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イギリスのEU離脱 – 民主主義という不安定要素

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このところ円高が進行し、株価が下がっている。アベノミクスの失敗ではなく、イギリスの国民投票に備えた動きだと言う。市場はイギリス人がある政治的判断を下せば経済が不安定化することを予想しているのだ。
イギリスでは6月23日にEU離脱の賛否を問う国民投票が行われる。なぜか日曜日ではなく木曜日に選挙をするらしい。もともとはわずか10万人の署名で始まった誓願なのだそうだが、今では離脱派の方が多くなっている。背景には流入する移民の脅威があるのだそうだ。
イギリスや大陸のエリートたちは「イギリスがEUから離脱すれば経済的な不安が大きくなる」と主張する。スコットランドはイングランドがEU離脱を決めれば再び独立運動を起こすと息巻いている。しかし下層のイギリス人たちは聞く耳を持たない。経済はすでに困窮しており、彼らには失う物がない。それどころか大陸から押し寄せてくるイスラム系やスラブ系の移民に仕事を奪われ、年金をかすめ取られる不安を持っている。彼らに取ってEUは不安定材料でしかないのだ。
もちろん、冷静に経済上のメリットを考えれば国境をなくし自由な貿易圏を作った方がいいに決まっている。だが、EUの官僚たちは非民主的に意思決定し、企業家たちは庶民に十分な分配をしなかった。この動きはイギリスだけでなく他の国にも混乱を引き起こすだろう。「EUの規定のいいとこ取りだけをしよう」という国が増えることは容易に想像できる。「できなければ、離脱だ」というわけである。
EUの崩壊は金融システムに大きな影響を与えるだろう。前回のリーマンショックは金融システムが作り出した危機だったのだが、今回は民主主義のプロセスそのものが同じような危機を引き起こす危険性がある。離脱が決まっても交渉は数年に渡るそうで、その間中、ヨーロッパの金融機関への疑心暗鬼を持ち続ける。影響が他の国に及べば金融不安はさらに続くかもしれない。
皮肉なことにヨーロッパの懸念は間接的に「日本国債バブル」を引き起こす。結果的に政府の資金調達が容易になるため、日本政府の財政規律が緩むだろう。安倍政権は大規模な財政出動を計画しており、容易な資金調達は好都合に見える。しかし、これは一種のバブルにすぎず、金融システムが安定したときには一気に引き出される。買い手は外国人なので「アベノミクスが成功したか」などには全く興味がない。時期が来たらもっと成長性の高い国に投機が移ることになるだろう。つまり、資金の引き上げが起きた時、日銀には打ち手が残っておらず、日本政府は何もできないということになる。ある意味イナゴの大群に似ている。
だが、日本国民はこれをフリーランチと考えて、安倍首相の政策を支持するかもしれない。財政出動によって歪んだ市場は自立の意欲を失う。一方で持続性に疑問を持った経営者は非正規の労働者を使って好況の果実だけを蓄積しようとするだろう。
憲法改正などはこの悪夢のおまけにしか過ぎない。経済が不安定化したときに国民を弾圧するのに使われるかもしれないが、強化された政府の権限に期待する声が高まる可能性も排除できない。
こうしたことが何年も続けば人々は民主主義的なプロセスを使って短絡的かつ脈絡のない「意思決定」を繰り返すことになる。そうなれば人々は民主主義そのものを疑い始めるかもしれない。誰かに意思決定をゆだねて楽になりたいと考えるのだ。
日本では舛添都知事が辞めるか辞めないかということが関心の的になっている。これは一般国民が無料で見られる娯楽である。一方で資産を持っている人は海外の動向などの別のニュースに関心を持っている。多分、彼らが情報を得るのは有料チャンネルなのかもしれない。