可能性としてはそれほど高くないが「すわ第三次世界大戦」の危機はまだ去っていないようである。イスラエル情勢をめぐって我々はまだ危険な入口の扉が開くかどうかという瀬戸際にいる。
「これは管理された戦争である」という評論を見ながらテルアビブなどに浴びせられた空爆の様子を眺めていた。少なくともイランもアメリカもエスカレーションを望んでいないが空襲警報はけたたましく鳴り響いている。
誰も戦争は望んでいない。だがイスラエルは別だった。イスラエルの戦時内閣に主戦論が出ているそうだ。アイアンドームでイランを迎撃しながら「将来もイランからの攻撃に怯えるのか」と考えたのかもしれない。
イスラエルに対する攻撃が落ち着いた頃からアメリカの情報戦が始まった。負傷者が出ているという話もあるが、ある種芸術的と言って良い攻撃でほぼ犠牲者が出ていない。
合衆国はイスラエルを支持し続けるがイランの攻撃までは許さないというメッセージを流し始めた。程なくしてイランの側も一定の成果を挙げたので今回はこれ以上は攻撃しない(ただしイスラエルが反撃して来なければ)というメッセージを流し始めた。これが「管理された戦争」である。いわば歌舞伎なのだ。
ところが1日経って別の情報が出てきた。イスラエルが24-48時間以内にイランを攻撃するという。情報ソースがなくAIによる「ネタニヤフ首相の逮捕」画像が添付されていることから、これ自体はミームと考えられる。
つまり今のところは根拠なきフェイクと考えて良いのだろう。
ところがこれとは別の情報がある。
アルジャジーラによるとイスラエルは警戒体制を解いていない。次にイスラエルの戦時内閣はまだ次の行動について何ら声明を出していない。戦時内閣は主戦論に傾いているという報道もあるが「時期と規模については一致していない」という。いずれにせよスペクターインデックスは慌ただしくイスラエルの戦時内閣の言動や決定を伝えており報復に向けた何らかの動きが起こる可能性は否定できなくなっている。
明らかにバイデン大統領は状況をコントロールできなくなっている。アメリカ合衆国はイランへの報復には参加しないと宣言しているが、戦時内閣のメンタリティがよくわからなくなっている。彼らは狭い部屋に閉じこもり集団で近視眼的な意思決定をしている。また元々政敵同士なのでお互いに対する疑心暗鬼もあるだろう。
もちろんイスラエル側が攻撃を諦める代わりにもっと支援しろと「合理的に」バイデン政権に暗に要求している可能性はある。今後、集団思考化が進行し過度に楽観的な見通しのまま戦争に突入しないとはいえない。
バイデン大統領の外交には二つの特徴がある。理念的なポジションを作り相手にそれを受け入れさせようとする。また多数派を形成し数の力で状況を抑制しようとする傾向がある。G7のオンライン会議などもその一環と考えられる。
ところがこうした手法は危機意識から集団思考に陥っている集団には全く通用しない。却って彼らを追い詰め極端な思考へとかりたてる可能性がある。
現在、最も楽観的なシナリオはネタニヤフ首相と戦時内閣がバイデン大統領の冷静な指摘を受け入れ合理的な判断を行うというものである。この可能性も全く消えたわけではない。戦時内閣にもアメリカと意思疎通を図っているメンバーがおりバイデン大統領の意思は理解されている。
次のシナリオはイスラエルは攻撃を行うがその範囲が限定的に止まるというものだ。ガザ地区での戦争のために財政が逼迫しており予算制約がある。アメリカは報復を支援しないと宣言しているのでイスラエルが単独で取りうる選択肢は極めて限られている。イランが十分に自制すれば地域の小競り合いだけで終わるだろう。
その次の段階のシナリオはイスラエルの挑発にイランが応じてしまうというシナリオだ。支援国アメリカの基地が中東各地にありそれも攻撃対象になるかもしれない。日本はアメリカから支援(つまりお金と人)を求められるリスクがあり、なおかつ原油価格の高止まりが予想されるため国民生活に影響が出るだろう。つまり新しい中東戦争というシナリオである。
最後の段階はこれがウクライナとリンクするというシナリオである。アメリカがイスラエル支援にかかりきりになりウクライナが忘れ去られる危険性がある。今回のイランの攻撃をきっかけにイスラエル・ウクライナの支援予算についての審議が始まったと伝えられてきたが、CNNによるとまたしても揉めているそうだ。仮にアメリカがイスラエル支援にかかりきりになれば、ロシアはこれをチャンスだと思うだろう。バイデン大統領は議会リーダーに電話を入れ対応を要請している。
今回の件がどう決着するかはわからない。第三次世界シナリオは「イスラエルが暴走し、イランが応戦し、なおかつロシアがこれを世界大戦規模に拡大する」という仮定に仮定を重ねたシナリオであり実現する可能性はそれほど高くないのだが「中東戦争程度」であれば十分に起こり得る。
今回はラファ惨劇というタグを作りこの問題を追いかけてきたのだが、まさか短時間のうちにガザ問題から中東問題に昇格するとは思っていないかった。戦争が起きる時というのは案外そんなものなのかもしれない。何もなく「杞憂だった」となることを望んでいる。