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安倍首相が見ない振りをしていることと岡田代表が見逃していること

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「非正規雇用が増えているが、仕事の総量が増えているのだから問題がない」と言ってはばからない人がいる。問題を解決するつもりがなく、ある一定のポジションを取って騒いでいればお金が入ってくるのだろう。そういう人たちは放置するに越したことはない。ただ、現在何が問題になっているのかは明確にする必要がある。
この正規から非正規への転換は少なくとも20年以上は続くトレンドであり、自民党が悪いも民進党のせいだとも言えない。どちらも問題を放置しているのである。
現在の日本は、一人当たりのGDPで見るとスペインやイタリアなどとともに先進国から脱落しつつある。イスラエルや韓国などの中進国との差がなくなりつつあるのだ。これは成長が鈍化しているからだろう。本来の実力通りだという見方もできるだろうし、もっとできるはずだと思う人もいるかもしれない。以降「もっとできるはずだ」という前提で進める。
足下では正規労働者が非正規に代わりつつある。高齢者の再雇用が促進しつつあるからだと考えられている。一方で正社員候補が足りないとも言われている。若年労働者が減っているからだ。つまり、現在の雇用体系の変化は人口動態で説明できる。
高齢者が働かないと生きてゆけなくなっていると反論する人もいるのだが、実際の高齢者は元気が有り余っており、これを労働力として活用しない手はないなとも思える。
企業は非賃金支出(社会保障の企業負担分)を負担しきれなくなってきており、非正規労働に依存するようになった。中には偽装請負が一般化している産業もある。これは「低生産性・非技能」への傾斜を意味している。生産性を伸ばせないのだ。特にIT技術が活用できないことがネックになっているのだが、主婦パートや高齢者メインの職場に最新IT機器を導入するのは難しいし、そもそも家族経営か個人事業主に近い高齢の経営者たちがIT技術を導入しようとは思わないだろう。
一方で新卒は中小企業に入るのをためらうようになった。一生その会社が続いているか分からないからだ。学生は企業から「選んでもらう」資格を得るためだけに大学に通う必要があるのだが、そのためには奨学金(これは借金のことだが)を借りる必要がある。現在では1/2の学生が借金をしていると言われている。学歴は知能のラベルとしてしか役に立たないのだが、それを得るために借金をする。つまり、その借金は生産性の向上には役に立たない。かといって、それを辞めてしまえば結婚して家庭を作ることも難しい。
地方自治体は資格職である介護士や保育士へのアクセスを失いつつある。地域に魅力がなく、労働者は都市部に流れてゆくし、職業に入ると結婚して子供を養えるほどの給料が得られないので人材はなかなか定着しない。
社会保障は「福祉」と訳されるわけだが、実際には収入を均す働きを持っている。収入がえら得るのは人生の一時に過ぎないが、支出は産まれてから死ぬまで続くのである。日本のように集団主義の強い国ではもともと家族が収入を均す働きをしていた。賃金を再配分することで親の面倒を見て、子供を学校に通わせていたのだ。ところが第二次世界大戦中に「国家が再配分をする」という考え方が導入され、戦後に「社会福祉や生活保障」という形で発展した。介護や保育は本来「妻の仕事」と考えられてきた。つまり、それは賃金を支払うようなものではなく、夫の給料で賄われる非経済活動だったのだ。
こうした矛盾を一手に引き受ける手段は、現在では生活保護しかない。つまり、制度が破壊されれば生活保護受給者が増える。すると社会の担い手がいなくなり、制度の崩壊が早まるという未来が予想される。
実施に税収は慢性的に不足していて、国は国民からの借金に頼っている。実際には国民の貯蓄を国債という形で吸い上げているのだが、いつかは返さなければならない。これを是正するためには、企業から取るか、国民から取るしかない。前者が法人税で後者が所得税と消費税である。消費税と所得税の違いは、勤労者から取るか国民一般からとるかというものだ。現在では65歳以上の人口が増えつつあるため、消費税の方が見込みがあると考えられているわけだ。今回、安倍首相が証明したのは、自民党政権は国民を納得させることができないということだ。今もできないし、将来も無理だろう。とはいえ、法人を説得することもできない。
消費税増税が成り立つためには十分な支払いが企業から労働者に流れており、それが家族間で最適に分配されている必要がある。つまり、労働者(消費者)への課税傾斜が起るならば、賃金の支払いが増えることはあっても減ってはいけないのだ。だが、実際には賃金総額は減りつつある。
ではこれが企業に有利に働くかと言えばそうでもない。2つの負の側面がある。一つは足下の消費が落ち込むことで企業活動が不活発になるという問題だ。国内消費は低迷しており、海外消費に頼るようになった。「需要が落ち込んでいる」という問題だ。安倍政権はこれを解決するために、需要側(つまり、納税者を代表して政府が支出する)の拡大策を取ろうとしている。いわゆるバラマキである。それが循環するようになれば良いのだが、企業は将来不安に備えてそれを備蓄してしまう。人口動態が縮小トレンドにあるわけだから、これは経済合理性のある行為だ。
このカウンターとして供給サイドの政策を取れば良いではないかという政治家もいる。これは政府制約をなくし、非市場経済を経済活動化するという「小さな政府」政策だ。しかし、現在の状況では企業は将来不安に備えた備蓄を増やすだけだろう。現在では、余剰の資金はタックスヘイブンに「投資」されてしまう。実際には死蔵されてしまうのだ。
もう一つの負の側面として、企業が優秀な人材や新しい産業に適応できる人材を入手できなくなっているというものがある。労働者が子供の教育にお金をかけることはできないし、そもそも子供が産めない。抵抗のある言い方かもしれないが「労働者は将来の労働者を産む装置」でもある。政府から見れば「納税者は将来の納税者を産む機械」なのだ。新しい事業に進出したり、IT化を通じて生産性を向上したりすることができない。なお「労働者」の中には経営者も含まれる。
このように全ての物事はつながっている。逆の言い方をすれば問題は1つしかないことになる。ここから漏れているのは、古い企業が新陳代謝して新しい産業に以降できないという問題くらいではないだろうか。
では、安倍首相も岡田代表もどうしてこのような全体的な視点を持つことができないのだろうか。それは、支持者が機能別のクラスタになっており、労働者=納税者=消費者という視点が持ちにくいからだろう。また労働者には「将来の労働者」とか「かつての労働者」と言った時系列的な変化もある。これらの要請がすべてバラバラに感じられて解決策にたどり着けないのではないかと考えられる。
自民党は「かつての労働者(つまり年金受給者)」「中小企業経営者」「経営者」などを支持母体にしており、民進党の主な支持母体は、公務員を含む現役世代の労働者のうち正規雇用にあるものである。