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アベノミクスを力強く進めるとどうなるか

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安倍首相と自民党は参議院選挙に向けて「民主党政権時代の混乱した時代に戻るのか」と国民に力強く訴えている。共産党などは「いつまでたっても道半ばだからこの道は間違っている」というが、国民の間には共産党に対する忌避意識が強く、訴えは響かない。
ところが共産党の「道半ば」というのは、まだ幸せなシナリオだと言える。河野龍太郎氏のコラムには次のようにある。

  1. ゼロインフレの下でのマイナス金利によるスローペースの金融抑圧(生起確率39%)
  2. 4―5%のインフレの下でのモデレートな金融抑圧(生起確率35%)
  3. 10%のインフレの下での激しい金融抑圧(生起確率25%)
  4. 2%成長、2%インフレの下での金融抑圧(生起確率1%)

全てのシナリオに金融抑圧という言葉が出てくる。これは資産に対してマイナスの金利がかかることで、国の借金を返してゆくというような意味合いなのだそうだ。ちなみにアベノミクスが示すシナリオは4なのだが、河野氏はこれは実質的に0%だろうと言っている。メインのシナリオは1だが、これはいつまでたっても景気がよくならず、じわじわ、だらだらと資産課税が続くというシナリオだ。これもアベノミクスが間違っていたということではなく、アメリカや中国などの需要が高まらない可能性が高いからなのだそうだ。
「あれ、アベノミクスって、経済を成長させて国民の生活を豊かにするためのものじゃないの」というおめでたい人がいそうだが、アベノミクスの目的は2つだ。

  1. 金融抑圧で政府の負債を圧縮する。
  2. 日銀に政府の負債を引き受けさせ、財政出動のための資金を得る(財政ファイナンス)

財政ファイナンスはきわめて危険なのだが、野党がこれを批判しないことが不思議に思える。経済に疎そうな共産党は分かっていないのかもしれないが、民進党の中には分かっている人がいるのではないだろうか。これを批判しないのは、後になって自分たちがバラまけなくなるからナノかもしれない。
アベノミクスは実質的に財政出動依存に陥っている。これは政府の負債を増やす。こうして増えた負債をインフレでチャラにするというのが基本的なシナリオなのだ。「アベノミクスを最大限に」というのは、つまりこういうことである。
別のコラムには次のような解説がある。

貯蓄者や投資家に押し付けられる、実質利回りの低さという痛み以外にも、金融抑圧にはコストとリスクを伴います。金融抑圧は、きわめて非効率な資本配分を促進し、より生産的な投資を締め出す傾向があることから、中期ないし長期の成長を妨げる可能性があります。さらに、金融抑圧は、資産バブルと破裂制御不能なインフレ、信認の喪失や資本逃避による経済活動の突然の停止など、意図せざる市場の歪みをもたらす可能性があります。

日本人はリスクが大嫌いなのだが、暫時的な変化やなし崩し的な変化にはきわめて寛容だ。しかし、その結果訪れるのは金融市場の大混乱を伴う経済の突然死だ。いわゆる「リーマンショックの再来」である。唯一の救いはこの傾向は世界的なものであり、先進国に投資していようが、新興国に投資していようが同じことだという点くらいだろう。つまり、平等に冨が収奪されるのだ。
河野氏はモデレートなインフレが2桁インフレに移行するシナリオ(3から4への移行)を提示しているが、不動産投資と海外への資産投資が加速するとのことである。とはいえ、よほどの資産家でないかぎり、生活費を捻出するために不動産を切り売りせざるを得なくなるわけだから、この帰結は、一部の余裕のある資産家が全ての資産を握る超格差社会だということになる。ある程度政治リテラシのある先進国でこうした格差が温存されるはずはないと考えると、極端なポピュリズムへの傾倒が起る可能性もある。土地を確保した資産家への大きな課税などが考えられる。
つまり、共産党のいうように「いつまでも道半ば」の方が好ましいということになる。待っているのは経済の大混乱だからだ。とはいえ、民進党や共産党にこれを避ける知恵があるとは考えにくい。現在の経済状態は衰弱死寸前の人に麻薬を与えて元気に見せているだけの状態とも言える。ここで麻薬を切ってしまうと「ほら、元気がなくなった」と責められる可能性すらあるわけだ。
つまり、安倍首相は「もう、麻薬を打って状況をごまかすしかない」と言っているのである。麻薬の売り手が「あの麻薬がなかった時代に戻るんですか」と国民に訴えているのと同じことなのだ。