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世界は伊勢神宮「参拝」をどう伝えたか

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安倍首相がG7の首脳を伊勢神宮に招待した。はじめは「参拝」と伝えた報道もあったが、後に「訪問」などの中立な表現に改められた。NHKは正殿前の記念撮影までは映したのだが、参拝の映像は配信しなかった。一方で、産經新聞は「自由な形で参拝した」と伝えている。あくまでも観光ではなく、崇敬の念を持って参拝したことにしたかったようだ。
しかし、よく考えてみると安倍首相以外はすべてクリスチャンだ。キリスト教は一神教なので他の神様に参拝することはあり得ない。なおユダヤ教もイスラム教も神様は一緒であり、聖典も共通しており、異教の神様を参拝したことにはならない。
過去の記事を調べてたところ、インド訪問の際にシーク教の寺院を「訪れなかった」ことがあるそうである。ゴールデンテンプルを訪れるためにはターバンを巻かなければならないのだそうだが、イスラム教徒という噂があったオバマ大統領がこれを嫌った可能性があるというような伝え方だった。ただし、イスラム教の史跡は訪れている。どちらかといえば「どのような絵を撮られるか」を気にしていたようだ。
さて、BBCは控えめに「安倍首相が伊勢志摩を選んだのには政治的な意図がある」と伝えている。詳しく伝えているのはガーディアンだ。安倍首相が神道系の復古勢力と結びついているとしており、日本会議の主張も掲載している。国内向けのアピールだったというような論調になっていて、安倍首相と右派のつながりを詳しく伝えている。
ABCは次のように伝えている。大統領の広島訪問で頭がいっぱいらしい。もちろん、謝るか謝らないということを気にしているのだ。安倍首相が真珠湾を訪れないことにしたというニュースでは「日本では広島長崎と真珠湾をパラレルのものとして捉えていない」と伝える。真珠湾は軍事施設を攻撃したものと見なされており、市民が殺されたという認識がないのだというわけだ。こうした見方は指摘されるまで分からない。立場が違えば見方も違って見えるということだ。
面白いことに日本語版のwikipediaには市民の攻撃についての言及はないのだが、英語には記述がある。

エコノミストは「G7誘致に名乗りすらあげていなかったのだが、官邸の強い意向で選ばれた」と欠いてある。観光都市としての伊勢志摩の魅力を伝えたいとがんばっている地元の人たちが見たら泣きそうな報道かもしれない。オバマ大統領は正式な参拝(柏手や手水など細かく描写してある)はしないかもしれないが、戦争を推進した神道とG7が結びつくことになるとやや批判的に紹介している。ただし、メインはやはりオバマ大統領の広島訪問であり、伊勢神宮の訪問はそれより議論を呼ぶ可能性は少ないとしている。
エコノミストはこう結んでいる。

The problem for America in dealing with Mr Abe, however, is that it is impossible to separate those of his policies it likes from the broader nationalist agenda of some of his unappealing fans. That includes a revisionist view of history, in which Japan’s only important mistake in the second world war was to lose it; a rejection of the American-imposed constitution and its renunciation of war; and perhaps a revival of Shinto as a state religion. In helping Mr Abe, America is unintentionally also boosting forces that want to take Japan in a direction feared by many around the region, and indeed in the country itself.

正確ではないがざっと訳すと次のようになる。アメリカが安倍首相とつきあう上で難しいのは、安倍首相のナショナリストとしての主義(例えば、歴史修正主義、アメリカが押し付けた戦争放棄を含む憲法の排除、国家神道の復活などの)を政策から分離できない点だ。安倍首相を助けることによって意図的ではないにせよ周辺諸国と国内が恐れている方向に日本を向かわせる可能性がある。
アメリカは、日本が中国と対抗心を持っており、それに巻き込まれるのは得策ではないと考える人たちがいる。一方、中国の海洋進出にも懸念を持っており、地域大国である日本の協力が欠かせないという認識もある。日本はある意味で扱いにくい相手になっているのである。
今回の伊勢神宮では、オバマ大統領が特別扱いされていた。各国の首脳がオバマ大統領を出迎えたような絵が作られ、それを先導したのが強固な同盟国である日本だという図式を作ろうとしたわけだ。国内的には効果があったのかももしれないのだが、アメリカにとって「話ができる」同盟国は同じ言語を共有するイギリスとカナダなわけで、茶番にしかならないし、各国を平均的におもてなしすべきだという意味では礼儀にも反する。序列上は任期が一番長いメルケル氏が真ん中に来るべきなのだ。
日米首脳会談の後、オバマ大統領と安倍首相の二人での写真撮影はなかった。政府は時間がなかったと説明し、沖縄事件を配慮したものだと国内的には説明されている。しかし、実際にはオバマ大統領が安倍首相と距離を置きたがっているのかもしれない。日本に過剰なエンドースメントを与えてしまうと、周辺国を刺激するからだ。
今回は英米系のメディアだけをざっと読んだのだが、意外と冷静に日本の状況を見ている。よく左翼的な人たちが日本の悪口を触れ回っていると被害者意識たっぷりに主張する人たちがいるのだが、それは正しい物の見方とは言えない。世界のリーダーが崇敬の念を以て伊勢神宮に参拝したのだと純粋に喜ぶ分には構わないと思うのだが、世界の目が割と冷ややかに日本の行く末についての懸念を持っていることは知っておいた方がよいだろう。その上で日本の報道を読むとまた違った味わいがあるのではないかと思う。