昨日、停戦・休戦の期待も込めてお送りした速報は期待はずれに終わったようだ。どうやらブリンケン国務長官の時間稼ぎ発言だったようである。
高橋和夫さんはその後アルジャジーラを受けて安保理決議案は「即時停戦が重要とみなす」という弱い表現のようだと伝えている。
一方のネタニヤフ首相はラファ進行に向けてアメリカと決裂しても構わないと強行突破の構え。ラファの悲劇まで秒読みといったところなのかもしれない。
先日お送りした速報をお読みになりたい方は下記のリンクから辿っていただきたい。
昨日の高橋和夫さんのXでの投稿はアメリカが即時停戦を含んだ安保理決議案を準備しているとサウジアラビアのメディアに語ったというものだった。
これまでアメリカは安保理決議で即時停戦をブロックしているのだから、仮にこれが本当であれば大きなニュースとなる。
高橋さんは「これほど重要なことがさりげなく発表されるのはなぜなのだろう」と訝しんでいた。
その後高橋さんはアルジャジーラの記事に触れて「即時停戦は重要とみなす」という弱い表現であったのではないかと書いている。なるほど、これは大々的に発表できないはずだということがわかる。
すでにアメリカ合衆国は草案を蹴られておりこの線では周辺国との同意が得られる見込みはなさそうだとル・モンドも触れていた。サウジアラビアのメディアが勝手に楽観的な解釈をしたのか、あるいはブリンケン国務長官が曖昧で過度に楽観的な観測を記者に伝えたのかどちらかだという解釈が成り立ちそうである。
昨日の速報でも触れたようにネタニヤフ首相はアメリカ上院に対して直接根回しをしている。英語が堪能で人脈も豊富なネタニヤフ首相らしいやり方と言えるだろう。日本の政治家でこのようなことができる人は極めて限られている。意外と組織の中で誰を知っているのかということが重要な社会なのだ。
だが、これはおそらくバイデン政権をもはや信頼していないということを意味する。外交と防衛は大統領の専権事項だから大統領を無視するのは極めて危険だ。
共和党は要請を受け入れ民主党は断っていることから特にバイデン・民主党とネタニヤフ首相の距離が遠くなりつつあることがわかる。ブリンケン国務長官は当然民主党サイドなのだから交渉の行き詰まりを予測することはそれほど難しくない。
現在、ブリンケン国務長官はアラブサイドと交渉しておりその成果を携えてイスラエルと来週協議をするようだとCNNが書いている。依然アメリカ合衆国は独自の停戦交渉案にこだわりを持っているということがわかる。一方でイスラエル側はラファ侵攻の固い決意をバイデン大統領側に伝える意向だ。
ネタニヤフ首相はどのような意向を持っているのか。背景をおさらいしておきたい。
まず民主党重鎮のチャック・シューマー院内総務が「ネタニヤフ首相に代わる政権を選挙によって誕生させるべきだ」と主張した。バイデン大統領はオフレコで「ビビとは真剣な話し合いが必要だ」との発言をリークさせている。これに対応してネタニヤフ首相側は「バイデン大統領が自分を政権から追い落とそうとした」とアメリカの情報機関の調査を持ち出して主張している。
選挙が行われるとネタニヤフ首相はガンツ元国防大臣が選挙で対峙することになる。現在の情勢で選挙が行われればガンツ氏が有利というテレビ局の調査もある。ガンツ氏は戦時内閣の中から公然とネタニヤフ首相を批判している政敵だ。バイデン政権はこのガンツ氏をホワイトハウスに呼んでネタニヤフ氏の頭越しに交渉を行った。このときネタニヤフ首相は「イスラエルの首相は私だけ」と憤りを隠さなかった。
イスラエルのロン・ダーマー戦略問題担当大臣は「アメリカとの間に亀裂が生じたとしてもラファを制圧する」と宣言しておりネタニヤフ首相もアメリカの大統領とは意見の違いがあるといっている。おそらく来週の「交渉」でもその線は変わらないのではないか。
バイデン政権の和平交渉は行き詰まりを見せている。ネタニヤフ政権はバイデン政権への反発もありラファ侵攻に傾いている。
アメリカ・イスラエル双方とも「首脳頭越し」でライバル政党に接触をしており両国の関係は破綻寸前だ。イスラエルには英語が堪能な人が多く直接やり取りができる点もアメリカの議会でユダヤ系が有力なのも非常に悪い影響を与えていることがわかる。
外交軍事は大統領の専権事項なので本来ならネタニヤフ首相はバイデン大統領との交渉を優先すべきだ。政権の頭越しに議員たちを直接説得するなどあってはならない。
ただしネタニヤフ首相が「民主党政権がイスラエルへの支援を止めてもトランプ氏が大統領になれば全部チャラになる」と考えるならばラファ侵攻に踏み切る可能性もある。
だが、仮にそうなればこの問題はアメリカ合衆国の国際的な地位に大きな影響を与えるであろうし、アメリカにいるユダヤ系市民や多様性支持のアメリカ人の心は大きく揺れるであろう。つまり11月の大統領選挙にも少なからぬ影響を与えることになりそうだ。
忘れてはならないことだがこれは単なる政局ではない。大勢の罪のない人たちの命がかかっている大事な決断でもある。