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東アジア集団的自衛スキームとその違憲性

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まもなく、日米韓で総合演習が行われる。北朝鮮から飛んできたミサイルへの対応訓練のようだ。今回の訓練は情報連携だけであり火器の使用などは行わないようだ。日米韓の間には情報交換の協約が結ばれており、違法なことは何もない。北朝鮮のミサイルは差し迫った脅威であり、対応は正当化されるものと思われる。
将来的にはこのスキームを拡張したいと考えているようだ。朝日新聞は「将来は対中国向けにプレゼンスを獲得したい」という関係者の意図を伝えている。
情報共有だけであれば問題はなさそうだが、情報というのは持っているだけでは不十分だ。なんらかの「アウトプット」があるはずで、それは火器使用か警備行動である。つまり軍事行動なので、このスキームは実質的な集団的自衛スキームだということが言える。韓国にTHAADが導入されれば、日本はこのスキームに接続されることになる。例えは悪いがインターネットに接続すると海外の違法ポルノサイトを見ることができるようになるというのと同じである。親は見るなというだろうが、フィルタリング機能があるか罰則でもない限り、子供は覗くだろう。
北朝鮮が日本に宣誓しないままで韓国にミサイル攻撃を仕掛けると、日本は「巻き込まれる」形になる。これは集団的自衛権の行使であり、なおかつ日本への直接的な攻撃ではない。故に限定的な集団的自衛権の要件には当たらず、安倍首相は気にしないだろうが、政府の新見解に基づいても違憲となる。
しかし、日本人はこれを受け入れると思う。情報共有は火器使用ほどあからさまでないし、目に見えない。故に見て見ぬ振りが容易である。また、日本人は現状の変更を嫌う上に、変更された現状はあっさりと認めてしまうので、既成事実化されてしまえば異議を唱える人はそれほど多くならないだろう。
つまり、憲法の条文は空文化されるだろう。皮肉なことだが、護憲派の頑な態度は彼らの聖典である憲法第九条を意味のないものにしている。
では、これは良いことなのだろうかと考えるとそれも疑問が残る。
前回の「安保法制・戦争法」の議論では政治的リソースが浪費された。本来の政治課題は持続的な財政の運営と今後の経済スキーム作りだったはずなのに、人々の関心は安保法と立憲主義の議論だけだった。この見返りとして政府が作っているのが「一億総活躍云々」というやつで、いわばバラマキである。財政を脅かすだけでなく(なにせ財源がない「無責任」なプランなのだ)困窮している人たちにとって十分な割当でもない。みんなを満足させたいから、誰も満足させられないのである。
もちろん、東アジアや世界で「責任のある立場」を果たしてゆくこともできない。自衛隊は半ば犯罪者扱いされており、表立っては活動できないからだ。表立って活躍できないので「金を出せ」といわれ続け、トランプ議論で表出したように「アメリカが守ってやっているのに負担が少ない」などと言われるのである。
韓国はアメリカと中国の間を行ったり来たりしている。中国の担当者とすれば韓国が米軍の情報スキームとつながってから、再び取り込みたいはずだ。つまり、韓国は、日本の防衛上の巨大なセキュリティホールになり得る。また、韓国としても北朝鮮は暴走させないという確約さえあれば脅威を取り除くことができる。
軍事同盟は条約に基づいているのだが、日本と韓国の間にはそうした関係はない。しかし、アメリカはこの地域を一括管理したいという要請があるようだ。日本が加われば費用負担してもらえる可能性もある。「日本防衛のため」とさえ言っておけば、日本をATMのように使えるのだ。誰が何のための費用をどのくらい払っているのか誰にも分からない仕組みになっている。納税者にとってみればうれしいことではない。
こうした状況を生み出したのは間違いなく安倍政権だ。国内の議論を感情的に分断し、話し合いの成立しない頑な雰囲気を作った。そしてこれを追認しているのが無責任な政治家たちである。日米同盟への懸念が強まるのを恐れて「あれは限定的集団的自衛権であり、合憲の範囲内だ」などと言募るのである。
とはいえ、政治状況を嘆いていても仕方がない。政治家は多分直接の見返りがないと動かないだろうし、何かしたくても、目先の利権と無駄な権力争いが好きな人たちに阻まれて何もできないだろう。選挙に有利にならない都合の悪いことは言及すらしないことになる。
と、考えると日本人はこの状況を甘受せざるを得ないということになる。そもそも「違憲・合憲」分かれて議論することに現実的な意味は全く見いだせない。分かってやっていれば有害だし、分からないでやっているとすればそれは道化にしか過ぎない。
この程度の議論しかできない人たちが、国民の人権についてあたかも分かった顔をして議論しているわけで、それはもう政治的なカタストロフとしか言いようがない。

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