共同親権法案に進展があり衆議院を通過した。野党は賛成したが自民党の野田聖子氏は着席したままで賛成しなかった。党の決議に造反したものとみられている。審議は今後参議院に移るが、野田氏の造反の意味は大きかったのかもしれない。法律の内容にこだわった議員が結果的に周囲から浮いた存在となってしまったのだ。
野田氏が造反した理由は共同通信と時事通信がそれぞれ書いている。
- 野田氏は本会議後、記者団に改正案を巡り「法案を作る側として調理していないものを出すような感じだ」と指摘。「これでは賛成しかねる」と語った。(共同)
- 記者団の取材に「子どものための法案だったのが、政党間のけんかみたいになっていて、賛成しかねるという思いに駆られた」と説明した。(時事)
今回の件は極めて興味深い。野党は当初共同親権問題でDVなどの対応が不十分であると考え反対の意向だった。だが最終的には「真意を確認する措置を検討する」という付則をつけることで折り合った。
この問題で情報発信をしている寺田学議員の説明をXなどで読むと「単に反対するのではなく協議にとどまることで運用の見直しを働きかけてゆく」という方針だったことがわかる。つまり参議院ではさらに「どう運用するか」の議論が進むものと期待される。
野田氏の発言には二つの意味がある。
まず、自民党があまりこの問題に関心を持っていなかったことが窺える。このため野田氏曰く「調理していないものがそのまま通った」形になっている。ことの発端はトランプ政権で日本が名指しされたことだった。つまりアメリカからの外圧が審議のきっかけになった法案だった。
おそらく自民党の議員は家族の在り方にはさほど興味がなく「法務省が言っているならそのまま通せばいいのではないか」と考える人が多かったのだろう。審議の途中で「できるだけ離婚ができない仕組みにすべきだ(谷川とむ議員)」のような驚くような暴論も飛び出している。
自民党は家族の在り方にこだわっているように見える。だが女性皇族の在り方についても「女性皇族のパートナー」の位置付けを曖昧にした最終案をまとめようとしており実は家族の在り方にはさほど興味がない政党だ。
ただ野田氏のもう一つの「政党同士のけんか」という発言を見ると、実は野党側にも同じような議員たちがいたことがわかる。「議会闘争を通じてできるだけ票を多く獲得しよう」という人たちは法律の内容とその運用には興味がなかったのだろう。
もちろん全ての議員が不真面目だったというわけではないのだろう。実際に真摯な説明を心がけている議員もいる。だがこの野田氏の造反は「自民党を裏切って野党についた」というものではなく「本当にそんないい加減なことをしてもいいんですか」「これでは有権者たちに見限られるのではないですか?」という真剣なメッセージになっている。
超党派議連の代表を務めた野田氏には「なぜきちんと議論をして有権者にその話し合いの過程を説明しないのだろう」という気持ちが強かったのかもしれない。
皮肉なことに「内容と決め方」にこだわったからこそ野田氏は今の議会では浮いた存在になってしまうのだ。
結果的に「たった一人の反乱」になってしまったが、その意味するところは大きいのではないか。つまり議会が法律の内容と運用に興味をなくしているのである。これではなんのための議会なのかわからない。