることは確かなので「領海まで入ってきても全然平気だ」とは思わないが、抗議するならそれなりの態勢が必要らしい。国際政治は(これもみなさんの間では常識なのだろうが)チェスレベルくらいには難しいのだ。
ことの発端は、アメリカが南シナ海で実施した「航行の自由作戦」らしい。中国は埋め立てた人工島(従って領海がないはず)を自国領だと主張している。「え、知らなかったの。あれ島だったんだよ」というわけだ。ここを通れなくなると同盟国の石油輸送などが滞るので、アメリカは軍艦を派遣することにした。そして、わざわざ中国の主張する「領海」を鳴り物入りで通ってみせたのである。
もちろん、こんなことをされて中国軍も黙っている訳にはいかない。彼らにも意地とメンツというものがある。そこで中国は報復行動に出た。中国が「日本が領土と主張する」と主張する尖閣諸島に出かけていって「ヘイヘイ」と航行する。アラスカ沖にも表れたようで、アメリカの領土をかすめたそうだ。
そもそも外国の領海に軍艦が入るなんて「庶民感情」では違法のことのように思える。だが、そうではないらしい。これもWikipediaレベルの情報なのだが、軍艦であっても他国の領海を航行することは認められている。ただし「ただ、通るだけ」という条件はつく。これを無害通航と呼ぶ。こんな権利が認められるようになったのには長い歴史があるらしい。世界史には「重商主義」と「自由貿易」という対立がある。無害通航は自由貿易的な考え方で、安倍首相のいう「法と自由を……」という側の考え方である。一方、重商主義の国は「大西洋は俺のものだぜ」などといい、通過料を取っていたりしていたのである。結局自由主義が優勢となり一般船舶の無害通航権が認められた。
この権利は戦後拡張され、軍艦であっても目的地に向かうついでなら領海を通っても良いという考え方に発展した。先進国側の艦船が「我が物顔」で外洋を通航するのに、領海が邪魔だったのではないかと考えられるのだが、これはwikipedia情報では分からない。
いずれにせよ、アメリカは「無害通航権だ」と言いながら、中国の「領海」に入った訳だ。アメリカは世界の外洋(中国から見れば自国の鼻先)を守るという名目で航行している。だから、中国がアラスカ沖に表れても文句は言えない。仮にアメリカが「中国の軍艦がアメリカ領海に入る場合にはアメリカ政府の許可を必要とする」と宣言してしまえば、中国は「待ってました」と言わんばかりに喜ぶだろう。南シナ海に入ってくるなと主張できるからだ。日本についても「以下同文」である。
領土は国連で裁定しろという人もいるかもしれないが、程度としては「外国が攻めて来たら酒を酌み交わす」と言っているのと同程度には夢物語である。
つまり、騒ぐと喜ぶのは中国なのである。理論上は関門海峡に中国軍艦が出現しても日本は「懸念の表明」しかできない。だから日本政府は「何もするなよ」としか言えないのだ。明らかに中国艦船には日本を恫喝する以外の意図はなくても「いや太平洋上の公海で魚釣りをしている中国の一般ピープルの護衛がしたかったんだよね」と言われれば終わりだし、そもそもそれを説明する義務もない。
こうなると困るのは自民党政府だろう。中国が日本の海を「蹂躙」しても何もできない。マシュマロ顔の中谷さんが出てきて「懸念の表明」をして終わりになるだけなのだ。ネット世論が騒げば騒ぐほど中国を利することになる。そのうち「日本政府は弱腰なのでは」という世論が起こり、自民党政府は対応に追われることになる。監視くらいはするべきだろうが、うっかり過剰防衛でもしようものなら中国側は「先制攻撃だ」と騒ぎ立てるだろう。
かといって中谷さんは何も言わないわけにはいかなかったのだろう。秘密にすればばれたときに「なぜ公表しなかった」と大騒ぎになるのは目に見えている。民主党政権の尖閣諸島中国漁船衝突映像流出事件が記憶に新しいところだ。情報が「リーク」されて大問題に発展し、政権を失う一つの材料になった。
例えて言えば、人の鼻先にグーを差し出して「殴ったわけじゃないもんね」と言ったら「じゃあ、俺も」と言われたみたいなものだ。ここで泣き出したら「お前、どんだけ根性なしなんだよ」と言われるだろう。そもそも「グーを出す」前にどうなるか考えるべきだった。「やるな」とは言わないが(やらないと根性なしといわれるかもしれないから)「同じことされても泣くなよ」くらいのことは言っておくべきだったように思える。
同時期に中国はインド領にも軍隊を送っている。それくらいの覚悟はあるみたいだ。日本もけんかするつもりがあるなら「100%安心・安全」などと国民に説明してはいけなかったのだ。
さて、いずれにせよこれは僕だけが知らなくて恥ずかしい思いをしそうになったことの顛末だ。もちろん全体像ではないだろうが、だいたいの筋道はこんなものだと思う。みなさんは知っていたと思うのだが、一応勉強のために書いておいた。


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