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国民を説得させられなかった経済政策の歴史

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現在の政治状況を見る上で一番大きな問題は何だろうか。それは国の財政が持続可能かという問題である。消費税論争はその一環なのだが「増税延期」だけが争点化されていて全体像はよく分からない。そこで、これまでの流れをざっと見ておきたい。
バブルが崩壊してしばらくの間、人々は何が起きているのか分からなかった。景気は循環するはずだという認識があったために、人々は「不況の原因」を探ろうとしたのだ。しかし、状況は一向に改善しなかった。しばらくは金融機関の改革も進まなかったし、終身雇用も維持されていた。しかし、それでもどうにもならず小泉政権下で様々な「改革」や対策がなされた。企業は終身雇用を徐々に縮小して延命を図った。金融機関の改革が遅れたために企業は金融機関を信頼しなくなり、内部資金(後に内部留保と呼ばれるようになる)に依存するようになった。
税収が落ち込み社会保障の支出が増え始めると、支出を削減して財政を再建すべきだという人たちと、市場原理を導入して成長を目指すべきだという成長派が現れて自民党の内部で対立した。前者は消費税を上げて財政を立て直すべきだと主張し財政再建派とか財政タカ派などと呼ばれ、後者はアメリカの理論を取り「上げ潮派」と呼ばれた。上げ潮派はもともとは小さな政府主義と市場主義だったのだ。上げ潮派の理論の中に緩やかなインフレを目指すべきだという「インフレターゲット論」があった。
この対立はやがて民主党の政策に打ち消された。民主党の政策は「官僚機構は財源を隠し持っているので、これを使えば国民の負担は増えない」という埋蔵金論だった。政権についてから民主党は必死に埋蔵金を探したが出てこなかった。このため野田総理が「消費税を再び上げる」と政策転換したので民主党政権は3年で崩壊した。
多分、これで痛手を負ったのは財政再建派のほうだっただろう。選挙で国民を説得しようとすれば、ポピュリズムを産むということを学んでしまったのだ。その確信を確かにしたのが、野田政権の失敗だった。野田政権は増税を言い出したために国民の怒りを買い政権を手放した。そこで、消費税増税議論は実質的な政治タブーになった。
自民党政権も支持者を説得しきれず小さな政府論が縮小し、最後には金融政策だけが残った。緩やかで管理されたインフレを目指すべきだという人たちはリフレ派と呼ばれた。このリフレ政策をパッケージとしたのがアベノミクスだ。アベノミクスは財政出動、金融政策、成長戦略の3つを「三本の矢」と呼んでいる。成長戦略は政府の規制を外して市場の活力を利用するというものではなくなり、地方に資金をバラまくという「地方創世論」にすり替わりつつある。こうした人たちは積極財政派と呼ばれる。政府支出を増やして需要不足を補おうという政策だ。アベノミクスは、積極財政策に金融政策を組み合わせたものだ。結局、安倍政権も最終的にはポピュリズムに頼らざるを得なくなってしまったのだ。
金融政策の発表後、円安が進行し株高になった。国民は「これでデフレが去った」という印象を持った。その後もなだらかに実質賃金は下がっていたが、暫時的変化にはあまり記憶に残らない。そこで今でも「民主党政権になればデフレに逆戻りだ」という印象を持つ人が多い。一方で「安倍政権になったのだから、何もしなくても状況は好転する」という望みを持つようになった。実際には小泉政権以降、なだらかな下り坂を下降し続けている。つまり、自民党と民主党の政策はともに状況を変えるには至っていない。一方で大きな危機意識もなく説得もされないために変革意欲を持たないのだ。
アベノミクスが早晩終わりを迎えるのは確実だ。アメリカの経済は回復基調にあり、金融政策の正常化を進めている。円安(通貨安競争などと呼ばれる)は容認されなくなり、新興国に回っていた資金が回収されると中国の需要にも影響が出るだろう。円安・インバウンド消費で一息ついていた日本経済には打撃が大きいのだ。アベノミクスは時間稼ぎとしては有効だったのだが、この3年間を無駄遣いした。特に後半の1年は「立憲主義」とか「戦争法案」などという経済的には意味のない論争に政治資源を浪費した。安倍首相はもう1年、国民のほとんどが望んでいない憲法議論に政治資源を浪費するつもりのようだが、状況的には許されなくなるだろう。
国民(といっても支持者だが)は経済が悪化すれば何らかの対応を望むだろうが、それは政府による財政支出しかない。これは財政の収支バランスを悪化させ、市場の需給バランスに歪みを生じさせる。市場の需給バランスが崩れると人々は自律的に経済運営をしようとしう意欲が奪われるだろう。
有権者の要望は簡単だ。自分たちの負担は増やしたくないし、社会保障もそのままにしてほしい。財政がどういうバランスになっているかということは「政府が勝手にやることであって、自分たちには関係がない」というものである。安倍首相はこうした要望をよくわかっていて、財源を示さないままで消費税の増税延期を決めた。だが、今後政治資源を浪費したツケを支払うことになるだろう。
結局の所、ヨーロッパやアメリカのような成長起動に経済をのせなければ、どの通路をたどってもやがてシステムが破綻することになる。ヨーロッパやアメリカではポピュリズム政治が台頭しつつある。自民党はポピュリストたちに取って代わられるか、あるいは自分たちがポピュリズムに身を任せるかどちらかの選択をする可能性が高い。