日本のハンカチ市場はきわめて小さい。アパレル全体の0.4%に過ぎないという記述を見つけた。ユニクロでは390円で売られているほど、取るに足らない小物だ。
日本の流通経路は複雑だ。小さな小売店が多く、流通経路が整備されていないためであると考えられる。ハンカチ製造メーカーも小さな業者が多いのかもしれない。その間を取り持つために卸が発展することがある。ハンカチ産業も川辺とブルーミング中西という2社が8割の売り上げを独占しているそうである。
ハンカチの売り上げは伸び悩んでいるようだ。川辺とブルーミング中西は主に百貨店や大手スーパーに卸している。百貨店は長期低迷傾向にあり、大手スーパーで衣料品を買う人も少なくなりつつある。消費者はユニクロやしまむらなどの専門店に行くからだ。一方でECは伸びており、こうした新しい販路を確保するのがよいように思える。ギフトとして使う人も多いのでソーシャルギフトなどの使い方が考えられる。
このように国内市場だけを見ると、ハンカチ産業はあまり魅力的に見えない。しかし、意外なことに日本のハンカチ産業は多いに栄えているらしい。ブルーミング中西によると、ソースは不明であるものの、その市場規模は世界一なのだそうだ。ブルーミング中西の担当者は「根拠や数字はないが、こんなに品揃えがよいハンカチ市場は日本だけだ」という。輸出はそれほどではないものの輸入も盛んらしい。なぜ日本のハンカチ産業は世界一なのだろうか。
日本には手ぬぐいや風呂敷といった布文化があった。このために「拭う物」としてのハンカチ文化が根付く素地があった。日本には手ぬぐいにお店のロゴを入れて贈答品として使うというような使われ方が根付いていた。これが1970年代に予想しなかった展開を迎える。
1970年代にアパレル卸しが海外からブランドロゴのライセンスを取得し皮小物などの小物を展開しはじめた。その小物の中にハンカチが含まれていた物と思われる。こうしたブランド物のハンカチをちょっとしたお祝いに贈るという習慣がうまれた。
このブランド物のハンカチというのは日本にしか存在せず、贈り物にハンカチを贈るという習慣もないようだ。ライセンスものがないということはハローキティなどのキャラクターハンカチが存在しないということになる。それを贈答品として使うという発想もないだろう。だから、海外から見ると、日本のハンカチ産業は非常に栄えて見えるのかもしれない。
贈り物に使うという発想がないので、刺繍したハンドメイドやカスタムメイドのものを記念日用に準備するという発想がそもそも生まれないのだ。
中国のようにハンカチを使う文化がないところもある。ものを拭くためには使い捨ての紙などを使うのだろう。中国人はブランド好きなのだが、ハンカチそのものがないために、日本のお土産としてのハンカチには大きな可能性があるということになる。ブランド物のハンカチに名前を入れて贈るなどという使い方は、中国人には思いつかないだろう。提案すればハンカチ業界は大いに潤うかもしれない。
だが、日本人にとって「ハローキティのハンカチ」は取るに足らない当たり前のものに過ぎない。そこに大きな可能性を見いだす人は多くないだろう。代わりに日本人が注目するのは、産地や肌触りといった機能面か価格だ。
日本の市場だけを見ると悲観的なことを書きたくなるハンカチ市場だが、世界的に見ると実はユニークな使われ方をしており、可能性を秘めているようだ。時々海外と比較しないとこうした可能性を見逃してしまうのではないだろうか。
見逃されている需要にはいろいろなものがある。日本には「西海岸風の男になりたい」などという人も多い。Safariが売れ続けるのはこうした理由によるのだろう。今月のSafariにはバンダナの使い方という特集がある。セレブが使っている正統なバンダナなどを売り出せば、そこそこ売れるのではないかと思われる。しかし、アメリカ人はバンダナなど取るに足らないおじさんの持ち物だと考えているかもしれない。
潜在需要というのは、意外と足下で見過ごされているものであり、人々の移動なしには発見されないのだ。