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中国の尖閣海域侵犯と日本が敗戦した意味

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中国艦船が尖閣諸島辺りへの航行を繰り返しているらしい。これを見た短絡的な日本人は「中国は日本を侵略しようとしている」とか「国際的な秩序への挑戦だ」などと息巻く。まあ、これはこれで構わないと思うのだが、一般常識のある人はこのような意見には与しない方がよいと思う。これについて考えを巡らせると、意外な感想を持つ。
そもそも「国際的な秩序」とは何なのだろうか。もともとは内戦状態にあったヨーロッパでの紛争防止スキームに端を発する。ヨーロッパの勢力はやがて「国」という枠組みを発明し、海外で植民地経営に乗り出すようになった。この植民地経営に加わったのがアメリカと日本だ。「内戦」は植民地を巻き込んで、大混乱の末に集結した。結局「植民地経営は経済的に正当化できない」という認識ができ、別の統治の仕方が考えられた。それが国連による「国際的な秩序維持」である。
第二次世界大戦当時、ヨーロッパとアメリカは独力で日独伊に対抗できなかった。そこで中国とソ連を抱き込もうとした。ソ連はドイツと対抗していたし、中国は日本から独立したがっていた。また、アメリカは中国利権を日本から奪取したいと考えていた。
だが、この二カ国は旧宗主国連合ではない。つまりは植民地経営を経て「これは割に合わない」という経験をしていない。それどころか既得権としての利権を持っていないので、旧宗主国が作った秩序に挑戦するようになった。このため、国連は紛争防止スキームとしては破綻している。東西冷戦が終わった後、ロシアはクリミア半島を自国領土にしてロシア系住民の多いウクライナ東部を狙っている。また中国は外海へのアクセスを求めて南シナ海へ勢力を拡大しようとしている。
東西冷戦時にはあたかも「イデオロギー対立」のように見えていたのだが、最近ではそれは「文明の衝突」などという人もいる。だが、新興国が全て現在の国際秩序に反抗しているわけではない。例えばインド、南アフリカ、ブラジル、ナイジェリアなどは、植民地支配された経験から共通言語は持っている。
中国が尖閣諸島付近を航行するのは、明らかにアメリカが南シナ海を航行することに対する当てつけだ。アメリカが中国の提唱する秩序を認めないのであれば、中国はアメリカの提唱する秩序を認める訳にはいかないと考えるのだろう。それは旧宗主国陣営が作った秩序に対する挑戦なのだ。北朝鮮も核を持って「核兵器を平和の維持に利用する」などと言っているが、これはオバマ大統領をまねたものだろう。こうした国々はより危険な形で「正義の味方ぶる」アメリカに対抗しているわけだ。
植民地に完全に組み込まれなかった地域を探してみたがきわめて少ない。イラン(ペルシャ人)、エチオピア(他民族国家だそうだ)くらいしか思いつかない。トルコは東ヨーロッパとアラビア半島を版図とした経験があり「旧宗主国」側である。旧植民地で宗主国側に転じたのはアメリカ合衆国だけだ。
ヨーロッパはアメリカを「世界のリーダーだ」とおだてることで植民地を経営することなく世界秩序を維持することができていた。しかしアメリカ人は「実はこれは割に合わないのではないか」と感じ始めているようだ。その意味ではドナルド・トランプは田舎者のアメリカ人なのだ。「秩序維持に対して正当なな対価を得る」などと言っている。
そもそも中国は「国際的秩序とやら」による利益を享受している実感がない。従わせるのはなかなか難しそうだ。多分、軍事力によって押さえつけられているのではないかという被害者意識を持っているのではないかと考えられる。中国人はたびたび外国からの支配を受けてきたが、支配者層は全て中国に同化してしまった。中華文明に同化せず、ただただ搾取し続けたのはヨーロッパ人と日本人だけなのだ。イギリスのように麻薬を売りつけられないからという理由で戦争を吹っかけ、香港をぶんどった国もある。中国人にとってはこれが「国際秩序」なのである。
と、同時に日本が現在の地位にあるのは、第二次世界大戦で強豪国として列強に激突したからなのだなということも分かる。形式上では敗戦国なのだが、日本は第二次世界大戦で負けた国なのだという認識を持っていると国際情勢を見誤るのではないだろうか。