SNSでは「いよいよ森元首相の関与が明らかになった!」と大騒ぎになっていた。出火元を見ると「日テレ系の独自」になっている。先日、渡辺恒雄主筆と40分会談したというニュースもあり「ワシに任せなさい」くらいの話があったのかもしれない。
だがマスコミ主導・リーク主導の政府広報にはどこか危うさもある。実際には岸田総理は情報をコントロールできなくなっているのではないかと感じた。話に落とし所がない上に虚実が入り混じっても誰も何も判別できなくなる。
2024年度予算案が本日成立の運びとなった。それに合わせて岸田総理が記者会見をやるそうだ。このあたりで政治と金の問題を手仕舞いにすべく岸田総理ら幹部が安倍派幹部の4人を二日に分けて聴取した。
初日には新事実は出なかったことになっていた。ところが2日目が終わってから2つの新事実が出た。どちらも4人のうち誰が口を割ったのかがわからいように工夫されている。
1つは実は環流を止める相談を3月にもやっていたという時事通信の報道だ。さらにもう1つは再開については森元総理が関与していたという疑いが浮上したというニュースだ。こちらは読売新聞系の日本テレビが「独自」と銘打って報道している。2つ合わせると安倍元総理が中止を求めたものの森元総理が関与して環流を復活させたというストーリーができあがる。
2023年8月に幹部協議が行われていたことはわかっていた。時事通信によると安倍元総理が環流(キックバック)の事実を把握したのが1月だった。この後3月に会合を行ったというのが今回「新しく」わかった事実だそうだ。
政倫審では蓮舫氏が追及したにもかかわらず3月の会合の話は出てこなかった。3月に会議をやって止めていたにもかかわらず安倍元総理の死後に再開したということになると政倫審の説明が全てひっくり返る。
政倫審でこのことがわかっていたならば「立憲民主党の手柄」になっていたところだが岸田総理が自ら調査に乗り出したことで「岸田総理のリーダーシップがなければこの問題は解明されなかった」と説明できるような内容になっている。
一方の日本テレビの独自ニュースはさらに踏み込んでいる。4人のうち誰が言ったかはわからないが一旦中止が決まっていたキックバック再開の判断をしたときに森元首相が関与していたという内容である。仮に違法性を認識していたとするとそれがわかっているにもかかわらず森元首相がそれを強要した可能性がある。このため日本テレビは「森元首相への聴取を検討している」といっている。
この2つを合成し早くも政界を引退していた森元総理が大きな影響力を維持していた理由がわかった!などという観測が飛び交っている。
共同通信によると聴取が終わった後で幹部たちは何も言わなかったということなので、これらは全てリークの形で後から加工されたことになる。「餅は餅屋」ということで得意なことは得意な人たちにやらせようとしたということになるのかもしれない。
ただ、広報の外注はかなり危ういように思える。岸田総理は立憲民主党に聞かれて「聴取が終わってから処分を決める」と言っている。ところが実際には処分の話が先行しており聴取は後付けで事実を作るために行われているに過ぎない。世論もそれがわかっており実際に何が行われているかにあまり関心を向けなくなっている。
当然世論は「理屈などどうでも良いのだ」と過激な処分を求めるようになるだろう。過去には岸田総理は自身の処分を検討しているという報道が出て、森山総務会長が慌てて否定する場面もあった。今回の時事通信と日本テレビの「独自」報道もこれと同列に扱われる。
日テレの独自報道は非常に勇ましく、森元首相への聴取を排除しない内容になっている。仮に岸田総理側が森元首相聴取の手筈を整えてから発表したのであればいいのだが、逆に気を利かせたつもりの読売新聞系列が「総理、世間は森元首相の聴取なしには納得しませんよ」とけしかけている可能性もあるわけだ。事実毎日新聞は森元総理を呼べば政権が持たないと岸田総理が躊躇していると書いている。こうなると読売新聞系が森元総理の処分を煽り突き動かされる形で岸田総理が動くという意図しない絵ができてしまう。
こうなると一体主導権が総理の側にあるのかマスコミの側にあるのかがわからなくなってしまう。
世間の関心は高まるだろうが、森元首相は政界を引退してしまっており、自民党はなんらの処分も下すことはできない。つまり世間を煽るだけ煽ったのちに森元首相が関与を否定し「はいそうですか」で終わりになってしまうことは十分に想定できるのだ。
今回岸田総理と次期選挙不出馬を決めた二階幹事長には処分がない。世論誘導なしで報道が流れると「なんだ安倍派だけか」ということになりかねない。その意味では関心を森元総理に引き付けておくという作戦にはそれなりのメリットはある。
だがよく考えてみると「どのような基準で誰が処分されるのか」がますます不明確となり、結果的に誰が本当のことを言っているのかすらよくわからなくなっている。
国民の無関心と高まる懲罰感情が背景にあり、なおかつ追求を強めてきた立憲民主党にも特典を与えたくないという気持ちが強かったのだろう。政府は広報戦略を徐々にマスコミに「外注」するようになっている。岸田総理と国民の間のコミュニケーションはかなり危険な状態に陥っていることがわかる。