週明けのドル円相場は円安進行で、あっというまに1ドルが154円台に突入した。日銀・財務省はアメリカなどと緊密に連絡をとっていると表明した。つまり具体的な為替介入の調整が始まっている。さまざまな憶測が流れたが最終的には原油高が要因だというところに落ち着いた。やはり週末にイランがイスラエルを攻撃したインパクトは大きかったようだ。
この件に関してはロイターとBloombergがそれぞれ短い記事を書いている。ロイターは原油高が円安の要因になったとしている。Bloombergは少し丁寧に因果関係を説明している。原油高でアメリカのインフレが高止まりする懸念が出てきたため円安が煤だという。つまり、今後も日米金利差が高い状態が続くとみているのだ。
これまで口先の強硬さとは裏腹に介入には消極的とみられていた日本の金融当局も日米で緊密に連携をとっている丹下。IMFの春季会合が行われるのに合わせて今後日本が取り得るオプションを検討するようだ。アメリカのイエレン財務長官は「過剰供給問題」で中国を囲い込みたいと考えておりなんらかの取引込みで日本への一定の配慮が示されるかもしれない。今後の動向に注目したい。
今回の特徴はリスク回避=円高にならなかったという点である。リスク回避の流れがこれまでと違うと戸惑った人も多いのかもしれない。
普段であればリスク回避が意識されると新興国などからアメリカや日本に資金が流れ込んできていた。ところが今回はそのような動きは起きず、従って「有事に強い日本円」という常識は成立していない。日本の株価も下げており「円安でバリューが出た日本株を買おう」という動きもなかった。
原油の価格は高めで推移している。また金の価格が高騰を続けている。つまりやはりリスク回避の動きは出ている。
気になるのは原油価格である。今後の原油の価格は「変数化」している。イランに報復する(かもしれない)イスラエルの動きが確定していないためだ。ネタニヤフ首相の意思決定よって原油価格がさらに高騰するかもしれないというシナリオは(可能性はそこまで高くはないものの)排除できていない。
アメリカのインフレが続くという予想はアメリカの株価にも悪い影響を与えている。また米国債が下落(従って金利上昇)している。バイデン政権にとってはトランプ政権からの攻撃材料となり「悪夢の展開」だ。安全保障問題とアメリカ人の経済状況がリンクしてしまい国内問題化してしまうからだ。一方でアメリカほどのインフレに見舞われていない日本人にとっては「ほぼノーリスク(もちろんデフォルト危機はゼロではないが)」で確実なリターンが期待できるということになる。
中にはブラックマンデーが到来するのではないかと予測するファンドも出てきた。センセーショナルな見出しに目が行きがちなのだが要点はそこではないようだ。
「われわれには二つの投資目的がある。一つは資本の保全、もう一つは現金よりも優れたリターンを提供することだが、それは二次的な目的だ」と同氏は主張している。
新しく投資を始めた人たちは「市場の予測に勝ち資産を増やす」ことを目的としがちだ。だが世界情勢が緊迫化すると必ずしも「勝つこと」よりも「失わないこと」を目的にした方が合理的な局面が出てくる。この結果、株より債権、債権より現金、現金より金などの現物という流れができている。
2023年10月ごろにも「株から債権への流れ」が加速した時期があったがこの時は「アメリカの経済は意外と強かった」ということになり株高への揺り戻しがあった。あまり目の前の動きに一喜一憂するのも考えものだが、細かいニュースを見る前に大まかな流れを掴むようにした方が良さそうだ。
インフレの高止まりはバイデン大統領にはネガティブな印象を与えるだろう。イスラエルを抑え込めていないという感情的な批判とインフレの持続につながったという現実的な批判が1つにまとまってしまうからである。
また支持率が低い岸田総理はさらに複雑な状況に置かれる。岸田総理の経済政策の前提は「コロナ禍からの回復過程」による「デフレからの脱却」だった。このシナリオは完全に過去のものになったが岸田総理は依然として過去にシナリオに固執し続けている。とはいえ野党のシナリオもデフレマインドベースである。つまり「借金をして財政支出を増やせ」というものが多い。デフレマインドに支配されている日本人にとって道徳的・通念的には「正しい」判断だが、原油価格高止まりや労働人口供給制約を抱える日本にとってはインフレの加速という最悪の選択肢である。